お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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三十四オニキス女官オニキス視点1

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王都にほど近い村の、貧しい家にあたいは生まれた。

幼い時に病で亡くなったと聞いている父の面影は、まったく覚えていない。

近くの農園で働きながら、女で一つであたいを育ててくれた母さんは、過労で倒れそのままこの世の人でなくなったのだ。

ちょうど数年前の今頃だ。

母が死んだ時、村の人達は誰もが悲しんでくれた。

そして、天涯孤独となったあたいを皆が気使ってくれたのだ。

けれどそれは最初だけ。

いつの間にか、母の変わりに農園で働いているあたいの噂話が、村のあちこちで囁かれるようになっていた。

そんなある日のことだ。

農園へ向かう途中、井戸で水くみをしている母さんの親友達を見つけた。

あたいの中では、おばさん達は数少ない絶対的味方だ。

日頃良くしてもらっているお礼を言おうと、井戸へ近寄った時だった。

聞き慣れた声が耳をかすめる。

「オニキスは顔もいい。機転もいい。
けどあんなに運の悪い娘は、うちの息子の嫁にはしたくない。
貧乏神をもらうのはごめんだから」

「うちもだよ。
それより、お互い旦那の行動には注意しとかないとね」

「なんでだい?」

「知らないのかい。
誰が一番にオニキスを抱けるか、村の男達が競争してるって言うじゃないか」

なんだって、冗談じゃないよ。

偶然耳にした話に、目の前が真っ暗になった。

『オニキスはいい娘だね。
息子の嫁に欲しいぐらいだよ』

おばさん達はいつもそう言ってくれていたのに。 

その言葉を信じていたあたいが馬鹿だった。

そう言えば、最近村の男達が家へやってくる頻度が増えていた。

けれども、あたいの父親と言ってもいい年齢の男ばかりだ。 

警戒なんてしたことはなかった。

世間知らずもいいとこだね。

「人間なんて大嫌い!」

両手をギュッと握り叫んだ。

「オニキス。いつのまにそんな所にいたのかい。  
どうしたんだい。
そんな怖い顔をして。
まさか、さっきの話を聞いたんじゃ。
あ、あれは冗談だよ」

「そんなこと言っても、賢いあの子が信じるわけないよ。
オニキス。
これが世の中というもんさ」

大声にビクッと肩を震わせ、こちらをふり向いたおばさん達がそれぞれの反応を見せる。

「あたいのことなんか、どうでもいいんでしょ。
ほっといてちょうだい!」

激しい口調でそう言って、村から飛び出した時だった。

大きな白馬が、こちらめがけて疾走してきたのだ。 

 
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