26 / 43
二十六、使い魔ルーク
しおりを挟む
別居生活になってから、一月が過ぎようとしている。
ゴットンのことだから、すぐに折れてくると思っていたけれど、事態は思ったより深刻のようだ。
最近は食事もすすまない。
「アイリス。お食事の時間よ」
ベットに横たわっていると、アーサが肩をゆらす。
ゴットンがお義父様の執務室で生活するようになってから、アーサは一度もトランクへ戻っていない。
「もうそんな時間なのね。
けど、食欲が全然ないのよ」
アーサの白い手をそっと握り、銀色の瞳を見上げる。
「そうよね。食事のたびに、お義父様達にネチネチと皮肉を言われるものね。
食欲もうせるってもんよ」
「あの人達はね。
私を追い出して、ゴットンと聖女様を一緒にしようと必死なのよ」
「そうすれば、富と権力をコーエン家が握れるからでしょう。
けど勝手すぎるわ。
アーサは絶対許さない」
アーサの形のいい眉がつりあがる。
「聖女教育の役目がおわってから、今後の身の振り方をゆっくり考えるつもりよ」
「うん。わかった。
じゃあ、それまで食事はここでしよう。
今からアーサが、食事係に伝えてくる」
「ありがとう。アーサがいてくれて感謝ね。
私にとってアーサは魔道具じゃない。
親友よ」
そう言うとポロリと涙がこぼれる。
ふだんは気丈にふるまっているが、それなりに夢見ていた結婚生活が、こんな風で情けなくて仕方がないのだ。
「そんな風に言ってもらえると、魔道具冥利につきるわ」
アーサは照れたように頭をかいて、階下へおりていった。
そして、数分後。
息をはずませながら、アーサがあわただしく部屋へもどってくる。
「た、大変よ。アイリス」
「どうしたの。食事のことで叱られたの」
「そうじゃない。食事の手配は大丈夫よ。
『アイリス様の身体の調子が悪い』って言ったら、すぐに許可されたわ」
「じゃあ、なにが大変なの」
「ゴットンにね。獣人の愛人がいるらしいのよ。
厨房で使用人達に聞いたの」
「なんですって。嘘でしょ。
こないだまで、聖女様って騒いでいたのに」
「どうやら本当みたいよ。
何人もの目撃者がいるんだもの。
ゴットンはね。
お義父様と連れだって、夜な夜な獣人街のいかがわしい邸へ出入りしているんだって」
「はああ」
ベットから飛び降り、あれこれ考えながら部屋をウロウロを回る。
「何を考えているのかしらね。あのバカ」
唇を一文字に結んだ時だった。
窓から大きな鷲が飛んできて、テーブルにピタリと着地する。
「たしかレオン王子の使い魔ルークだったわね」
そう話かけると、立派な鷲はコクンとうなずく。
「ああそうだ。王子からの急の知らせだ。
詳しい事はこれを読め」
王子そっくりの口調でそう言うと、口から一枚の手紙を吐き出す。
『アイリス。ゴットンがやばい。
二人で偵察にいこう。
明日の夜九時、サントス街の魔道具屋Mの前で待っている』
手紙には、癖のある字でそう書かれていた。
「『わかりました』ってお伝えてください」
「承知」
鋭い目を光らせると、ルークはあっというまに空の彼方に消えてゆく。
ゴットンのことだから、すぐに折れてくると思っていたけれど、事態は思ったより深刻のようだ。
最近は食事もすすまない。
「アイリス。お食事の時間よ」
ベットに横たわっていると、アーサが肩をゆらす。
ゴットンがお義父様の執務室で生活するようになってから、アーサは一度もトランクへ戻っていない。
「もうそんな時間なのね。
けど、食欲が全然ないのよ」
アーサの白い手をそっと握り、銀色の瞳を見上げる。
「そうよね。食事のたびに、お義父様達にネチネチと皮肉を言われるものね。
食欲もうせるってもんよ」
「あの人達はね。
私を追い出して、ゴットンと聖女様を一緒にしようと必死なのよ」
「そうすれば、富と権力をコーエン家が握れるからでしょう。
けど勝手すぎるわ。
アーサは絶対許さない」
アーサの形のいい眉がつりあがる。
「聖女教育の役目がおわってから、今後の身の振り方をゆっくり考えるつもりよ」
「うん。わかった。
じゃあ、それまで食事はここでしよう。
今からアーサが、食事係に伝えてくる」
「ありがとう。アーサがいてくれて感謝ね。
私にとってアーサは魔道具じゃない。
親友よ」
そう言うとポロリと涙がこぼれる。
ふだんは気丈にふるまっているが、それなりに夢見ていた結婚生活が、こんな風で情けなくて仕方がないのだ。
「そんな風に言ってもらえると、魔道具冥利につきるわ」
アーサは照れたように頭をかいて、階下へおりていった。
そして、数分後。
息をはずませながら、アーサがあわただしく部屋へもどってくる。
「た、大変よ。アイリス」
「どうしたの。食事のことで叱られたの」
「そうじゃない。食事の手配は大丈夫よ。
『アイリス様の身体の調子が悪い』って言ったら、すぐに許可されたわ」
「じゃあ、なにが大変なの」
「ゴットンにね。獣人の愛人がいるらしいのよ。
厨房で使用人達に聞いたの」
「なんですって。嘘でしょ。
こないだまで、聖女様って騒いでいたのに」
「どうやら本当みたいよ。
何人もの目撃者がいるんだもの。
ゴットンはね。
お義父様と連れだって、夜な夜な獣人街のいかがわしい邸へ出入りしているんだって」
「はああ」
ベットから飛び降り、あれこれ考えながら部屋をウロウロを回る。
「何を考えているのかしらね。あのバカ」
唇を一文字に結んだ時だった。
窓から大きな鷲が飛んできて、テーブルにピタリと着地する。
「たしかレオン王子の使い魔ルークだったわね」
そう話かけると、立派な鷲はコクンとうなずく。
「ああそうだ。王子からの急の知らせだ。
詳しい事はこれを読め」
王子そっくりの口調でそう言うと、口から一枚の手紙を吐き出す。
『アイリス。ゴットンがやばい。
二人で偵察にいこう。
明日の夜九時、サントス街の魔道具屋Mの前で待っている』
手紙には、癖のある字でそう書かれていた。
「『わかりました』ってお伝えてください」
「承知」
鋭い目を光らせると、ルークはあっというまに空の彼方に消えてゆく。
11
お気に入りに追加
1,024
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる