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二十六、使い魔ルーク

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別居生活になってから、一月が過ぎようとしている。

ゴットンのことだから、すぐに折れてくると思っていたけれど、事態は思ったより深刻のようだ。

最近は食事もすすまない。 

「アイリス。お食事の時間よ」

ベットに横たわっていると、アーサが肩をゆらす。

ゴットンがお義父様の執務室で生活するようになってから、アーサは一度もトランクへ戻っていない。

「もうそんな時間なのね。
けど、食欲が全然ないのよ」

アーサの白い手をそっと握り、銀色の瞳を見上げる。

「そうよね。食事のたびに、お義父様達にネチネチと皮肉を言われるものね。
食欲もうせるってもんよ」

「あの人達はね。
私を追い出して、ゴットンと聖女様を一緒にしようと必死なのよ」

「そうすれば、富と権力をコーエン家が握れるからでしょう。
けど勝手すぎるわ。
アーサは絶対許さない」

アーサの形のいい眉がつりあがる。

「聖女教育の役目がおわってから、今後の身の振り方をゆっくり考えるつもりよ」

「うん。わかった。
じゃあ、それまで食事はここでしよう。
今からアーサが、食事係に伝えてくる」

「ありがとう。アーサがいてくれて感謝ね。
私にとってアーサは魔道具じゃない。
親友よ」

そう言うとポロリと涙がこぼれる。

ふだんは気丈にふるまっているが、それなりに夢見ていた結婚生活が、こんな風で情けなくて仕方がないのだ。

「そんな風に言ってもらえると、魔道具冥利につきるわ」

アーサは照れたように頭をかいて、階下へおりていった。

そして、数分後。

息をはずませながら、アーサがあわただしく部屋へもどってくる。

「た、大変よ。アイリス」

「どうしたの。食事のことで叱られたの」

「そうじゃない。食事の手配は大丈夫よ。
『アイリス様の身体の調子が悪い』って言ったら、すぐに許可されたわ」

「じゃあ、なにが大変なの」

「ゴットンにね。獣人の愛人がいるらしいのよ。
厨房で使用人達に聞いたの」

「なんですって。嘘でしょ。
こないだまで、聖女様って騒いでいたのに」

「どうやら本当みたいよ。
何人もの目撃者がいるんだもの。
ゴットンはね。
お義父様と連れだって、夜な夜な獣人街のいかがわしい邸へ出入りしているんだって」

「はああ」

ベットから飛び降り、あれこれ考えながら部屋をウロウロを回る。

「何を考えているのかしらね。あのバカ」

唇を一文字に結んだ時だった。

窓から大きな鷲が飛んできて、テーブルにピタリと着地する。

「たしかレオン王子の使い魔ルークだったわね」

そう話かけると、立派な鷲はコクンとうなずく。

「ああそうだ。王子からの急の知らせだ。
詳しい事はこれを読め」

王子そっくりの口調でそう言うと、口から一枚の手紙を吐き出す。

『アイリス。ゴットンがやばい。
二人で偵察にいこう。
明日の夜九時、サントス街の魔道具屋Mの前で待っている』

手紙には、癖のある字でそう書かれていた。

「『わかりました』ってお伝えてください」

「承知」

鋭い目を光らせると、ルークはあっというまに空の彼方に消えてゆく。
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