お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

文字の大きさ
上 下
55 / 76

五十四、大切な人

しおりを挟む
「わかりました。
では王様の口からお話ください」

「ああ」

レオ王は深くうなずいた。

「グラス、席をはずす必要はない。
あなたにも、ここで一緒に聞いて欲しいのだから」

「では、私は向こうへ」と立ち上がろうとしたグラスを、そう言ってレオ王は手で制する。

「第一王子が亡くなってから、母の評判は一層悪くなった」

「以前もお聞きしましたが、王子殺害の疑惑がふくれあがったんですね」

「ローズは意外に物覚えがいいんだな」

それがいつもは、それほどでもないのよ。

だけど、レオ王に関することなら、どんな些細なことでも記憶しているの。

「ええ。まあ」

曖昧な笑みを浮かべた。

「それでだな」

その先を言おうとしたレオ王子が、ギュッと悔しそうに唇をかみしめる。

「その結果。
王宮内に飾ってあった母の肖像画が、何者かの手によってナイフでズタズタにされた。
父が生きていた間は、その一枚ですんだのだが、両親が亡くなってしまうとそうはいかない」

「お母様の肖像画が、次々と襲われたんですね」

「ああ。私もなめられたものだろ」

「王様のお母様を侮辱したのですよ。
なぜ、犯人をつかまえて罰しなかったのですか。
お母様だけじゃありません。
王様に対する侮辱ですもの」

つい語気を強くする。

「犯人の目星は、うすうすついているんだ」

「なら、今からでも遅くありません。
王家の威信にかけても、その犯人を捕らえましょう」 
 
激高して、思わず机をバシリと叩いた。

こんなに興奮するなんて、我ながらびっくりだ。

なんだかんだ言っても、やはり王族の血が流れているのね。

どこの国であれ、王族が汚辱をうけるのが許せなかった。

「残念だが、それは簡単なことではない」

「なぜですか」

「とても大切な人を、危険にさらす可能性があるからだ。
それに犯人は、やっかいな存在で簡単に手出しできない」

「なんですって」

思いもかけなかったレオ王の言葉に、目を丸くして驚く。 

「かなり驚いているようだな」

レオ王がスウツと目を細める。

「その犯人というのは、一体誰なのですか」

「王宮内にいる者だ。
悪いが、名前は教えられない」

「それじゃあ、その大切な人というのは、やはりオニキス女官のことですか。
レオ王の運命の人ですものね」

そう口にしたとたん、身体の奥からわきあがった嫉妬の炎が胸をこがす。

「いや。違う。
オニキス女官ではない。
以前言った運命というのは、ローズが考えているような意味ではないんだ。
今はそれだけしか言えないが」

レオ王が苦しそうに声をしぼりだした。

真っ直ぐに私を見たままで。

じゃあ、一体どういう意味の運命なのかしら。

わからない。

だけど、先ほどの真っ黒な感情がスウッと胸の中から消えてゆく。

その大切な人はひょとしたら、私かもしれない。

なんて、ほんの数ミリ期待してしまう。

「そうですか。わかりました。
それで、お母様の肖像画をここに隠して、人が近づけないようにしたんですね」

「ああ。そうだ。
ナール宰相と相談してな。
他に質問はないか」

「ひょっとして、クーコの木をあそこに移したのも王様なのですか」

「そうだ。
あれは生前母が大切に育てていた木だ。
危害を受けないように、人々の目から隠した」

「そう言えば、お母様も薬草がお好きだったそうですよね」

「ああ。
約束した薬草園はちゃんと整えてあるから、好きに使って欲しい。
追って、連絡しようと思っていたが、
場所はここの真横にある」

「わかりました。
ありがとうございます」

丁寧に頭をさげる。

すると、グラスがホッと安心したようなため息をついた。

「いつになくローズ様が、怒りだしたのでどうなるかとヒヤヒヤしました」

「ですな」

さっきから、ずーと黙って話を聞いていたナール宰相もやっと声をあげた。

「心配かけてごめんなさい」

二人の顔に、交互に視線を移した時だった。

突然、レオ王に抱きしめられる。

「はっきりしたことが言えず、謝らなければいけないのは私の方だ。
けれど、どうか私を信じて待っていて欲しい」

レオ王は耳元で、ゆっくりささやいたのだ。

その瞬間、フワリと身体が宙に浮いたような幸せな気持ちになってしまう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...