夫が聖女を溺愛中。お飾り妻になったので、魔道具をつくりにいきます

りんりん

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四、あたいは聖女

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「初めまして。光魔法が使えるので、聖女になったキャルでーす。
最初はさ。
『これで食いっぱぐれないぞ』って、喜んでたんだけど、偉い人の世界って、色々と窮屈でへこんじゃた。
今度は、しばらく、ここでお世話になるらしいね。
お手柔らかに頼むね。
で、私のセンセーってのは誰なのさ。
あ、わかった。このオバサンだな」

私達三人の前に立って、雑な挨拶をした聖女は、お義姉様に手を差し伸べた。

「お、オバサンって。ちょっとね。あなた」

当然、お義姉様はまっ赤になって、怒っています。

「え。どー見てもオバサンなのに、オバサンって呼んじゃまずいんだ。
ほんと貴族様って、わかんない。
で、なんて呼べばいいの」

聖女は、ペロリと舌をだす。

「わああ」

その瞬間、聖女につきそってきていた王宮の騎士が、低い声をあげる。

鍛えられた身体の上にある整った顔が、一気に青ざめてゆく。

たいへん。

この凍り付く場の空気を、なんとかしなくては。

「聖女様のお世話をさせていただくのは、この私アイリスです。
その方は、私の自慢のお義姉様なのよ」

あわてて、聖女にペコリと頭をさげる。

「あ、そっち。あんたはさ、一番若そうだから、センセーじゃないってふんだんだ。
かといって、バアさんには、あたいの世話は無理っぽいから、消去法であのオバサンかなって思ったわけさ」

一気にそう言うと、聖女は大口をあけて、笑い声をたてた。

「ちょっと、あなた失礼ざますよ。
私の事を、あしざまにいうなんて」

扇を口にあてて、今度はお義母様が、黄色い声をだす。

「バアさん、『あしざま』って、どういう意味なのさ。教えてくんない」

聖女は、大きな瞳をクリクリさせて、お義母様の顔をのぞきこんだ。

もし、彼女が、聖女じゃなければ、バシリと扇で、頬をぶたれていただろう。

「聖女様。あとで、ゆっくり、私がお教えしますね。
さあ、聖女様のお部屋へ案内しますわ。
では、お義母様、お義姉様、失礼します」

あわてて、聖女の腕をつかんで、邸の奥へ歩き始める。

「奥様、よろしくお願いいたします。
では、私はここで失礼します」

さきほどの騎士が、ホットしたような表情をして踵をかえす。

「あれ、騎士さんは帰っちゃうんだ。
キャル、さみしくなるよう」

聖女は顔を曇らせると、私の腕をふりほどき、騎士の方へかけていった。

う、嘘でしょ。

「騎士さんの礼儀正しさには、あたい、ずーと感動してたんだ。
色々ありがとね」

聖女は、少し頬をあからめて、騎士の手をとり、なぜか自分の胸におしあてた。

それを見て、お義母様とお義姉が、どうじに悲鳴をあげる。

「おやめください。その様なことは。
では、私は急ぎますので、これで失礼いたします」

若い騎士は、まっ赤になってうろたえている。

「めっちゃ、カワイイ」

そんな騎士に、キャッキャッと声をあげる聖女に、私は長い長いため息をつきました。

「邸に、珍獣がやってきたざます。
一体誰のせいざんしょ」

お義母様の嫌味を、耳元で聞きながら。
 
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