夫が聖女を溺愛中。お飾り妻になったので、魔道具をつくりにいきます

りんりん

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三十一、二人の企み

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「このような高価な酒を申し訳ないのう」

「僕、こんな上等なのは飲んだことないよ」

王子が四つのグラスに、琥珀色の液体を注ぎ二人にすすめる。

「初心者ならルーレットでどうじゃ」

「ルーレットなら、くるくる回すだけで簡単そうじゃない。
ねえ、レオ。そうしましょうよ」

わざとバカっぽい口調をだして、王子にしだれかかる。

「そうだな。オレは強運だから楽勝だろうな」

「まあ、喜しい。儲かったお金で世界一周に連れてってね」

長い耳をピクピクさせて、甘えて見せる。

「そうしようぜ。
仕事は執事に丸投げすればいいしな。ワクワクしてきたぞ」

調子をあわせて、王子が私の鼻の頭を指先で、ツンとついて微笑んだ。

演技とはいえ、とろけるような眼差しを向けられて、顔を赤くそめる。

「若い人はいいですのう。
わしなんか、死んでも妻と旅行なんか行きたくないわい」

お義父様が豪快に笑った。

さっきの言葉、お義母様に聞かせてあげたかったわ。

「年は関係ないよ。
僕は新婚なんですけど、あんな面白みのない妻とは、旅行なんか行きたくないですから」

面白みがなくて悪かったわね。

「じゃあ、どうしてそんな人と結婚したの」

怒気をおさえ、ゴットンに小首を傾げる。

「よくある政略さ。
優秀でいいヤツだけど、女としては最悪でね。
可愛げがまるでないんだ」

ゴクリと音をならして、ゴットンはお酒を飲み込んだ。

「あら。もうグラスが空っぽね。
さあ、飲んで飲んで」

トクトクとゴットンのグラスに、お酒を注いでゆく。

「よく見ると、ウサギさんは可愛いね。
まるでキャル嬢みたいだ」

「キャル嬢って誰なの」

「もうすぐ僕の妻になる人だよ。
実はさ。ここで儲けたお金で、神官を買収するんだ。
偽の神託をだしてもらう為にね。
僕は離婚して、聖女と結婚すべし、というお告げをもらうんだ。
いい忘れたけど、キャル嬢は聖女なのさ。
すごいだろ」

ゴットンは、自らグラスにお酒を注いでゆく。

「聖女はな。魔法で、どんなことだってできる。
それが息子の嫁になれば、わしは富も名誉も手に入れたも同然じゃ。
王族だって、ひれ伏させてやるわい」

目の前にいるのが王子と知らないお義父様は、得意気に話す。

「そんな都合のいい神官がいるのか」

黙って話しを聞いていた王子が、おもむろに口をひらいた。

「いるぞ。
神官の中でも一番偉いケッケ神官長は、腐っとるんじゃあ。
有力貴族から賄賂を受け取っては、私腹をこやしておる。
あのハゲも定年近い。
老後資金をためるのに、必死なんじゃろ」

まっ赤な顔をして、お義父様がけたたましく笑った。

「神官長のケッケに賄賂を渡して、聖女と結婚しなさい、という偽の神託をだしてもらうんだな。
私利私欲の為に」

念をおすように王子が、お義父様の目をまっすぐに見る。

「そうそうよくできました。ライオン殿」

それからベロベロに酔った二人は、すぐにテーブルにつっぷして、大きなイビキをかき始めた。

「思ったとおりケッケか。
これで証拠がとれたな。
さあ、これ以上ここに用はない」

王子が私の手をとり、ズンズンと店内を歩く。

賭場の出入口で会計をすますと、妖しい娼舘を通り抜け玄関から外へでた。 

「思ったより、時間がかかったみたいね」

すっかり夜はふけ、空にはたくさんの星が煌めいている。

少し歩いて、魔道具屋Mの店先へ戻ると、馬車が止まっていた。

「ルークに頼んでおいた。
夜も遅い。邸までおくってゆく」

魔法で元の姿に戻った私達は、向き合うように立つ。

「さあ」

王子は手を差し出す。

「ごめんなさい。今夜は、一人で帰りたいの」

「そうか。
じゃあルークを連れていってくれ。
その方が安心だからな」

空を見上げなから、しばらく思案していた王子が、優しい眼差しをむける。

「本当に色々ありがとうございました」

「例を言うのはこっちの方だ。
二人があんなに簡単に落ちるとは、予測外だったな。
アイリス。魔法を使ったのな」

「はい」

馬車の窓からコクリとうなずく。

「それから、アイリス。
おまえは、十分可愛いぞ。
あんなヤツの言ったことなんか、気にすることないぞ」

「ありがとう」

王子の思いやりに、胸がいっぱいになる。

「じゃあ、またな。
ルーク。アイリスを頼んだぞ」

王子が手をふると、馬が滑るように駆けだした。

三日後。

大聖堂で聖女のお披露目が行われる。

その日、私は王都で一番惨めな妻になるわけだ。
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