お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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四十六、白い結婚 レオ王視点

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『運命の人。オニキス女官がいるものね』

さきほどのローズの言葉が、何度も脳内で再生される。

「夫婦の初めての夜に、妻に他の女の名前を言わせるなんて。
私は最低の男だな」

自分の寝室に戻ると、ベッド横に置かれたテーブルで勢いよく酒をあおる。

『運命の人。オニキス女官がいるものね』

ああ、まただ。

ローズの力ない声が蘇ってきた。

今にも泣きだしそうなくせに、涙をこらえようと必死で唇をかみしめている様子に、胸がかき乱される。

「ヒステリックに責められる方が、気が楽だろうな」

琥珀色の液体が入ったグラスを、一気に飲みほした。

「たしかに、オニキス女官は避けて通れない私の運命の人だ」

なげやりに呟くと目を閉じ、女官と出会った日を回想する。

『政略結婚ってやつだね。
じゃあ、結婚しても王妃様を愛しちゃ駄目。 
もし、王様が王妃様を愛したら王妃様は死ぬよ。
たった今、そんな呪いをかけたからね』

『ハハハ。
これは怖ろしいな。
なら、約束しよう。
私は妻を愛さない』

笑いながら約束したのだった。

そして、しばらくするとそのことはすっかり脳裏から消えていたのだ。

あの約束は戯言ではなかった。

それに気がついたのは、ポプリ国のダリア第四王女との結婚話が、もちあがったときだ。

『火魔法の使い手を妻にめとれば、我が国の戦力アップは間違いなしです』

そう力説するナール宰相から見せられたダリア王女の肖像画は、完璧に美しかった。

「高慢そうだが、会ってみればそう悪くないのかもしれない」

ひょっとしたら、この女と温かい家庭が築けるかもしれない。

冷たい母親をもった反動だろう。

密かに、平凡で愛あふれる家庭に憧れていた。

政略結婚に、わずかな夢を抱いた時からだ。

生き霊となったオニキス女官が、夜な夜な枕元に現れるようになったのは。

『レオ王が王妃を愛した瞬間、王妃は死ぬよ。
あたいと約束しただろ』

背筋が凍るほど青ざめた顔をしたオニキス女官が、何度もそう訴えてくる。

ある夜、オニキスに剣をむけた。

するとオニキスの身体がグニャリとゆがみ、カデナ元王妃が現れたのだ。

「あなたの母は、わたくしから王様を奪った。
だから息子のあなたに、幸せな結婚生活なんて、おくらせるものですか。
あなたが本気で王妃を愛した時、王妃は死んでしまうのよ。
ホホホホ。ホホホホ」 
    
狂ったようにカデナ元王妃が、天を仰ぎ笑っていた。

そういう理由か。

エレナ側妃の息子である以上、オニキスは私が避けて通れない人だったのだ。

母が望もうが、望まないが、結果的に元王妃から王を奪ったのは事実である。

誇り高いカデナ元王妃は、常に表面は無関心を装おっていたらしい。

それゆえ嫉妬がつのり、悪霊と化したのだろう。

「いいだろう。
私は愛などいらない」

そう心に誓ったはずなのに。

ポプリ国で偶然ローズウッド王女と再会した時、誓いは意味をなくしたのだ。

ピンクの髪、ピンクの瞳。

際立った美人でもない。

けれど、なぜか彼女が気になり、手放したくなくなった。

その気持ちに正直になり、ここまでこぎつけたものの涙の初夜となる。

すまない。ローズ。

もう少しだけ、待ってて欲しい。
 
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