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三十九、薔薇の貴賓室オニキス視点
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ローズウッド王女は、結婚式をあげるまでは貴賓室に滞在することになっている。
王女をその部屋に案内するのも、あたいの役目だった。
例の事故がきっかけで、あたいの右足はうまく動かない。
それで少しびっこをひいている。
周囲には、できるだけそれを悟られたくないと王様に直訴して、あたいだけ足首まであるスカートの着用を認められていた。
詳細を知らない人々は、あたいが王様にヒイキされていると噂している。
あたいは自分の生い立ちを、王宮の誰にも話していない。
生まれ育ちで、馬鹿にされたくなかったからだ。
そのおかげで、王宮内で神秘的な存在になっている。
いつも好んで黒い服を着ていたので、
いつのまにかこう呼ばれているのだ。
レオ王の謎の愛人、黒衣の女オニキスと。
実際のところ王様は、あたいになんか指一本ふれたことがない。
王様にあるのは罪悪感と同情だけだ。
けれど、王宮にできたこんな居場所をけっこう気にいっていた。
ローズウッド王女がこの国へくるまではだ。
「ここはわが国の貴賓室になっております」
王女とその侍女グラスを貴賓室の前まで連れてゆく。
見るからに豪華な部屋の扉を見ても、王女はどこかうかない顔をしている。
そりゃそうだ。
夫の愛人と一緒にいて、はしゃぐ気持ちになれるもんか。
ふん。もっと苦しめ。
もっと悩め。
あたいだって、王女といる時間が長くなるほど気持ちが不安定になる。
けど、王女は部屋の扉を開けた瞬間、歓声をあげた。
「なんて素敵なの」
視線の端にうつる王女は、うっすらと目に涙をうかべている。
「これらは王女様のお名前にちなんで、王様がすべて特注されたものです」
窓のカーテン、猫足のソファーに並んだクッション、すべてが薔薇模様で統一されていた。
室内は王様の王女への気使いであふれている。
「ところで、オニキス。
あなと顔色がとても悪いわ。
大丈夫なの?」
しばらく感激した様子で部屋を眺めていた王女が、ふいに優しい声をだす。
きっと心に余裕ができたのだろう。
王様に一番愛されているのは、自分だと確信できてね。
そう思うと身体の奥から、マグマの様な激しい憎悪がわきあがってくる。
「はい。大丈夫です。
あと、そこにあるカップやソーサ、ポットも薔薇柄になっております」
黒い気持ちを必死でおさえて、室内の案内をおえた時だった。
「わかりました。
オニキス。あなた今にも倒れそうだわ。
お医者様を呼んだ方がいいのでは」
王女がハラハラとした様子で、あたいの顔色をうかがう。
きっとそれは言葉だけの優しさ。
村のおばさん達と同じだね。
内心はあたいに勝った、と高笑いでもしてるんだろう。
人間なんて大嫌いだ!
「幸せなのは今だけだよ。
調子にのるんじゃない」
激高をおさえられず、気がつけばなんと王女に耳打ちをしていた。
これって、悪くしたら不敬罪だよ。
我ながら怖ろしくなる。
けれど、口が勝手に動きだしたのだ。
幸い、王女の耳にはきちんと言葉が届かなかったようで事なきを得たが。
「では失礼いたします」
焦る素振りは見せたくない。
深々と頭を下げて扉に手をかけた。
その瞬間、自分の手首のアザが妖しく光っているのに気がつく。
やっぱりね。
最近気がついていたのだ。
アザが発光すると、あたいの身体が誰かに操られているように、勝手に動きだすのことに。
「カデナだったかな。
まさかあの女のせいなのかい」
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから見たこともない綺麗な猫とすれ違った。
「ニャアン」
瞬間猫は足を止め首を傾げる。
透き通った瞳で一直線にあたいをいぬく。
「化け物でもみるような目で、こっちを見るのはやめな」
周囲に誰もいないのを確認して、素のあたいで怒鳴ってやった。
王女をその部屋に案内するのも、あたいの役目だった。
例の事故がきっかけで、あたいの右足はうまく動かない。
それで少しびっこをひいている。
周囲には、できるだけそれを悟られたくないと王様に直訴して、あたいだけ足首まであるスカートの着用を認められていた。
詳細を知らない人々は、あたいが王様にヒイキされていると噂している。
あたいは自分の生い立ちを、王宮の誰にも話していない。
生まれ育ちで、馬鹿にされたくなかったからだ。
そのおかげで、王宮内で神秘的な存在になっている。
いつも好んで黒い服を着ていたので、
いつのまにかこう呼ばれているのだ。
レオ王の謎の愛人、黒衣の女オニキスと。
実際のところ王様は、あたいになんか指一本ふれたことがない。
王様にあるのは罪悪感と同情だけだ。
けれど、王宮にできたこんな居場所をけっこう気にいっていた。
ローズウッド王女がこの国へくるまではだ。
「ここはわが国の貴賓室になっております」
王女とその侍女グラスを貴賓室の前まで連れてゆく。
見るからに豪華な部屋の扉を見ても、王女はどこかうかない顔をしている。
そりゃそうだ。
夫の愛人と一緒にいて、はしゃぐ気持ちになれるもんか。
ふん。もっと苦しめ。
もっと悩め。
あたいだって、王女といる時間が長くなるほど気持ちが不安定になる。
けど、王女は部屋の扉を開けた瞬間、歓声をあげた。
「なんて素敵なの」
視線の端にうつる王女は、うっすらと目に涙をうかべている。
「これらは王女様のお名前にちなんで、王様がすべて特注されたものです」
窓のカーテン、猫足のソファーに並んだクッション、すべてが薔薇模様で統一されていた。
室内は王様の王女への気使いであふれている。
「ところで、オニキス。
あなと顔色がとても悪いわ。
大丈夫なの?」
しばらく感激した様子で部屋を眺めていた王女が、ふいに優しい声をだす。
きっと心に余裕ができたのだろう。
王様に一番愛されているのは、自分だと確信できてね。
そう思うと身体の奥から、マグマの様な激しい憎悪がわきあがってくる。
「はい。大丈夫です。
あと、そこにあるカップやソーサ、ポットも薔薇柄になっております」
黒い気持ちを必死でおさえて、室内の案内をおえた時だった。
「わかりました。
オニキス。あなた今にも倒れそうだわ。
お医者様を呼んだ方がいいのでは」
王女がハラハラとした様子で、あたいの顔色をうかがう。
きっとそれは言葉だけの優しさ。
村のおばさん達と同じだね。
内心はあたいに勝った、と高笑いでもしてるんだろう。
人間なんて大嫌いだ!
「幸せなのは今だけだよ。
調子にのるんじゃない」
激高をおさえられず、気がつけばなんと王女に耳打ちをしていた。
これって、悪くしたら不敬罪だよ。
我ながら怖ろしくなる。
けれど、口が勝手に動きだしたのだ。
幸い、王女の耳にはきちんと言葉が届かなかったようで事なきを得たが。
「では失礼いたします」
焦る素振りは見せたくない。
深々と頭を下げて扉に手をかけた。
その瞬間、自分の手首のアザが妖しく光っているのに気がつく。
やっぱりね。
最近気がついていたのだ。
アザが発光すると、あたいの身体が誰かに操られているように、勝手に動きだすのことに。
「カデナだったかな。
まさかあの女のせいなのかい」
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから見たこともない綺麗な猫とすれ違った。
「ニャアン」
瞬間猫は足を止め首を傾げる。
透き通った瞳で一直線にあたいをいぬく。
「化け物でもみるような目で、こっちを見るのはやめな」
周囲に誰もいないのを確認して、素のあたいで怒鳴ってやった。
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