上 下
61 / 76

六十、緑のパンケーキ オニキス女官視点

しおりを挟む
王様は、初夜以来王妃様と寝室を共にしていないようだ。

『もし、王様が王妃様を愛したら、その瞬間王妃様は死ぬよ。
たった今、あたいが呪いをかけたんだ』

昔、あたいが口走った戯言のせいだろうか。 

まさかね。

王様だって、あたいにそんな力があるとは、信じてないだろうし。

なら、どうして。

ひょっとしたら、あたいのことを多少でも、気に掛けてくれているのだろうか。

かすかな希望をもつと、余計にローズウッド王妃様を苦しめたくなってきた。

人間とは欲深いものだね。

貧乏村から脱出して、王様のもとで働けるだけで満足しなければならないのに、毎日王様と顔をあわせているうちに、馬鹿な期待をかけるようになっていた。

王様の隣で、幸せそうにしている王妃様の姿なんか見たくない。 

それで嫌がらを始めたのだ。

まずはナール宰相に二つの提案をした。

公務の休業と側妃の件である。

『懐妊をしやすい環境づくりの為に、しばらく公務を休んでいただくのは、良いことだろう。
けれど、一年間で懐妊できなければ、王様に側妃というのは、ちと急すぎるのではないだろうかね。
レオ王様のお気持ちもあるし』

あたいの提案を最初聞いた時は、宰相はうかない顔をした。

『王様にとって結婚は仕事。
きっと王様も理解してくれるはずです。
ナール宰相。
側妃には、王妃様より、もっと強力な魔法を使える方を、迎えたらどうでしょうか。
もし、わが国が戦になった時、戦力になるような魔法が使える方を、捜してまいります。
実は、ポプリ国の他にも、魔法使いの国があったのですよ」

王様には、国の戦力になれる妃が欲しい。

ナール宰相は、ことあるごとにそう言っていた。

そこをうまくついたわけだ。

もちろん、ポプリ国以外の魔法使いの国なんて知らない。

「オニキス女官。
それは本当なのか。
さすがに側妃を、ポプリ国から迎えるわけにはいかんからな」

目を大きく見開き、驚きの声を上げるナール宰相に、あたいは首を縦にふった。

その瞬間、提案は受け入れられたのだ。

それを王妃様に告げる時は、胸がワクワクした。

打ちひしがれた顔をじっくりと、拝みたかったからね。

「なんですって」

決定を聞いた王妃様は、侍女とともに声をはり上げた。 

けれど、胸がスカッとしたのは、その時だけだったのだ。

その後、王妃様は嬉々として薬草園に通い始めた。

ショックで、部屋に引きこもると思っていたのに。

王妃様は、そこで育てた薬草を使ったお菓子を提案した。

『王妃様のパンケーキ』だ。

それは王宮内で、すぐに大人気となる。

あたいは、悔しかった。

だから、陥れるためにヘレン侍女長達に『王妃様のパンケーキ』を食べたら、体調をこわしたと、嘘をつくようにしむけたのだ。

大金をちらつかせてね。

けれど、それも失敗した。

王妃はヘレン侍女長の嘘を即座に許したばかりか、彼女の体調を心配して、新しいパンケーキまで考案したのだ。

感動したヘレン侍女長は、年甲斐もなく王妃様の目の前で嗚咽していたね。

もちろん残りの侍女達も、すっかり王妃様に懐柔されて嘘を告白した。

あれは王妃様の優しさなんかじゃない。

ただの人気取りの芝居だ。

悔しかった。

あたいが悔しがるほど、手首のサソリのアザがはっきりと形を露わにする。

そして、マグマのような黒い感情が、身体を駆け巡るのだ。


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご機嫌ななめなお嬢様は異世界で獣人を振り回す

はなまる
恋愛
 神楽坂くららはもう限界だった。彼女は早くに母親を亡くし祖母に面倒を見てもらってきた。父親は国内でも大手の神楽坂コーポレーションと言う会社を保有していて仕事に女遊びにと忙しい毎日だった。そんな父親の今の目標はくららの結婚だった。ただ一人の娘に跡取りの婿をあてがう考えなのだ。だがくららの祖母が半年前に亡くなり、しばらくの間は我慢して来たがここ最近の父親のお見合い攻撃はすさまじい。その相手がどれも最悪な相手ばかりで、くららは意を決して父親にもうお見合いはしないと言いに行った。言い争いが始まりくららは部屋を飛び出す。そして階段から落ちた…‥気が付くと全く知らない世界にいて、そこで知り合った毛むくじゃらの虎のような獣人にくららは思わずしがみつく。まったく知らない世界で彼マクシュミリアンだけが頼りとばかりに‥‥だが獣人の彼は迷惑がっている。だが次第にくららを放っておけなくなっていき……

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...