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三十八、薔薇の貴賓室

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「結婚式まではこの部屋でお過ごし下さい」

回廊をつたった先にある瀟洒な建物の二階に、私の部屋は用意されていた。

建物の回りに黄色や赤い薔薇が咲きみだれている。

ストーン城はポプリ城に比べて、とても堅固な印象をうけた。

けれどここだけには、ポプリ城の様な柔らかい雰囲気がある。

「ここはわが国の貴賓室になっております」

部屋の扉に手をおいたオニキスが、無表情な顔をこちらへむけた。

気のせいだろうか。

その瞬間、ツンとした嫌な匂いがした。

まるで何かが腐敗したような悪臭だ。

おかしいわね。

手入れの行き届いた王宮内に、汚物が置き去りにされているわけないのに。

けれどその小さな疑問は、室内に案内されたとき消滅してしまう。

「なんて素敵なの」

十分に広い部屋には、薔薇柄の絨毯がひきつめられていた。

それだけではない。

窓のカーテン、猫足のソファーに並んだクッション、すべて薔薇模様でそろえられている。

「これらは王女様のお名前にちなんで、王様がすべて特注されたものです」

「まあ。そうなの。
手間をかけたわね」

「いえ。職人達も喜んでおりました」

「ところで、オニキス。
あなた顔色がとても悪いわ。
大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。
あと、そこにあるカップやソーサ、ポットもどれも薔薇柄になっております」

オニキスはテーブルの近くにあるサイドテーブルの上で、白く光る陶器を指さした。

「それとお部屋には、薔薇色の精油をしたためております。
もし香りがお好みに合わなければ、いつでもおっしゃって下さい」

「いえ。この香りは大好きよ。
もう説明は十分です。
やはりあなたは調子が悪そうだから、もうこれで下がっていいですよ」

「ありがとうございます。
結婚式がおわりば、王妃様のお部屋は本宮内の王様のお隣になります。
それまでは、少し手狭でしょうがここでお過ごしくださいませ」

「わかりました。
オニキス。あなた今にも倒れそうだわ。
お医者様を呼んだ方がいいのでは」

ハラハラと心配している私をオニキスが手で制す。

そして、身体を寄せてきてそっと耳打ちをしたのだ。

けれど、あまりに声が小さくてはっきりよくわからなかった。

だけど、オニキスの瞳は深い悲しみをたたえていたのだ。

「では失礼いたします」

オニキスが深々と頭を下げて、扉から出ていく。

その後姿を見て気がついた。

オニキスはほんの少しだけど、足をひきずっていることに。

「グラス。
お母様はよく言ってたわね。
『初対面の印象が悪い人は、意外にいい人なのよ』って。
ならオニキスはすごくいい人ってことよね」

「フフフ。ローズ様もいいますね」

グラスが安定の癒やしの笑みを浮かべた時だった。

ガタンと扉が開きブーニャンが、あわただしく室内にかけてきたのは。
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