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五十八、緑のパンケーキ
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「王妃様。申し訳ございません。
私は嘘をついていました。
私は『王妃様のパンケーキ』など、食べておりません。
けど、オニキス女官から、『私の言うとおりに動いてくれるなら、礼金を差し上げるわ』と言われ、つい話にのってしまったのです」
「わかりました。
よく話してくれましたね。
その勇気に感謝します」
そう言って、小刻みに揺れる肩に手をそえた。
その時、視界に白髪頭がはいる。
「まあ。あなたなのね。
ヘレン侍女長。
たしか以前、寝所へ私を案内してくれたわね。
あのせつは色々とありがとう」
パサパサした白髪で思いだしたのだ。
「そんな当たり前のことでございます。
私の仕事ですから」
そう言うと、ヘレン侍女長は驚いた顔を上げる。
「仕事もいいけれど、あまり頑張りすぎると身体をこわすわよ。
今も、額にぐっしょりと汗をかいているけど、調子が悪いのではないのかしら」
「いえ。大丈夫です」
「そうなの。
ひょっとして、急に身体がほてったりしませんか」
「はい。確かにそうです」
「最近、理由もなくイライラしたり、あまり精神状態が、良くないんじゃないかしら」
「その通りです。
けど、王妃様。
どうか、まだ仕事を続けさせてください。
別に、侍女長じゃなくてもいいのです。
いくら格下げしていただいても、かまいません。
家には介護が必要な母がおり、お金が必要なのです」
気の毒に、ヘレン侍女長は言葉を震わせていた。
「まあ。
それでつい、お金に目がくらんでしまったのね。
けど、さっきの件は、もう気にしなくていいのですよ。
オニキス女官も、私のことを思い、一芝居うとうとしてくれたのでしょうから」
まさか、そんなハズないわよね。
わかっているけど、柔らかい声をだし微笑んで見せる。
そのとたんだった。
残りの侍女達が、泣きじゃくりだしたのは。
「王妃様。申し訳ございません。
実は私も、お金に目がくらんでしまい、つい、この話にのってしまいました」
「王妃様。お許しください。
私も嘘をついていました。
王様のお気に入りのオニキス女官に、逆らうのがこわかったのです」
「だから、もういいのよ。
力足らずですが、私はこの国の母です。
だから、あなた方は私の子供。
子供の過ちを、いつまでも責める母はいないでしょ。
その正直な気持ちを大切にして下さい」
そう言って侍女達の側まで歩み、一人一人の肩をソッと抱いた。
「こういうわけだから、薬草園の調査はもう必要ないわね」
ゆっくりと、オニキス女官へ視線を移す。
「もちろんです。
私はどうやら、皆に誤解されているようですね。
王妃様にも、ずいぶんご迷惑をおかけしました」
オニキス女官が、キュツと唇をかんだ時だった。
彼女の手首にある、サソリのアザが発光し、オニキス女官の背後に、人影のようなものが妖しくうごめき始めたのは。
「なんなのこの異臭は」
思わず鼻を手でおおった時には、オニキス女官は、すでに反対方向へ歩きだしていた。
「それはそうとヘレン侍女長。
あなたの為に、今新しいパンケーキを思いついたの。
名前は『緑のパンケーキ』よ。
キュウリをすっていれたパンケーキなの。
キュウリはね。
身体の熱を、とってくれる作用があるのよ。
それで、少しは身体が楽になるといいんだけど。
心配しないで。
あなたは、ただの更年期だわ。
ふふふ。
お母様にも、そういう時があったのよ。
だから、ピンときたの」
新しいレシピが浮かんだ喜びで、パチンと両手を打って顔をほころばす。
「王妃様。
お心使いに感謝いたします。
けれど、こんな私と、ポプリ国の女王様を一緒にしてはなりません」
そう言うと、ヘレン侍女長は両手で顔をおおって嗚咽する。
これから、ちょうど暑くなる時期もよかったのね。
このパンケーキも、『王妃様のパンケーキ』に並ぶ人気を得たのだ。
私は嘘をついていました。
私は『王妃様のパンケーキ』など、食べておりません。
けど、オニキス女官から、『私の言うとおりに動いてくれるなら、礼金を差し上げるわ』と言われ、つい話にのってしまったのです」
「わかりました。
よく話してくれましたね。
その勇気に感謝します」
そう言って、小刻みに揺れる肩に手をそえた。
その時、視界に白髪頭がはいる。
「まあ。あなたなのね。
ヘレン侍女長。
たしか以前、寝所へ私を案内してくれたわね。
あのせつは色々とありがとう」
パサパサした白髪で思いだしたのだ。
「そんな当たり前のことでございます。
私の仕事ですから」
そう言うと、ヘレン侍女長は驚いた顔を上げる。
「仕事もいいけれど、あまり頑張りすぎると身体をこわすわよ。
今も、額にぐっしょりと汗をかいているけど、調子が悪いのではないのかしら」
「いえ。大丈夫です」
「そうなの。
ひょっとして、急に身体がほてったりしませんか」
「はい。確かにそうです」
「最近、理由もなくイライラしたり、あまり精神状態が、良くないんじゃないかしら」
「その通りです。
けど、王妃様。
どうか、まだ仕事を続けさせてください。
別に、侍女長じゃなくてもいいのです。
いくら格下げしていただいても、かまいません。
家には介護が必要な母がおり、お金が必要なのです」
気の毒に、ヘレン侍女長は言葉を震わせていた。
「まあ。
それでつい、お金に目がくらんでしまったのね。
けど、さっきの件は、もう気にしなくていいのですよ。
オニキス女官も、私のことを思い、一芝居うとうとしてくれたのでしょうから」
まさか、そんなハズないわよね。
わかっているけど、柔らかい声をだし微笑んで見せる。
そのとたんだった。
残りの侍女達が、泣きじゃくりだしたのは。
「王妃様。申し訳ございません。
実は私も、お金に目がくらんでしまい、つい、この話にのってしまいました」
「王妃様。お許しください。
私も嘘をついていました。
王様のお気に入りのオニキス女官に、逆らうのがこわかったのです」
「だから、もういいのよ。
力足らずですが、私はこの国の母です。
だから、あなた方は私の子供。
子供の過ちを、いつまでも責める母はいないでしょ。
その正直な気持ちを大切にして下さい」
そう言って侍女達の側まで歩み、一人一人の肩をソッと抱いた。
「こういうわけだから、薬草園の調査はもう必要ないわね」
ゆっくりと、オニキス女官へ視線を移す。
「もちろんです。
私はどうやら、皆に誤解されているようですね。
王妃様にも、ずいぶんご迷惑をおかけしました」
オニキス女官が、キュツと唇をかんだ時だった。
彼女の手首にある、サソリのアザが発光し、オニキス女官の背後に、人影のようなものが妖しくうごめき始めたのは。
「なんなのこの異臭は」
思わず鼻を手でおおった時には、オニキス女官は、すでに反対方向へ歩きだしていた。
「それはそうとヘレン侍女長。
あなたの為に、今新しいパンケーキを思いついたの。
名前は『緑のパンケーキ』よ。
キュウリをすっていれたパンケーキなの。
キュウリはね。
身体の熱を、とってくれる作用があるのよ。
それで、少しは身体が楽になるといいんだけど。
心配しないで。
あなたは、ただの更年期だわ。
ふふふ。
お母様にも、そういう時があったのよ。
だから、ピンときたの」
新しいレシピが浮かんだ喜びで、パチンと両手を打って顔をほころばす。
「王妃様。
お心使いに感謝いたします。
けれど、こんな私と、ポプリ国の女王様を一緒にしてはなりません」
そう言うと、ヘレン侍女長は両手で顔をおおって嗚咽する。
これから、ちょうど暑くなる時期もよかったのね。
このパンケーキも、『王妃様のパンケーキ』に並ぶ人気を得たのだ。
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