お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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六十七、生きていた王妃3

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「先代のレオナ王様とエレーナ王妃様は、馬車の事故でお亡くなりになったと言われていますけれど、王妃様だけは生きておられたのですね。
施設長によると、施設に連れてこられた時は、ボロボロの服をお召しになっていたそうです。
不思議ですね。
どこかで追い剥ぎにでもあったのでしょうか。
王妃様は記憶をすっかりなくされているので、確かめようもありませんね。
それにしても、本当にお気の毒でしかたありません」

そう言うとグラスは、目に涙をうかべて長いため息をつく。

施設でエレーナ王妃様のことを知って、数日たった今でもこうなのだ。

「グラス。
その話をするのは、朝から三回めよ。
いくら嘆いても、エレーナ王妃様の記憶が戻るわけないでしょ」

「そりゃそうですけど。
いつになくローズ様は、しっかりしてるんですね」

「そうじゃないわ。
嘆く時間がおしいだけよ。
一刻も早く、エレーナ王妃様に元に戻って欲しいから」

あの日決めたのだ。

エレーナ王妃様が記憶を取り戻すまでは、レオ王に王妃様が生きていることを伝えないと。

グラスでもあの状態なのだ。

息子のレオ王が、今のお母様の状態を見て苦しまないわけがない。

スベル国との関係が悪化している中、王様の悩みをこれ以上増やしたくなかったのだ。

「それはレオ王様の為ですよね。
ローズ様を見てると思うんですよ。
愛は女を強くさせるってね」

「もうグラスったら。
哲学者にでもなったつもりなの」

グラスが真剣な口調で言うので、なんだか恥ずかしくなって、眉をひそめて怒ったふりをする。

「ニャアアア」

そんな私達の足元でブーニャンがこう言うの。
  
「二人ともお喋りはそこまでよ。
はやく施設へ出かけましょう」

「やっぱり私達の中で一番のしっかり者は、ブーニャンだわね」

「年の甲ってわけさ。
あの化け猫はいったい何歳なんだろな」

肩にのっているチューちゃんが、耳元でささやいた。

「化け猫って」

ぴったりすぎる。

思わず吹き出しそうになったので、あわてて両手で口をふさぐ。

「グラス。
クコの実パンケーキと、ペパーミントと野菊のお茶の用意は大丈夫ね」

「あいよ。
サムが心をこめて、エレーナ王妃様の為に焼かせていただきました」

テーブルの上にある大ぶりのバスケットを、グラスは両手でかかえこむ。

「玄関でユリア騎士が待っているわ。
急ぎましょう」 

ユリア騎士は休日を返上して、施設の慰問につきあってくれているのだ。

本当にありがたいことだわ。

王妃様。

皆あなたのことを心配しています。

早く記憶を取り戻して下さい。

そう心で祈ると、ワンピースのポケットに忍ばせたレオ王の小さな肖像画に、指でソッとふれる。

こうすると、なぜか気持ちが落ちついた。

「お待たせしました。
王様には、エレーナ王妃様のことは内緒にしてくれているのよね」

いつものごとく、馬車の前で手を差し出してくれるユリア騎士に念をおす。

「もちろんです」

ユリア騎士はキリリとした表情をした。

「おい、ローズ。
さっき一瞬、ユリア騎士の目が泳いでいたぜ」
 
肩越しでチューちゃんがささやく。

「そんなことを言うなんて、ユリア騎士に失礼でしょ」

チューちゃんの尻尾を軽くひっぱると、馬車にのりこんだ。

今日でエレーナ王妃様の元を訪れるのは、何度めになるのだろう。

王妃様と出会ってからというもの、毎日、施設へ出向いている。

そして、世間話をするのだ。

最初は、好きな食べ物とかお洋服のこととか、あたりさわりのない話題だった。

身体が衰弱している王妃様は、少し話すと疲れるようだったが、だんだんと体力がついて話せる時間ものびてゆき、話題も少し深いものへとかわってゆく。

昨日は、夫が悪霊に悩まされている、と相談までできたのだ。

「今まで誰とも話そうとしなかったのに、よほどローズ様とは相性がいいのですね」

施設の職員達は皆驚いていた。

同じ王家へ嫁いだ者同士ですもの。

口にせずとも、何か通じるものでもあるのかしら。

「ローズ様、うまくいくといいですね」

グラスが膝の上にかかえたバスケットを、不安そうになでる。

「きっと大丈夫よ。
エレーナ王妃様が育てていた、薬草園のクコの実ですもの」

自分に言い聞かせるようにゆっくりと言う。

いつものように、あっと言う間に馬車は施設に到着して、ブーニャンが真っ先におりてゆく。

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