お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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三十、さよならポプリ国

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「ただいま、グラス。
実は私、まだ朝食を食べてないのよ。
悪いけど何か用意できる?」

グラスの顔を見るなり、一番にでた言葉がこれだ。

「お母様との最後の夜は感動したわ」ぐらいならロマンチックなのだろうけど、これが現実よ。

「目玉焼きにフリルレタス、胡桃いりパンにレモネードならすぐにお出しできますけど」

「上等じゃない」

「けど、いったいどうされたんですか。
今朝はてっきり本宮で召し上がってくると思ってましたのに」

ダイニングテーブルの脇に控えているグラスが、不思議そうに頭をひねる。

「私はね。本宮なんか大嫌いなの。
特に嘘つきで自分勝手なお母様がね」

先に運ばれたレモネードのグラスに口をつける。

「ニャアア。朝から御機嫌斜めなのね」

窓からヒラリと現れたブーニャンが、テーブルの上に飛びのった。

「忘れてたわ。
この離宮にも大嘘つきが一匹いたのを。
ブーニャンが、お母様の使い魔だったなんて驚いたわ」

そう言うとフォークでパンをブスっと刺す。

「そんなことで怒っているなんて、やはりローズはお子様ね」

「なんとでも言えばいいわ。
私はお母様を許さないんだから。
そうそう。
ブーニャン。これを預かっててね。
本来のあなたのご主人様からいただいたものよ」

そう言うとテーブルの上に置いていたオルゴールを、ブーニャンの方へよせる。

「私の体内にある魔法ポケットは無限だから、なんでも預かってあげるわ。
だけど今朝はこのへんで退散するわね」
 
ブーニャンはオルゴールを飲み込むと、軽々と入ってきた窓から出ていった。

と同時にグラスがトレーに、美味しそうな朝食をのせてやってくる。

「お待たせしました」

何も知らないグラスの人の良さそうな笑顔にいやされた。

「グラス、あなたがいてくれて本当に助かるわ。
ストーン国でもよろしくね。
実はね。十日後にストーン王国からお迎えがくるの。
式はその四日後に決定したのよ」

「まあ。それはたいへん。
さっそく準備にとりかからないと」

目を丸くしてグラスが驚く。

「そうなよ。
私もこれを食べると、すぐに部屋の整理に取りかかるわ。
と言ってもたいして服も宝石もないし、すぐにおわりそうよ」

と言ったものの、いざ荷物を整理をし始めると、大量の本の始末に苦労した。

そのほとんどが恋愛物だったのには、我ながら苦笑したわ。

色々な形の恋にずーと憧れていたのだ。

そしてもうすぐ、私の恋物語が始まる。

何も持たない王女と汚名を着せられていたポプリ国なんかに、もうなんの未練もない。

口をひき結び、黙々とかたずけをしていると、時間なんてあっというまに過ぎた。

その間にお母様から、数枚のドレスと宝石が贈られてきて、グラスが黄色い声をあげてうっとりしていたけれど、何の感心もわかない。

何も持たない王女から、ひねくれた王女になったのかしら。

それでもいいわ。

十日後。

固く心を閉ざして、ストーン国からの馬車へ乗り込んだ。





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