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五十五、大切な人 レオ王視点
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「わかりました。
では王様の口からお話ください」
ナール宰相の言葉に首を縦にふる。
が、一体どこまでうちあけたらいいのだろう。
心が定まらず、とまどっているとグラスが、気をきかせて席をたとうとする。
「グラス、席をはずす必要はない。
あなたにも、ここで一緒に聞いて欲しいのだから」
手でグラスを止めた。
ポプリ国から、ローズウッド王女と一緒にストーン国へやってきたこの女は、信頼できるに違いない。
その澄んだ瞳と、屈託のない笑顔がなによりの証拠だ。
だから、ここに残ってもらうことにした。
ローズとグラス、二人を前にして口火をきる。
そして、ここを立ち入り禁止区域にした理由を、ほぼ話しおえた時だった。
「王様のお母様を侮辱したのですよ。
なぜ、犯人をつかまえて罰しなかったのですか。
お母様だけじゃありません。
王様に対する侮辱でもあるのよ」
とローズが声を荒げたのだ。
いつも穏やかなローズらしからぬことなので、少々驚いてしまう。
「犯人の目星は、うすうすついているんだ」
そう返事をすると、ローズの声がより大きくなる。
「なら、今からでも遅くありません。
王家の威信にかけても、その犯人を捕らえましょう」
見たところ、かなり激高しているようだ。
ローズは怒りにまかせて、目の前の机をバジリと叩いた。
私のことなのに、自分のことのように腹をたててくれているのだな。
そう思うと温かい気持にはなる。
「残念だが、それは簡単なことではない」
唇をひき結ぶ。
「なぜですか」
「とても大切な人を、危険にさらす可能性があるからだ。
それに犯人は、やっかいな存在で簡単に手出しできない」
「なんですって」
ローズは突拍子もない声をだして、目を丸くしてから、犯人の名前を聞いてきた。
けれど、答えるわけにはいかない。
犯人はこの国の元王妃の悪霊だ。
と言っても、信じられないだろうから。
仮にもし、ローズが信じてくれたとしても、まだうちわけたくない。
なんの対策もないからだ。
ただやみくもに、ローズをこの件に巻き込むことはできない。
気弱な野ウサギのようなくせに、変に正義感のあるローズのことだ。
きっと自分も力になろうとするだろう。
それはとても危険なことだ。
「それじゃあ、その大切な人というのは、やはりオニキス女官のことですか。
レオ王の運命の人ですものね」
ローズが悲しげに目をふせた。
「いや。違う。
オニキス女官ではない。
以前言った運命というのは、ローズが考えているような意味ではないんだ。
今はそれだけしか言えないが」
最後の方は声がかすれていた。
本当のことをはっきりと言葉で伝えられないもどかしさで、胸がしめつけられる。
けれどわかって欲しかった。
そんな思いをこめて、ローズの瞳を真っ直ぐに見つめる。
これでわかってくれだなんて、虫がいい話しだが、今はそうするしかなかった。
「そうですか。わかりました。
それで、お母様の肖像画をここに隠して、人が近づけないようにしたんですね」
そう言ってローズは、穏やかな微笑みを見せてくれたのだ。
その笑顔に心底ホッとした。
こんなにローズの些細な変化に一喜一憂するなんて、私はどうかしたのだろうか。
ローズに関しては、気持が理性でおさえられなくなりそうだ。
正妃がおりながら、側妃におぼれていった父もそうだったのだろうか。
父も悩んでいたのだろうか。
ずーと嫌っていた父を、初めて身近に感じたのだ。
「ああ。そうだ。
ナール宰相と相談してな。
他に質問はないか」
「ひょとして、クーコの木をあそこに移したのも王様なのですか」
冷静を取り戻したローズは、クーコの木のことを気にかけていた。
「そうだ。
あれは生前母が大切に育てていた木だ。
危害を受けないように、人々の目から隠した」
そう言ってから、薬草園の用意ができたことを告げると、ローズは丁寧に頭をさげてくれた。
「心配かけてごめんなさい」
ローズがナール宰相とグラスに、か弱い声をだした時だった。
胸がキリリと痛む。
皆に謝罪しなければならないのは、私だからだ。
そう思った瞬間、気がつけばローズを抱きしめていた。
では王様の口からお話ください」
ナール宰相の言葉に首を縦にふる。
が、一体どこまでうちあけたらいいのだろう。
心が定まらず、とまどっているとグラスが、気をきかせて席をたとうとする。
「グラス、席をはずす必要はない。
あなたにも、ここで一緒に聞いて欲しいのだから」
手でグラスを止めた。
ポプリ国から、ローズウッド王女と一緒にストーン国へやってきたこの女は、信頼できるに違いない。
その澄んだ瞳と、屈託のない笑顔がなによりの証拠だ。
だから、ここに残ってもらうことにした。
ローズとグラス、二人を前にして口火をきる。
そして、ここを立ち入り禁止区域にした理由を、ほぼ話しおえた時だった。
「王様のお母様を侮辱したのですよ。
なぜ、犯人をつかまえて罰しなかったのですか。
お母様だけじゃありません。
王様に対する侮辱でもあるのよ」
とローズが声を荒げたのだ。
いつも穏やかなローズらしからぬことなので、少々驚いてしまう。
「犯人の目星は、うすうすついているんだ」
そう返事をすると、ローズの声がより大きくなる。
「なら、今からでも遅くありません。
王家の威信にかけても、その犯人を捕らえましょう」
見たところ、かなり激高しているようだ。
ローズは怒りにまかせて、目の前の机をバジリと叩いた。
私のことなのに、自分のことのように腹をたててくれているのだな。
そう思うと温かい気持にはなる。
「残念だが、それは簡単なことではない」
唇をひき結ぶ。
「なぜですか」
「とても大切な人を、危険にさらす可能性があるからだ。
それに犯人は、やっかいな存在で簡単に手出しできない」
「なんですって」
ローズは突拍子もない声をだして、目を丸くしてから、犯人の名前を聞いてきた。
けれど、答えるわけにはいかない。
犯人はこの国の元王妃の悪霊だ。
と言っても、信じられないだろうから。
仮にもし、ローズが信じてくれたとしても、まだうちわけたくない。
なんの対策もないからだ。
ただやみくもに、ローズをこの件に巻き込むことはできない。
気弱な野ウサギのようなくせに、変に正義感のあるローズのことだ。
きっと自分も力になろうとするだろう。
それはとても危険なことだ。
「それじゃあ、その大切な人というのは、やはりオニキス女官のことですか。
レオ王の運命の人ですものね」
ローズが悲しげに目をふせた。
「いや。違う。
オニキス女官ではない。
以前言った運命というのは、ローズが考えているような意味ではないんだ。
今はそれだけしか言えないが」
最後の方は声がかすれていた。
本当のことをはっきりと言葉で伝えられないもどかしさで、胸がしめつけられる。
けれどわかって欲しかった。
そんな思いをこめて、ローズの瞳を真っ直ぐに見つめる。
これでわかってくれだなんて、虫がいい話しだが、今はそうするしかなかった。
「そうですか。わかりました。
それで、お母様の肖像画をここに隠して、人が近づけないようにしたんですね」
そう言ってローズは、穏やかな微笑みを見せてくれたのだ。
その笑顔に心底ホッとした。
こんなにローズの些細な変化に一喜一憂するなんて、私はどうかしたのだろうか。
ローズに関しては、気持が理性でおさえられなくなりそうだ。
正妃がおりながら、側妃におぼれていった父もそうだったのだろうか。
父も悩んでいたのだろうか。
ずーと嫌っていた父を、初めて身近に感じたのだ。
「ああ。そうだ。
ナール宰相と相談してな。
他に質問はないか」
「ひょとして、クーコの木をあそこに移したのも王様なのですか」
冷静を取り戻したローズは、クーコの木のことを気にかけていた。
「そうだ。
あれは生前母が大切に育てていた木だ。
危害を受けないように、人々の目から隠した」
そう言ってから、薬草園の用意ができたことを告げると、ローズは丁寧に頭をさげてくれた。
「心配かけてごめんなさい」
ローズがナール宰相とグラスに、か弱い声をだした時だった。
胸がキリリと痛む。
皆に謝罪しなければならないのは、私だからだ。
そう思った瞬間、気がつけばローズを抱きしめていた。
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