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三十六、オニキス女官オニキス視点3

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「大丈夫ですか」

完璧に整った顔が至近距離にせまってくる。

美しいエメラルド色の瞳に見つめられると気恥ずかしくて、みるみる頬が赤く染まってゆく。

「カデナという女はどこへいったんだい」

腕の中で身体をよじらせ、あたりを見渡す。

が、それらしき人影はない。

考えてみたら、こんな村道のど真ん中に貴婦人が立っているって妙な話だ。

きっとあれは悪夢だったんだろう。 

「最初から他に女の姿はなかったが」 

「気にしないでいいよ。
どうやらあたいの勘違いみたいだから」

そう言って立ち上がろうとした時、右足に激痛が走る。

「やば。足が痛いじゃん!」 
   
「すまない。
私の不注意で、あなたに大怪我をさせてしまったようた。
失礼だが名前をうかがいたい」

「あたいはオニキスさ。そっちは」

「私は」

と男が言いかけた時、背後から数人の騎士が現れたのだ。

騎士といっても、村でおきた事件のとき見かける、無骨な騎士とは雰囲気がまったく違う。

勇ましさはもちろんのこと、華やかさまで備えているんだから。

「王様。おケガはありませんか」

騎士の中でも、一番の美丈夫が駆けよってきて膝をおる。

「私は大丈夫だが、彼女が足にケガをしたようで、動けなくなった。
はやく王宮で医者に見せたい」

「かしこまりました。
急遽馬車を手配しておりますので、そちらにお運びいたします」

美丈夫はキリッとした表情でそう言うと、スクッと立ち上がり、軽々と私を抱き上げる。

「王様のお忍び中に起きてしまったことなので、目立たない馬車を用意しております。
姫様には手狭に感じられるでしょうが、ご辛抱下さい」 

美丈夫の声が頭から落ちてきた。

姫様。あたいが姫様だって。

村の男達の娼婦にされそうだったあたいが、姫様って呼ばれている。

空耳なんかじゃない。

なんて気持ちがいいんだろう。

本物のお姫様って、いつもこんな感じなんだろうな。

毎日、上質な男達にかしずかれているんだ。

「ふん。生まれる場所がラッキーだっただけじゃないか」

吐き捨てるようにつぶやいた時、美丈夫の足が止まった。

どうやら、馬車についたようだ。

「では姫様。少しのご辛抱を」

美丈夫は、あたいを丁寧に馬車内の椅子に座らせてくれた。

「悪いね。あたいは本当の姫様じゃないのに」

「王様が大事にされているお方は、私にとって姫様ですから」

柔らかく美丈夫は微笑む。

乱暴で無知な村の男達とは、えらい違いだ。

「せっかく命拾いしたんだ。
二度とあんな村に帰るもんか」

唇をひき結んだ時だ。

いつのまにか手首にできていたサソリのアザが妖しく輝き、カデナの面影が脳内に再生された。

「王様にお願いしてみるか。
ケガをさせられた対価だよ」

気がつけば、とんでもなく厚かましい言葉を口にだしていたのだ。 
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