お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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六十五、生きていた王妃1

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王様が呪われている。

そんな衝撃的な事実を知ってから、また数日が過ぎてゆく。

「あいかわらず、悪夢にうなされているようですが、最近少し顔色が良くなりましたね。
食事も、前ほど残さなくなりましたし」

馬車を待たせている玄関へ向かう途中で、グラスがホッとしたような声をだす。

「これから、私達は悪霊とたちむかうのよ。
力をつける為に、無理をしてでも食べているのよ」

両側の壁には重厚な絵画が、一定の距離をあけて並べられている。

王宮の廊下はただの廊下ではない。

まるで美術館のようだ。

「それはそうとローズ様。
そのワンピースは、ローズ様にはやはり地味すぎましたね」

そう言いながら、グラスは黒い襟のついたナッツ色のワンピースに視線を移す。

「そうかしら。
今から行くのは救護施設よ。
この位で、ちょうどいいと思うけど。
これは元々はエレーナ王妃が、慰問用に使っていたものなの。
それを私が王様からいただいたのよ。
文句を言うのは不謹慎だわ」

チラリとグラスを睨む。

「はいはい。申し訳ございません。
ローズ様のレオ王様にケチをつけまして」

ちっとも反省の色が見えないグラスが、言葉を続ける。

「ま、ローズ様が王様に夢中になるのもわかりますけど。
強く凜々しく美しい。
それにクールに見えるけど、内面はとてもお優しい。
今回のことで、それがよくわかりました」

「ほんとね」

グラスの言葉に首を縦にふる。

ある日、王様にヘレン侍女長のお母様の話をしたのだ。

『そうか』

その時は、王様は一言そう言っただけなのに、翌日、侍女長は教会が営む救護施設へ、転勤
となったのだ。

そして、いつのまにかヘレン侍女長のお母様が、入居することも決まっていた。

「王様ったらね。
『ヘレン侍女長が、号泣しながら感謝してましたよ』ってお伝えしても、『そうか』だけなのよ」 

よく見ると、ほんの少しだけ口角が上がっていたような気がする。

その表情を思い出して、ついにやついてしまう。

「なんですか。
思い出し笑いなんかしちゃって」

グラスに冷やかされた時、玄関に到着した。

「では、まいりましょう」

「王様の護衛じゃなくてごめんなさいね。
しかも、平民のような格好までさせて」

「いえ。私も楽しんでいますから。
おおせのとおり、できるだけ質素な馬車を
用意しております」

そう言うとユリア騎士は、こちらへ手を差し出す。

「ありがとう」

そう言って馬車にのりこむが、数分後には、もう施設の玄関に到着していた。

「ようこそ。王妃様。
またお会いできて光栄です」

出迎えの中には、施設の制服に身を包んだヘレン侍女長もいる。 

厳密には元侍女長だけれど。

「しっ。ここでは私が王妃だと言うことは、
内緒にしたいのよ。
皆が気を使うでしょ。
ここではローズ様と呼んで下さい」

「かしこまりした。
さっそくですが、ローズ様。
内密にご相談したいことがあるのです」

「なにかしら。
私でも、力になれそうなことなら、いいのだけれど」

小首を傾げる。

「王妃様。いえ、ローズ様。
こちらへお進み下さい」

ヘレン元侍女長はそう言うと、施設の二階にある部屋の前で足を止めた。

「ここになにがあるの」

「どうぞ、扉を開けて下さいませ」

「教えてくれないのね」

不思議に思いながらソッと扉を開いた瞬間、思わず「あっ」と声をあげてしまう。

古ぼけたベッドの上で、ぼんやりと座っている女が、エレーナ王妃に瓜二つだったからだ。

「驚かれたでしょ」

「はい。
私は肖像画でしかお目見えしたことはありませんが、王妃様はレオ王様そっくりでしたもの。 
よく覚えております」

「私は何年か、エレーナ王妃様にお仕えしておりましたが、声までがそっくりそのままなのです」

「じゃあ、彼女はエレーナ王妃様なのですね」

ヘレン元侍女長の顔をのぞきこんだ。

「私が見たところ間違いありません。
ただ彼女は記憶を失っているのです。
どうしたものでしょうか」

悲しそうに元侍女長は目をふせる。

「記憶がないのですか」

記憶喪失の女。

物語では何度かお目にかかったが、実際に出会ったことはなかった。

「一体どうしたらいいのでしょうか」

近くにいたヘレンとユリア騎士に、順番に視線を移しながら、頼りない声をだしたのだ。 
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