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十、侍女人形アーサ
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まさかゴットンが、一瞬でかわってしまうなんて。
全身から力がぬけて、ベッドになだれこむ。
「ゴットンにアイリスは、豚に真珠のようだ。
すぐに婚約破棄をして、僕と結婚してほしい」
貴族学園時代は、なんどこんな風に求愛されただろう。
しかも、相手はゴットンなんかより、数倍優秀で、家柄も良い生徒ばかりだった。
「私は婚約してたんだもん。
心を強くもって、お断りしたのよ」
当時を思いおこして、甘酸っぱい気持ちになる。
「アイリスらしくないわね。
終わったことを、クヨクヨするなんて。サッサとおきて、いつものあなたに戻るのよ」
「そうよね」
そう返事をして、上半身をおこしてからハッとした。
「アーサったら、どうやってトランクから出てきたの」
目を丸くして、すましているアーサに尋ねる。
「自分でトランクを開けて、でてきたのよ」
紺のワンピースに、フリルのついた白いエプロン。
実家の侍女服を着たアーサは、ツインテールにした銀色の髪をゆらして、ドヤ顔をした。
「自分で?」
「そうよ。
今までは、必要なかったからしなかっただけで、アーサにはそういう能力もあるのよ」
銀色の瞳、ふっくらとした小さな唇、私と同じ位の背丈のアーサは、どこからみても、可愛らしい人間にみえる。
「忘れたの。アーサはただのお人形じゃない。
アーサを守る為に、お兄様が特注した魔道具なんだから、当たり前でしょ」
「そうだったわね。
こんなレベルの高い魔道具を作れるって、どんな人なのかしら」
「私の口からは詳しくは言えないけど、イケメンの大天才よ」
そう言うと、アーサは真っ白な頬を、バラ色に染めた。
「まあ。ひょっとして、アーサは、その人のことが好きなのかしら」
「あわあわあわあわ。
変なことを言わないでよ」
動揺するアーサに、笑い声をあげる。
おかげで、もやっとした気分が、晴れて
いく。
「いい笑顔ね。その調子よ。
ゴットンが、戻ってきても責めてはダメよ。
あんなキャルなんて、アイリスの敵じゃないもん」
「アーサ。聖女様を呼び捨てにするなんて」
「いいの。本人はいないんだもん。
聖女だなんてもち上げられていても、しょせん国の瘴気よけの道具でしょ。
ゴットンは、あのタイプの女が珍しいから、かまいたいだけよ」
アーサは、話しながらペパーミント茶をいれてくれた。
「さあ、召し上がれ。アーサは、いつもアイリスの味方よ。
困ったことがあれは、なんでも相談して欲しいの」
カップに口をあてれば、すっきりした香りが鼻孔をくすぐる。
「頼もしいわ」
目頭が熱くなった時、ノック音と共に、扉が開く。
「ただいま、僕の愛しい妻」
ふらついた足でゴットンが、部屋へ入ってきた。
「ひょとして、どこかでお酒でも飲んだの」
「そう。聖女様の所でね」
「なんですって」
私とアーサの声がかさなる。
「ありゃ。二人分の声がする」
ゴットンは、間が抜けた顔をした。
「酔ってるから、そう聞こえるのよ」
「ああ。そっか」
ゴットンが目を閉じる。
「このバカに、はやく目をさましてもらわなくてはね」
アーサが指をパチンと弾くと、ゴットンの額に、大きな石が激突してすぐに消えた。
「あいてててて」
ゴットンは、額に手をあてて顔をしかめる。
「じゃあね」
黒い笑みを浮かべたアーサは銀色の粒子に姿を変えて、一瞬でトランクの中へもどってゆく。
全身から力がぬけて、ベッドになだれこむ。
「ゴットンにアイリスは、豚に真珠のようだ。
すぐに婚約破棄をして、僕と結婚してほしい」
貴族学園時代は、なんどこんな風に求愛されただろう。
しかも、相手はゴットンなんかより、数倍優秀で、家柄も良い生徒ばかりだった。
「私は婚約してたんだもん。
心を強くもって、お断りしたのよ」
当時を思いおこして、甘酸っぱい気持ちになる。
「アイリスらしくないわね。
終わったことを、クヨクヨするなんて。サッサとおきて、いつものあなたに戻るのよ」
「そうよね」
そう返事をして、上半身をおこしてからハッとした。
「アーサったら、どうやってトランクから出てきたの」
目を丸くして、すましているアーサに尋ねる。
「自分でトランクを開けて、でてきたのよ」
紺のワンピースに、フリルのついた白いエプロン。
実家の侍女服を着たアーサは、ツインテールにした銀色の髪をゆらして、ドヤ顔をした。
「自分で?」
「そうよ。
今までは、必要なかったからしなかっただけで、アーサにはそういう能力もあるのよ」
銀色の瞳、ふっくらとした小さな唇、私と同じ位の背丈のアーサは、どこからみても、可愛らしい人間にみえる。
「忘れたの。アーサはただのお人形じゃない。
アーサを守る為に、お兄様が特注した魔道具なんだから、当たり前でしょ」
「そうだったわね。
こんなレベルの高い魔道具を作れるって、どんな人なのかしら」
「私の口からは詳しくは言えないけど、イケメンの大天才よ」
そう言うと、アーサは真っ白な頬を、バラ色に染めた。
「まあ。ひょっとして、アーサは、その人のことが好きなのかしら」
「あわあわあわあわ。
変なことを言わないでよ」
動揺するアーサに、笑い声をあげる。
おかげで、もやっとした気分が、晴れて
いく。
「いい笑顔ね。その調子よ。
ゴットンが、戻ってきても責めてはダメよ。
あんなキャルなんて、アイリスの敵じゃないもん」
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ゴットンは、あのタイプの女が珍しいから、かまいたいだけよ」
アーサは、話しながらペパーミント茶をいれてくれた。
「さあ、召し上がれ。アーサは、いつもアイリスの味方よ。
困ったことがあれは、なんでも相談して欲しいの」
カップに口をあてれば、すっきりした香りが鼻孔をくすぐる。
「頼もしいわ」
目頭が熱くなった時、ノック音と共に、扉が開く。
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「酔ってるから、そう聞こえるのよ」
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