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六、兄からの魔道具

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「聖女殿。今日は、わしが邸の案内をしよう」

「きゃあー。うれしい!」

聖女は、とびあがってお義父様に抱きついた。

「そーか。そーか。可愛いのう。
では、まずは庭園から」

目尻を思いきり下げて、お義父様は、聖女と花の咲き乱れる庭園へ歩いてゆく。

「お義父様。くれぐれもお義母様に、お気をつけてくださいね」

小さくなる背中に、嫌みを言いながら手を振ると、自分の部屋へむかう。

広い邸の二階に、私達夫婦の部屋はあった。 

ころばないように、ドレスの裾をつまみあげ、螺旋階段をのぼってゆく。

のぼりきると、すぐ右手にある花のリースを飾った扉を、ゆっくりと開く。

「ただいま」

ゴットンは、今日の夕方帰宅予定だ。

部屋は、空っぽとわかっているのに、自然に言葉がでてしまう。

習慣っておそろしいわね。

思ったとおり部屋は、空っぽだ。

部屋の真ん中には、猫足の丸テーブルと、お揃いの椅子。

窓際には、大きなベットが一つ。

「なんか疲れてしまったわ」

ベッドの上に腰をかけて、下に手を伸ばし、茶色いトランクを探す。

トランクは、嫁ぐときに兄から渡されたものだ。

「どんなに愛しあっていても、夫婦生活とは疲れるものだよ。
そんな時は、これが役にたつかもしれない。
私からの結婚祝いだ。受け取って欲しい」

「ふふふ。独身のくせして、お兄様ったら、結婚生活にくわしいのね」

「既婚の友人から、あれこれ聞かされてね。
耳年増なんだ」

「だから、こわくて、なかなか結婚しないのね。 
ご心配なく。私達は大丈夫ですから。
でも、せっかくのお兄様の気持ちですもん。 
ありがたく、いただきます」

「ああ。トランクを開ける日が、こないことを祈ってるよ」

お父様は、仕事一筋の無骨な人だった。

けどお兄様は、要所要所で、母のような気使いを見せてくれるのです。

お兄様は、今は王宮で、第二王子レオン様の護衛騎士をしている。

学園時代は、お兄様とレオン様は、何かにつけて良きライバルで親友だった。

それで、卒業のとき、王子直々に護衛騎士を頼まれたのだ。

騎士として働きはじめてからは、より筋骨隆々になりたくましくなったけど、優しい顔立ちは、昔のままだった。

黒髪の短髪、スッキリした切れ長の目、
優雅な雰囲気なくせに、腕のたつ騎士である。 

ギャップ燃えした令嬢達は、数知れない。

「あの時、ああ言ったけど、やっぱり結婚生活って大変だわ。
さすがお兄様ね」

パチンとトランクを開いて、今日はどれでストレス解消しようかと、中身を確認する。

●しゃべる侍女人形アーサ

この人形は、トランクからだすと、人間の大きさになり、話したり、働いてくれる。

お義母様の指示で、実家から専属侍女を連れてこれなかった(いつもの占いのせいで)私は、アーサにいやされるのだ。

●姿の消せるマント 

フードがついた黒いマントで、文字どおり、これをはおると姿が見えなくなる。

疲れたときは、これを着て庭園を散歩するのだ。

嫁じゃなくて、ただのアイリスに戻りたいときは、これで息抜きよ。

●瞬時に眠れるお茶

小さなガラスの瓶に入っている、ピンク色した液体。

瓶が空っぽになったら、自然に補給される優れ物。

あれこれ考えて、眠れない夜が続いたら、お世話になってます。

ただし、飲み過ぎると、副作用があるので注意する。

トランクには、その他、色々な魔道具が詰められていた。

小さく見えるけど、トランクの収納力は無限なのだ。

「アーサはどこかな。グチを聞いてもらいたいんだけど」

トランクの中を、まさぐっていると、勢いよく扉が開く。

「ただいま。早かっただろ。
仕事を切り上げて帰ってきたんだ」

バタンという音とともに、ゴットンが部屋に飛び込んできた。

「はやくアイリスの顔をみたくてさ」

早口でいうと、ゴットンは私を抱きしめる。

「まあ。驚いたわ」

ゴットンには、トランクのことは秘密にしていた。

素早くベットの下に返すと、ゴットン
のキスを頬でうける。

アーサと遊べなかったを、ちょっと残念に思いながら。
    
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