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二十、だらしない人達
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「わかっているな。卵の魔力は期限つきだぞ」
「大丈夫です。だいたい三ヶ月ぐらいですよね。
それまでに、教育をおわらせたらいいんでしたね」
邸宅近くで馬をとめ、先におりた王子がさしだした手をとる。
「見かけによらず、心配性なんですね。
さっきから、ずーと同じ事ばかり」
ストンと地面に着地して、すぐに自分にむけて指をふった。
「まずは、汚れたドレスをなんとかします」
指先からこぼれる銀色のベールが、身体にからみつく。
そして、それが霧のように消えると、ドレスはすっかり元のままなのだ。
「やはり、以前より魔力があがっているようだわ」
ツヤツヤに光るドレスに、目を丸くした。
「やはり魔力は高い方が、いいよな。
だが魔法は使い手によっては、怖ろしい事になる」
「はい。
だから、魔力が強い人間には、しっかりしてもらわないと、一国が滅びる可能性にも繋がるんですよね」
「その通りだ。
だからあの暴れ女を、アイリスにたくした」
「光栄ですわ。
じゃあ、私はここから歩いて帰ります。
王子様がお見えになったら、コーエン伯爵達がやかましそうですから。
今回は、色々とありがとうございます」
「いや。こっちこそ、迷惑をかけるな。
それと、ずーと気になっていた事を、聞いてもいいか」
ヒラリと馬に飛び乗った王子は、そう言うと躊躇するような表情をする。
「はい。なんでしょうか」
「なぜ、オレと話す時に、そんな余所余所しい言い方になるんだ。
昔は、そんなじゃなかったぞ」
レオン王子は、私の目をまっすぐに見た。
「あの頃は、世間知らずな学生でしたから。
でも、今は十分な大人です。
あなたは、王子様で私はただの一貴族。
礼儀が必要だと思いました」
そう言って、キュッと口をむすぶ。
本当は違う。
王子と距離をとり、自分の気持ちを抑えるためだった。
「ふん。つまらないな。
護衛もつけずに、好き勝手やっているオレなんだぞ。
これからは、王子扱いはやめてくれないか」
レオン王子が、せつなそうに目を細める。
あの顔は反則物だ。
胸がズキリと痛む。
けど、私はすでに結婚をしているのだ。
どうにもならない。
「王子様は、気がついておられないのですか。
平民に変装した護衛兵士が、あちこちで見守っているのを。
その中に兄もいるので、私にはすぐわかりましたけど」
「嘘だろ。どこだ」
キョロキョロとあたりを見回すレオン王子を残して、ゴットンの待つ邸へ戻る足取りは重い。
ちなみに、さっきの護衛兵士の話は嘘だった。
王子は、そのへんの護衛兵士より強い。
だから王子が強く希望したときは、一人で外出させていると、お兄様は言っていた。
ごめんなさい。
でも、これでいいのよ。
気持ちがきりかわった頃に、ちょうど邸の玄関に到着した。
けれど、誰一人で出迎えがない。
「皆、どこえ消えたのかしら」
静まりかえった長い廊下を歩いていると、大広間から騒ぎ声がする。
「何をしているの」
勢いよく扉をあけると、顔をまっ赤にしたお義父様やお義母様、それに使用人達が騒いでいた。
「まさか。お酒を飲んでいるの」
こんな昼間から、一体どうしたのだろ。
首を傾げていると、手をふりながら聖女がやってきた。
「今朝、あたいの所に、超高級な酒がいっぱい届けられたんだ。
だから、皆に飲ましてあげたんだよ。
センセーの分もあるよ」
なんていうことなの。
「ねえ。ゴットン。私、今、帰ったの。
レオン王子様はね、私が、聖女様に謝罪する必要はないっておっしゃたのよ」
酒臭い息をして、床に伸びているゴットンの身体をさすっておこす。
「へー。謝罪って。それ何だよー」
ゴットンは、半分目を閉じたままでヘラリと笑う。
なんて、なんてだらしない。
あきれて物が言えなかった。
「大丈夫です。だいたい三ヶ月ぐらいですよね。
それまでに、教育をおわらせたらいいんでしたね」
邸宅近くで馬をとめ、先におりた王子がさしだした手をとる。
「見かけによらず、心配性なんですね。
さっきから、ずーと同じ事ばかり」
ストンと地面に着地して、すぐに自分にむけて指をふった。
「まずは、汚れたドレスをなんとかします」
指先からこぼれる銀色のベールが、身体にからみつく。
そして、それが霧のように消えると、ドレスはすっかり元のままなのだ。
「やはり、以前より魔力があがっているようだわ」
ツヤツヤに光るドレスに、目を丸くした。
「やはり魔力は高い方が、いいよな。
だが魔法は使い手によっては、怖ろしい事になる」
「はい。
だから、魔力が強い人間には、しっかりしてもらわないと、一国が滅びる可能性にも繋がるんですよね」
「その通りだ。
だからあの暴れ女を、アイリスにたくした」
「光栄ですわ。
じゃあ、私はここから歩いて帰ります。
王子様がお見えになったら、コーエン伯爵達がやかましそうですから。
今回は、色々とありがとうございます」
「いや。こっちこそ、迷惑をかけるな。
それと、ずーと気になっていた事を、聞いてもいいか」
ヒラリと馬に飛び乗った王子は、そう言うと躊躇するような表情をする。
「はい。なんでしょうか」
「なぜ、オレと話す時に、そんな余所余所しい言い方になるんだ。
昔は、そんなじゃなかったぞ」
レオン王子は、私の目をまっすぐに見た。
「あの頃は、世間知らずな学生でしたから。
でも、今は十分な大人です。
あなたは、王子様で私はただの一貴族。
礼儀が必要だと思いました」
そう言って、キュッと口をむすぶ。
本当は違う。
王子と距離をとり、自分の気持ちを抑えるためだった。
「ふん。つまらないな。
護衛もつけずに、好き勝手やっているオレなんだぞ。
これからは、王子扱いはやめてくれないか」
レオン王子が、せつなそうに目を細める。
あの顔は反則物だ。
胸がズキリと痛む。
けど、私はすでに結婚をしているのだ。
どうにもならない。
「王子様は、気がついておられないのですか。
平民に変装した護衛兵士が、あちこちで見守っているのを。
その中に兄もいるので、私にはすぐわかりましたけど」
「嘘だろ。どこだ」
キョロキョロとあたりを見回すレオン王子を残して、ゴットンの待つ邸へ戻る足取りは重い。
ちなみに、さっきの護衛兵士の話は嘘だった。
王子は、そのへんの護衛兵士より強い。
だから王子が強く希望したときは、一人で外出させていると、お兄様は言っていた。
ごめんなさい。
でも、これでいいのよ。
気持ちがきりかわった頃に、ちょうど邸の玄関に到着した。
けれど、誰一人で出迎えがない。
「皆、どこえ消えたのかしら」
静まりかえった長い廊下を歩いていると、大広間から騒ぎ声がする。
「何をしているの」
勢いよく扉をあけると、顔をまっ赤にしたお義父様やお義母様、それに使用人達が騒いでいた。
「まさか。お酒を飲んでいるの」
こんな昼間から、一体どうしたのだろ。
首を傾げていると、手をふりながら聖女がやってきた。
「今朝、あたいの所に、超高級な酒がいっぱい届けられたんだ。
だから、皆に飲ましてあげたんだよ。
センセーの分もあるよ」
なんていうことなの。
「ねえ。ゴットン。私、今、帰ったの。
レオン王子様はね、私が、聖女様に謝罪する必要はないっておっしゃたのよ」
酒臭い息をして、床に伸びているゴットンの身体をさすっておこす。
「へー。謝罪って。それ何だよー」
ゴットンは、半分目を閉じたままでヘラリと笑う。
なんて、なんてだらしない。
あきれて物が言えなかった。
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