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二十二、魔法のルール

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「聖女様。天井のいまわしい龍を追い払ってください」

すぶぬれになった皆が、跪き両手をあわせて聖女に願う。

「言われなくても、わかっているって」

聖女は自信ありげに胸をはる。

そして、シッシと犬を払うような仕草を龍にむけた。

すると龍は、透明になり消えていく。

「さすが聖女様だ。
永遠にここで暮らして欲しいよ」

いつもはノロマなゴットンが、素早く立ち上がり聖女を抱きしめた。

「てへへへ」

満更でもなさそうに聖女は、ペロリと舌をだす。

「ここからは、私の出番ね」

盛り上がっている二人を横目で見ながら、指をふり時間を巻きもどした。

「今朝、あたいの所に超高級な酒がいっぱい届けられたんだ。
だから、皆に飲ましてあげたんだよ。
センセーの分もあるよ」

大広間での様子を見て、あきれていると聖女がやってくる。

ここからの再スタートだ。

今回は、ゴットンなんかに声をかけない。

「極秘にしているのに、聖女様がここにいることが、なぜわかったんでしょうね。
不思議です。
私の部屋で、詳しい話を聞かせてください」

「うん、いいけどさ。
ゴットン氏達は、ここにほったらかしでいいの」

「大丈夫です。そのうち目がさめるでしょう。 
なにかあればハリスもいてくれるし。
では、いきましょう」

聖女の細い手首を、力まかせに握る。

「あのさ。センセー。ちょっと痛いんだけどさ」

聖女は、ブツブツ文句を言っていた。

けど、聞こえないフリをして、ひきずるように自室へ連れていく。

数分後には、扉の前についた。

「お帰りなさいませ」

すぐにアーサが扉を開く。

「なになに。こんな人いたっけ。
まさかゴットン氏の隠し妻だったりして」

聖女は口を両手にあてて、イヒヒと笑う。

「アーサは、私の専属侍女です。
下品な詮索は、やめていただきたいわ」

テーブルに聖女とむかいあって座り、眉をひそめる。

と同時に、爽やかな香りが漂ってきた。

「アイリス様。お茶をどうぞ。
そちらの方もね」

アーサが、聖女の前に乱暴にカップをおく。

「ありがとう、アーサ。
あとは、二人だけで話したいの」

目でアーサに合図をおくると、コクンとうなずいたアーサは、一瞬でトランクの中へ戻ってゆく。

「ちょっと。なになに。今の」

目を丸くして驚く聖女を、手で制して本題にはいる。

「そんな事より、聖女様がここにいるのが、どうして皆にわかってしまったんでしょう。
心あたりがあれば、正直に話してもらえませんか」

「いいよ。
あたいが、魔法で皆に知らせたからだよ」

なぜか聖女ははしゃいでいる。

「なんですって。自分でやったんですか」

拳で、テーブルを叩く。

「そうさ。
『めっちゃ可愛い聖女現る。目下コーエン伯爵家に滞在中!』て書いたチラシを、魔法で街中にバラまいたんだ」

「お披露目は、キチンと貴族のマナーを覚えてからだったでしょ。
忘れたのですか」

「覚えているよう。
けど、オジサンやゴットン氏達が、今のままのあたいの方が、いいって言うんだよ。
だから、貴族の世界に染まる前に、あたいの存在を公表したんだ。
悪かったかい」

カップに口を添えて聖女が、じーとこちらをうかがう。

「これが答えです」

目を閉じて、『チラシの回収』と唱えた。

「なに。これ。あたいのチラシが、舞い戻ってきてる」

聖女が驚くのも無理はない。

白いチラシが、まるで鳥のように飛びながら、部屋の窓から、なだれこんできたのだから。

「これで、この件はなかったことになりました。 
これからは、軽率な行動はおやめください」

「センセーも、すごい魔法が使えるんだ」

「いいですか。
魔法使いや聖女は、魔法の使い方の正しいルールを、守らなければいけません。 
これから、それについてお話ししましょう」

背筋のピンと伸ばし、厳しい視線を聖女にむけた。
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