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六十八、クーコの実
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「こんにちわ。
あなたとお話ししたくて、今日も来てしまいました」
扉を開けるとカーテシをとる。
「ローズ。
いつも思っているんだけど、その挨拶とても優雅で素敵だわ」
エレーナ王妃様はゆっくりとベッドから起き上がると、お気に入りのブーニャンを抱いて目を細めた。
「ありがとうございます。
でも、あなたの方がきっと上手にできるはずだわ」
「嫌だわ。
私はあんな挨拶したこともないのよ」
「でも、そんな気がするんです。
試しに、一度だけ見せてくれませんか。
皆もそう思うでしょ」
周りにいるグラスとユリア騎士に目で合図を送ると、二人もコクンとうなずいてくれる。
「おかしな人達ね。
じゃあ、やってみるけど期待しないで下さいよ」
そう言うと王妃様は、ベッドからおりて床に立つ。
「これでいいのかしら」
エレーナ王妃様は、古ぼけたスカートを手でつまみ膝をおる。
「こんな完璧なカーテシ見たことがないわ」
目を丸くして驚いていると、グラスとユリア騎士の拍手の音が聞こえてきた。
華やかなドレスや、宝石など身につけていないのにエレーナ王妃からは、気品があふれている。
「ありがとう。
どうしてかしら、身体が自然に動いたの。
ぼんやりとだけど、何かを思い出しそうなのよ」
そう言うと王妃様は、指でこめかみを押さえた。
ひょとしたら、記憶を取り戻せるかも。
淡い期待を抱いて、静かに王妃様を見守っていたけれど、やはり無理だったようだ。
「残念だわ。
何も思い出せない」
か弱い声をだして、エレーナ王妃様は長い睫を伏せる。
「焦らないで下さい。
そうそう、今日はパンケーキを焼いてきたんです。
よかったら、皆で一緒にいただきましょう」
言いおわらないうちから、グラスが部屋の机にテキパキとお菓子を並べてくれた。
「さあ」
王妃様の手をとり椅子に誘導する。
「あら、とても美味しそうね。
このポツンと赤い色のは何かしら」
王妃様は、楽しげにパンケーキに視線を移す。
「クコの実です。
その他にも、ベリー、刻んだハーブの葉を混ぜてみました。
これは全部、私が義母から引き継いだ薬草園で育てたものなんです。
クコの実は」
その効用を言おうとすると、エレーナ王妃様が口をはさんだ。
「ドライアイにいいのよね」
「よくご存じですね」
「ふと口からでたの。
きっと、以前私も薬草が好きだったのよ」
そうです。その通りです。
薬草園を営まれるほどに。
この調子だと、今度こそ記憶が戻るかもしれない。
密かに、胸をふくらませる。
「じゃあ、いただきます」
エレーナ王妃様は、パンケーキをフォークで食べやすい大きさに切ると、その一つを口へ運ぶ。
「とても懐かしい味がするわ」
ゆっくりと、パンケーキを味わっていた王妃様が、ポツリと呟いた。
「かつて私も、クコの実を育てていたような気がするの」
「きっとそうですよ」
両手をギュツと握って、つい大きな声をはりあげてしまう。
「もう少しで何かを思い出せそうなのに、その先がなかなか難しいわ」
エレーナ王妃様が嘆いた時だった。
突然、荒々しく扉が開かれたのは。
「お母様。
生きておられたのですね」
耳に届いたのはレオ王の力強い声だった。
驚いて扉に視線を向けると、そこにあるのは麗しい王様の姿だ。
どうして、ここに王様が。
首を傾けた時、エレーナ王妃様がガタリと机を揺らせて立ち上がった。
「レオなのですね」
王妃様は泣きながら小走りに、レオ王の方へ向かう。
「あなたに、ずーと謝りたかったのです。
あなたに危害が及ばないように、レイサ第一王子ばかり気にかけてしまったの。
淋しい思いをさせたでしょ」
そう言うと王妃様は、レオ王を抱きしめた。
「お母様。そんなことはありません」
きっぱりと王様は否定する。
けれど、レオ王のエメラルドの瞳には涙があふれていた。
それはまるで美しい湖のように、静かな光をたたえていたのだ。
あなたとお話ししたくて、今日も来てしまいました」
扉を開けるとカーテシをとる。
「ローズ。
いつも思っているんだけど、その挨拶とても優雅で素敵だわ」
エレーナ王妃様はゆっくりとベッドから起き上がると、お気に入りのブーニャンを抱いて目を細めた。
「ありがとうございます。
でも、あなたの方がきっと上手にできるはずだわ」
「嫌だわ。
私はあんな挨拶したこともないのよ」
「でも、そんな気がするんです。
試しに、一度だけ見せてくれませんか。
皆もそう思うでしょ」
周りにいるグラスとユリア騎士に目で合図を送ると、二人もコクンとうなずいてくれる。
「おかしな人達ね。
じゃあ、やってみるけど期待しないで下さいよ」
そう言うと王妃様は、ベッドからおりて床に立つ。
「これでいいのかしら」
エレーナ王妃様は、古ぼけたスカートを手でつまみ膝をおる。
「こんな完璧なカーテシ見たことがないわ」
目を丸くして驚いていると、グラスとユリア騎士の拍手の音が聞こえてきた。
華やかなドレスや、宝石など身につけていないのにエレーナ王妃からは、気品があふれている。
「ありがとう。
どうしてかしら、身体が自然に動いたの。
ぼんやりとだけど、何かを思い出しそうなのよ」
そう言うと王妃様は、指でこめかみを押さえた。
ひょとしたら、記憶を取り戻せるかも。
淡い期待を抱いて、静かに王妃様を見守っていたけれど、やはり無理だったようだ。
「残念だわ。
何も思い出せない」
か弱い声をだして、エレーナ王妃様は長い睫を伏せる。
「焦らないで下さい。
そうそう、今日はパンケーキを焼いてきたんです。
よかったら、皆で一緒にいただきましょう」
言いおわらないうちから、グラスが部屋の机にテキパキとお菓子を並べてくれた。
「さあ」
王妃様の手をとり椅子に誘導する。
「あら、とても美味しそうね。
このポツンと赤い色のは何かしら」
王妃様は、楽しげにパンケーキに視線を移す。
「クコの実です。
その他にも、ベリー、刻んだハーブの葉を混ぜてみました。
これは全部、私が義母から引き継いだ薬草園で育てたものなんです。
クコの実は」
その効用を言おうとすると、エレーナ王妃様が口をはさんだ。
「ドライアイにいいのよね」
「よくご存じですね」
「ふと口からでたの。
きっと、以前私も薬草が好きだったのよ」
そうです。その通りです。
薬草園を営まれるほどに。
この調子だと、今度こそ記憶が戻るかもしれない。
密かに、胸をふくらませる。
「じゃあ、いただきます」
エレーナ王妃様は、パンケーキをフォークで食べやすい大きさに切ると、その一つを口へ運ぶ。
「とても懐かしい味がするわ」
ゆっくりと、パンケーキを味わっていた王妃様が、ポツリと呟いた。
「かつて私も、クコの実を育てていたような気がするの」
「きっとそうですよ」
両手をギュツと握って、つい大きな声をはりあげてしまう。
「もう少しで何かを思い出せそうなのに、その先がなかなか難しいわ」
エレーナ王妃様が嘆いた時だった。
突然、荒々しく扉が開かれたのは。
「お母様。
生きておられたのですね」
耳に届いたのはレオ王の力強い声だった。
驚いて扉に視線を向けると、そこにあるのは麗しい王様の姿だ。
どうして、ここに王様が。
首を傾けた時、エレーナ王妃様がガタリと机を揺らせて立ち上がった。
「レオなのですね」
王妃様は泣きながら小走りに、レオ王の方へ向かう。
「あなたに、ずーと謝りたかったのです。
あなたに危害が及ばないように、レイサ第一王子ばかり気にかけてしまったの。
淋しい思いをさせたでしょ」
そう言うと王妃様は、レオ王を抱きしめた。
「お母様。そんなことはありません」
きっぱりと王様は否定する。
けれど、レオ王のエメラルドの瞳には涙があふれていた。
それはまるで美しい湖のように、静かな光をたたえていたのだ。
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