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十六、初めての恋人つなぎ
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しばらく走ったあと、馬は大きな森の前でピタリと足をとめる。
「着いたぞ」
ヒラリと馬から飛びおりたレオン王子が、手をさしだす。
「これが噂のフロストの森なのね」
ここフロストは、レモニ辺境伯の領地である。
フロストは、魔族の領土と隣あっていて、年がら年中小競り合いが繰り返されているという。
一度だけ社交界でお会いしたレモニ辺境伯の頬が、傷だらけなのはそういう理由なのだ。
「アイリス。この森をぬければ魔族の住処にでるぞ」
「この森が、魔族界と人間界の境界線のようなものね」
「そうだ。この森がどちらの物なのか、なかなかはっきりしないので、争いがたえない」
「それで多くの人が血を流すぐらいなら、こんな森サッサと魔族にあげればいいのに」
頬をふくらませた。
「この森はな。貴重な資源や宝の宝庫なんだ。
やすやすと魔族には渡せない。
もし、ここが奴らの手にわたれば、人間界はおしまいだろうな」
「ふうん。知らなかったわ」
「無理もない。これは極秘事項だからな」
「そうなのね。けど、そんな大事なことを、簡単にうちあけたらダメじゃない」
やはり王子は王子だ。
世間知らずね。
少し心配になって、レオン王子の顔を見上げる。
「そんな事はわかっている。
アイリスだから、特別に話したんだ」
精悍な顔で見下ろされた。
熱い口調、熱い視線に心臓の鼓動が高なる。
『特別』と言葉に、他意はないはずなのに。
「さあ、無駄話はここまでだ。
魔鳥を探しにいくぜ。
ひょっとしたら、魔族や魔獣が襲ってくるかもしれない。
アイリスはオレから離れるなよ」
そう言ってレオン王子は、ゴツゴツした大きな手で、しっかりと私の手を握りしめた。
これって恋人つなぎじゃない。
一人でうろたえて赤面する。
人生初の恋人つなぎは、ゴットンじゃなくて、レオン王子だった。
「おーい。魔鳥さんよ。悪いけど卵をわけてくれ」
王子は叫びながら、ゆっくりと森の奥へと進んでゆく。
うっそうとした森の獣道を、おずおずと歩いてゆくと、目の前に大きな蜘蛛がおりてきた。
きっとこれは毒蜘蛛だ。
「きゃああ」
黒と黄色の縞模様の蜘蛛が、襲いかかってきたのだ。
とっさに目をつぶって、悲鳴をあげる。
これで私もおしまいね。
そう思った瞬間、大蜘蛛は真っ赤に燃えて、ドサリと地面に落ちる。
「大丈夫か。アイリス」
「大丈夫よ。ねえ、いったいどういうことなの」
「オレが魔法を使ったんだ」
「けど、レオン王子様には、魔力がないはずよ」
「表向きはな。考えてもみろ。
イケメンで、頭脳明晰なオレが、魔力まで備えているとわかったら、王位継承がややこしくなるだろ」
「それで、使えないふりをしていたのね」
「ああ」
レオン王子はあっさりと認めた。
「少年の頃から、ずーとそうやって生きてきたのね。
なんだか可哀想」
「オレが可哀想なのか」
煌びやかな王宮の中で、ずーと孤独と戦っていた少年の影が、頭の中にうかんできてコクリとうなずく。
「私は王子様の秘密を、知ってしまったのね」
「だな。なぜか、アイリスには嘘がつけないんだ」
レオン王子はそう小さく呟くと、強く私を抱きしめる。
「変だな。こんな気持ちになったのは、初めてなんだ」
王子の分厚い胸に、顔をうずめた私も、心の中で返事をした。
それは私も同じです。
でも、けっして声にはだせない。
私はゴットンの妻なのだから。
「着いたぞ」
ヒラリと馬から飛びおりたレオン王子が、手をさしだす。
「これが噂のフロストの森なのね」
ここフロストは、レモニ辺境伯の領地である。
フロストは、魔族の領土と隣あっていて、年がら年中小競り合いが繰り返されているという。
一度だけ社交界でお会いしたレモニ辺境伯の頬が、傷だらけなのはそういう理由なのだ。
「アイリス。この森をぬければ魔族の住処にでるぞ」
「この森が、魔族界と人間界の境界線のようなものね」
「そうだ。この森がどちらの物なのか、なかなかはっきりしないので、争いがたえない」
「それで多くの人が血を流すぐらいなら、こんな森サッサと魔族にあげればいいのに」
頬をふくらませた。
「この森はな。貴重な資源や宝の宝庫なんだ。
やすやすと魔族には渡せない。
もし、ここが奴らの手にわたれば、人間界はおしまいだろうな」
「ふうん。知らなかったわ」
「無理もない。これは極秘事項だからな」
「そうなのね。けど、そんな大事なことを、簡単にうちあけたらダメじゃない」
やはり王子は王子だ。
世間知らずね。
少し心配になって、レオン王子の顔を見上げる。
「そんな事はわかっている。
アイリスだから、特別に話したんだ」
精悍な顔で見下ろされた。
熱い口調、熱い視線に心臓の鼓動が高なる。
『特別』と言葉に、他意はないはずなのに。
「さあ、無駄話はここまでだ。
魔鳥を探しにいくぜ。
ひょっとしたら、魔族や魔獣が襲ってくるかもしれない。
アイリスはオレから離れるなよ」
そう言ってレオン王子は、ゴツゴツした大きな手で、しっかりと私の手を握りしめた。
これって恋人つなぎじゃない。
一人でうろたえて赤面する。
人生初の恋人つなぎは、ゴットンじゃなくて、レオン王子だった。
「おーい。魔鳥さんよ。悪いけど卵をわけてくれ」
王子は叫びながら、ゆっくりと森の奥へと進んでゆく。
うっそうとした森の獣道を、おずおずと歩いてゆくと、目の前に大きな蜘蛛がおりてきた。
きっとこれは毒蜘蛛だ。
「きゃああ」
黒と黄色の縞模様の蜘蛛が、襲いかかってきたのだ。
とっさに目をつぶって、悲鳴をあげる。
これで私もおしまいね。
そう思った瞬間、大蜘蛛は真っ赤に燃えて、ドサリと地面に落ちる。
「大丈夫か。アイリス」
「大丈夫よ。ねえ、いったいどういうことなの」
「オレが魔法を使ったんだ」
「けど、レオン王子様には、魔力がないはずよ」
「表向きはな。考えてもみろ。
イケメンで、頭脳明晰なオレが、魔力まで備えているとわかったら、王位継承がややこしくなるだろ」
「それで、使えないふりをしていたのね」
「ああ」
レオン王子はあっさりと認めた。
「少年の頃から、ずーとそうやって生きてきたのね。
なんだか可哀想」
「オレが可哀想なのか」
煌びやかな王宮の中で、ずーと孤独と戦っていた少年の影が、頭の中にうかんできてコクリとうなずく。
「私は王子様の秘密を、知ってしまったのね」
「だな。なぜか、アイリスには嘘がつけないんだ」
レオン王子はそう小さく呟くと、強く私を抱きしめる。
「変だな。こんな気持ちになったのは、初めてなんだ」
王子の分厚い胸に、顔をうずめた私も、心の中で返事をした。
それは私も同じです。
でも、けっして声にはだせない。
私はゴットンの妻なのだから。
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