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十七、魔鳥現れる

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「アイリス。これから、オレは自分の気持ちに正直になるぞ」 

耳元で、レオン王子がささやく。

「それはどんなお気持ちですか」

高鳴る鼓動をおさえて、冷静な声をだす。

ひょっとしたら、レオン王子は私を。

まさか、そんなことがあるわけない。

王子は、親友の妹として気にかけてくれているだけだ。

分不相応な考えは、慎まなくてはいけない。

「わからないのか。
アイリスには婚約者がいたので、あきらめていた気持ちだ。
そう言えばわかるか」

「わかりません」

「どうして、そんな嘘をつく」

「嘘なんかじゃありません」

「そうか。オレのことが嫌いだから、とぼけているんだな」

「それはないです。けど」

相手は王子で、私は既婚者なのだ。

何かあっては、いけない。

それにレオン王子は、浮気者で有名だ。

これも、ただの気まぐれでしかないはず。

「アイリスが、幸せに暮らしていれば黙っているつもりだった」

「あら、私は幸せですよ。
ゴットンは、聖女様を、妹みたいに可愛がっているだけですもん。 
なのに私が嫉妬して、ことを荒げてしまっただけです」

ぜひ、そうあって欲しい。

「それは本心なのか。オレの目を見て、答えるんだ」

レオン王子は、手で私の顎をもちあげる。

と同時に、突風がふきあれた。

回りの木々が、ザワザワと大きな音をたててしなる。

「キイイイーン。キイイーン」

奇妙な鳴き声がして、大きな黒い影が私達をおおう。

魔獣が現れたのだろうか。

肩を震わしていると、より強く王子に抱きしめられた。

「怖がりだな。そう心配するな。
たかが、魔鳥がやっつてきただけだ」

レオン王子が優しい声でそう言った時、鋭い剣のような嘴をもった魔鳥が、王子に襲いかかってきたのだ。

「危ない」

思わず目を閉じる。

「心配するな、オレは平気だ。
それより、アイリスの回りに結界を張ったから、そこを動くなよ。
オレはちょっと魔鳥さんと遊んでくるぜ」

レオン王子は片目をつぶり微笑むと、嘴をつかみ魔鳥の背中に飛びのった。

「おーい。ここは絶景だぞ」

額に手のひらを垂直に添えて、はしゃいでいる。

「ギャア、ギャア」

一方漆黒な身体に、瞳だけが赤い魔鳥は、王子を振り落とそうとあえいでいる。

「そう騒ぐな。あの木まで走っていこうぜ」

王子が、樹齢1000年はありそうな大木を指さすと、魔鳥はそこに向かって突進した。 

魔鳥が、大木と激突する寸前で、レオン王子はヒラリと飛び降りて、こちらに駆けよってくる。

「アイリス。ケガはないか」

「それは、こっちのセリフよ。
また、魔法を使ったのね」

「そうだ。魔鳥は死ぬと卵になるんだ」

その言葉通り、勢いよく木と衝突した魔鳥は、地面に落ちると大きな卵に変わった。

「さあ。アイリス。これを食うんだ」

そう言われても、黒い縞模様入りの灰色の卵は、どことなく不気味で食べる勇気がでない。
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