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四十四、白い結婚一
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礼拝堂でレオ王と過ごしてから、あっという間に数日がすぎてゆく。
いよいよ結婚式である。
式は王都にある大聖堂で行われる予定だ。
長い歴史をもつこの聖堂で、挙式をあげた夫婦は多い。
そのうちの何組かは、最初から愛のない
結婚だったろう。
その数はわからない。
「けど今日。
その中の一組に仲間入りするのは確かよ」
花嫁の控え室にある大きな鏡にうつる自分に、皮肉っぽく話しかける。
「お飾り王妃になる覚悟はできているのかしら」
鏡の中に問いかけたとき、そばにいるグラスが感嘆の声をあげた。
「王様から贈られたドレスは、ローズ様の雰囲気にピッタリですね。
あんな素敵な方に、私のローズ様が溺愛されるなんて、夢みたいで泣けてきます」
純白のドレスの胸元や裾には、銀糸で薔薇の刺繍があしらわれている。
そして、薔薇の中心にはピンクダイヤモンド。
夢あふれるドレスである。
「さすが腹黒王のすることは違うわね」
ソッと呟く。
「それにしても、ローズ様。
どうして、そんなに暗い顔をしてるんですか。
まるで親のお葬式に向かうようですよ」
けげんそうな顔をして、グラスが首を傾げた。
グラスにはまだあの話をうちわけていない。
グラスはこの結婚を私以上に喜んでいる。
だから、なかなか言い出せない。
「色々とね。不安なことがあるのよ」
「ひょっとして、それは初めての夜のことですか」
グラスの顔がにやけている。
「心配ご無用。
ただベッドに横たわっているだけでいいんですよ。
あとは王様が」
ここまで言うとグラスは、「キャア」と悲鳴をあげて両手で自分の口をふさぐ。
「おかしな、グラスね」
グラスに目を細めた時、扉が開き男らしい声で名前を呼ばれた。
「ローズ。準備はできたか」
レオ王のおでましだ。
「はい」
扉の方を振り返ったとたん、レオ王は目を丸くして驚きの声をあげる。
「これがローズなのか。
清楚で可憐で上品で、今まで会ったどんな姫より美しい」
レオ王が動くたびに、白いタキシードが繊細な光を放ちながら輝く。
服には、私と同じ薔薇の刺繍が施されているが、あちらにはブルーダイヤがうめこまれているようだ。
そんな洋服に負けない圧倒的なオーラを、レオ王は全身から醸し出していた。
たとえお飾りでも、こんな素敵な人の妻になれるのよ。
ラッキーしかない。
こんな風に思ってしまうほど、レオ王は気高く美しかったのだ。
「では、私の王女様。参りましょう」
レオ王は、ボーとする私を横抱きにして、とろける様に目を細める。
やはり、腹黒ね。
オニキス女官を運命の人と言ったその口で、平気で私に甘い言葉をささやけるなんて。
それから数時間後。
しきたりに従って粛々と進められた、退屈な式がおわる。
「次々とやってくる、見たこともない来賓客にお愛想笑いをするのは疲れたわ」
なんてぼやいていたら、あっという間に侍女達に浴室へ連れていかれた。
彼女達は、慣れた手つきで私の身体を丁寧に洗ってゆく。
初めての夜の為にだ。
お飾りだもん。
きっと何もないわよ。
待って。魔法使いの血を継ぐ子供は、欲しいと思っているはずよ。
だとしたら。
あれこれ悩んでいると、ヘレン侍女長が声をあげる。
「さあ。寝所へ参りましょうか」
大量の香水をふりかけられた身体からは、とても蠱惑的な香りが漂っていた。
いよいよ結婚式である。
式は王都にある大聖堂で行われる予定だ。
長い歴史をもつこの聖堂で、挙式をあげた夫婦は多い。
そのうちの何組かは、最初から愛のない
結婚だったろう。
その数はわからない。
「けど今日。
その中の一組に仲間入りするのは確かよ」
花嫁の控え室にある大きな鏡にうつる自分に、皮肉っぽく話しかける。
「お飾り王妃になる覚悟はできているのかしら」
鏡の中に問いかけたとき、そばにいるグラスが感嘆の声をあげた。
「王様から贈られたドレスは、ローズ様の雰囲気にピッタリですね。
あんな素敵な方に、私のローズ様が溺愛されるなんて、夢みたいで泣けてきます」
純白のドレスの胸元や裾には、銀糸で薔薇の刺繍があしらわれている。
そして、薔薇の中心にはピンクダイヤモンド。
夢あふれるドレスである。
「さすが腹黒王のすることは違うわね」
ソッと呟く。
「それにしても、ローズ様。
どうして、そんなに暗い顔をしてるんですか。
まるで親のお葬式に向かうようですよ」
けげんそうな顔をして、グラスが首を傾げた。
グラスにはまだあの話をうちわけていない。
グラスはこの結婚を私以上に喜んでいる。
だから、なかなか言い出せない。
「色々とね。不安なことがあるのよ」
「ひょっとして、それは初めての夜のことですか」
グラスの顔がにやけている。
「心配ご無用。
ただベッドに横たわっているだけでいいんですよ。
あとは王様が」
ここまで言うとグラスは、「キャア」と悲鳴をあげて両手で自分の口をふさぐ。
「おかしな、グラスね」
グラスに目を細めた時、扉が開き男らしい声で名前を呼ばれた。
「ローズ。準備はできたか」
レオ王のおでましだ。
「はい」
扉の方を振り返ったとたん、レオ王は目を丸くして驚きの声をあげる。
「これがローズなのか。
清楚で可憐で上品で、今まで会ったどんな姫より美しい」
レオ王が動くたびに、白いタキシードが繊細な光を放ちながら輝く。
服には、私と同じ薔薇の刺繍が施されているが、あちらにはブルーダイヤがうめこまれているようだ。
そんな洋服に負けない圧倒的なオーラを、レオ王は全身から醸し出していた。
たとえお飾りでも、こんな素敵な人の妻になれるのよ。
ラッキーしかない。
こんな風に思ってしまうほど、レオ王は気高く美しかったのだ。
「では、私の王女様。参りましょう」
レオ王は、ボーとする私を横抱きにして、とろける様に目を細める。
やはり、腹黒ね。
オニキス女官を運命の人と言ったその口で、平気で私に甘い言葉をささやけるなんて。
それから数時間後。
しきたりに従って粛々と進められた、退屈な式がおわる。
「次々とやってくる、見たこともない来賓客にお愛想笑いをするのは疲れたわ」
なんてぼやいていたら、あっという間に侍女達に浴室へ連れていかれた。
彼女達は、慣れた手つきで私の身体を丁寧に洗ってゆく。
初めての夜の為にだ。
お飾りだもん。
きっと何もないわよ。
待って。魔法使いの血を継ぐ子供は、欲しいと思っているはずよ。
だとしたら。
あれこれ悩んでいると、ヘレン侍女長が声をあげる。
「さあ。寝所へ参りましょうか」
大量の香水をふりかけられた身体からは、とても蠱惑的な香りが漂っていた。
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