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七十二、魔道具のオルゴールに願う
しおりを挟む新撰組と言いかけて、言いなおす。
……危ない。この年だったら、まだ新撰組ではなく、壬生浪士組だ。
歴史の授業で、図書館の本で、大学の資料で、覚えたことをフル活用する。
脳みその奥底から、知識を引っ張ってくる。
年号、出来事。
…………文久3年、1863年、3月12日。
その日は。
「…………何、言ってるの? 璃桜。俺たちまだ、名前なんてないよ?」
奇しくも、松平容保公から“壬生浪士組”の名を賜る、その日。
何故、この歴史的瞬間に立ち会っているのだろうか。
今までの私なら、新撰組の誕生に立ち会えてものすごく感動していたかもしれない。
いや、別に感動していないわけじゃない。
憧れの新撰組に逢える期待で、心の半分は感動で埋め尽くされて今にも倒れそうだ。
けれど。
目の前にいる、武士の恰好をした宗次郎を見つめる。
貴方が、その組に関係していることは、とても、嬉しくない。
何故、よりにもよって、1863年の京なの。
どうして、そうちゃんが、後に新撰組になる、壬生浪士組の隊士なの。
どこかまた違うところなら、そっと静かに暮らしながら平成に変える道を探すこともできるのに。
そこで、ふと気が付く。
………抜ければ、いい?
そうちゃんが、大事な役職なわけない、だって、平成から来たんだから。
しかも、宗次郎なんて人、新撰組にいなかった。
だったら、今のうちに抜けることも出来る?
抜けたとて、歴史を変えてしまうことにはならないのならば。
「………よし」
突然、意気込んだ声をだしたからだろうか、宗次郎はきょとんと首を傾げて名を呼ぶ。
「…………璃桜?」
「ごめん、そうちゃん、なんでもない。行こう」
「ならいいけど」
そこで、ぱっと私の前に回り込み、私と全く同じ薄茶の瞳で見つめて。
「………何かあったら、ちゃんと言うんだよ?」
そう言って、優しく笑った。
「うん」
その笑みに、宗次郎がここにいてくれて本当によかったと、心から安堵した。
「よし、じゃあ行こう? あ、待った、璃桜、その恰好目立つから、少しの距離だけど隠そう。ちょっと臭いけどこれ着てて」
そう言ってリュックを取り上げられ、代わりにばさりと肩に掛けられたのは、濃紺の羽織。
久々に包まれる宗次郎の香りに、どくりと心臓が鼓動した。
誤魔化すように、ぎゅ、と羽織を握りしめた。
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