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四十二、カデナ前王妃
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「承知した。
なら、悪いが礼拝堂まで足を運んでもらえないか」
「れ、礼拝堂ですか」
あまりに唐突な提案にとまどう。
「その方が、話が理解しやすいと思うので」
その理由がいまいちわからない。
「はあ。そうですか」
あいまいに返事をしている間にも、レオ王はテーブルに手をつき立ち上がった。
「では行くぞ」
「わかりました」
とまどったままで、さし出された手を握ると、グラスに声をかけ部屋を後にする。
「グラス。
王様と少し散歩をしてきます。
グラスはここで待っていてちょうだい」
「わかりました」
グラスの返事がかえってきた時、部屋のすみで毛繕いをしていたブーニャンが、大きなノビをしてから、こちらへやってきた。
「おや。主人が心配なのか。
忠義な猫だな」
レオ王は目を細めてブーニャンに声をかけた。
「ニャアアア」
ブーニャンは甘ったるい声をだすと、私達と一緒に歩き始める。
王族専用の礼拝堂はここからすぐだった。
回廊を少し歩き、右に折れた所にある庭園の奥にある。
木々に囲まれた白い建物の前で、レオ王が足をとめた。
「では、私はここで控えております」
ユリア騎士が、ステンドグラスのはめ込められた重厚な扉の前で頭を下げる。
「わかった」
軽くうなずくと、レオ王は私の手をとり礼拝の中へと進んでゆく。
「とても気持ちが落ちつく空間ですね」
祭壇の前に並んだ立派な椅子に腰をおろすと、あたりをキョロキョロと見渡す。
ステンドグラスの大きな窓からさしこんでくる光が、内部を虹色に照らしていた。
「あそこにいるのが父だ」
隣に座ったレオ王の声が、静かな礼拝堂に響く。
「ということは先代のレオナ王ですね」
レオ王の指さした先の肖像画に視線を移す。
宝石を散りばめた王冠をかぶった王の瞳は、レオ王そのままだった。
「王様はお父様に」
と言いかけたけれど、レオ王はその言葉をさえぎりもう一枚の絵をさす。
「父の右隣がカデナ前王妃だ。
強国アール国の王女だった彼女は、レイサ第一王子が三歳の時亡くなった」
「お気の毒に。
さぞ心残りだったでしょうに」
眉を下げ肖像画の彼女をマジマジと眺める。
艶のある黒髪、深い琥珀色の瞳、陶器のような白い肌。
勝ち気そうだが、凜とした美しさにあふれている。
「まだお若いのに、ご病気だったのですか」
「表向きは流行病だ」
吐き捨てるような口調だった。
驚いてレオ王の顔に視線を移すと、彼は神経質に眉をひそめていた。
なら、悪いが礼拝堂まで足を運んでもらえないか」
「れ、礼拝堂ですか」
あまりに唐突な提案にとまどう。
「その方が、話が理解しやすいと思うので」
その理由がいまいちわからない。
「はあ。そうですか」
あいまいに返事をしている間にも、レオ王はテーブルに手をつき立ち上がった。
「では行くぞ」
「わかりました」
とまどったままで、さし出された手を握ると、グラスに声をかけ部屋を後にする。
「グラス。
王様と少し散歩をしてきます。
グラスはここで待っていてちょうだい」
「わかりました」
グラスの返事がかえってきた時、部屋のすみで毛繕いをしていたブーニャンが、大きなノビをしてから、こちらへやってきた。
「おや。主人が心配なのか。
忠義な猫だな」
レオ王は目を細めてブーニャンに声をかけた。
「ニャアアア」
ブーニャンは甘ったるい声をだすと、私達と一緒に歩き始める。
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「わかった」
軽くうなずくと、レオ王は私の手をとり礼拝の中へと進んでゆく。
「とても気持ちが落ちつく空間ですね」
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ステンドグラスの大きな窓からさしこんでくる光が、内部を虹色に照らしていた。
「あそこにいるのが父だ」
隣に座ったレオ王の声が、静かな礼拝堂に響く。
「ということは先代のレオナ王ですね」
レオ王の指さした先の肖像画に視線を移す。
宝石を散りばめた王冠をかぶった王の瞳は、レオ王そのままだった。
「王様はお父様に」
と言いかけたけれど、レオ王はその言葉をさえぎりもう一枚の絵をさす。
「父の右隣がカデナ前王妃だ。
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「お気の毒に。
さぞ心残りだったでしょうに」
眉を下げ肖像画の彼女をマジマジと眺める。
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勝ち気そうだが、凜とした美しさにあふれている。
「まだお若いのに、ご病気だったのですか」
「表向きは流行病だ」
吐き捨てるような口調だった。
驚いてレオ王の顔に視線を移すと、彼は神経質に眉をひそめていた。
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