お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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二十六、魔法郵便

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翌朝ベッドの中で目をさますと、ボーとした頭で目をこする。

昨夜調子にのってグラスと飲んだ果実酒が、まだ身体の奥に残っているようだ。

「少し頭痛がするわ」

ゆっくりと身をおこし、ベッド横の窓に視線をうつす。

いつもより外の景色が明るい。

「きゃあ。寝過ごしてしまってみたい」

あわててベッドから飛び起きる。

同時に布団の上で寝そべっていたブーニャンも、驚いたように床に飛び移った。 

「どうしましょ」

お母様の執務室で、ポプリ国の歴史書を音読するのが日課だった。

その為に、まだ外が薄暗いうちから起きて、グラスにばっちりと身なりを整えてもらっていたのだけれど。

これからじゃ、いくら手際のいいグラスでも間に合わない。

「グラスもまだ眠っているのかしら」

生真面目なグラスでも、やらかすことがあるのね。

「昨夜のグラスの飲みっぷりはすごかったわ」

レモン酒、ラズベリー酒、すもも酒の瓶を次々に空っぽにしてゆく、トロンとした目のグラスの顔を思い浮かべ目を細める。

その時、ノックと共に部屋の扉が開いた。

「ローズ様。そろそろ起きた方がよろしいんじゃないでしょうか」

扉の隙間からグラスの顔がのぞく。

口角をあげてニヤッと笑っている。

「あら、グラス。
酔い潰れているんじゃなかったのね。
ならどうして、もっと早く起こしてくれなかったのよ」

口を尖らすと、扉の下からはってきたチューちゃんが口を開く。

「今日の日課は急遽なしになったんだ」

「そうなの? 
お母様に何かあったのかしら」

「リー国の国王が昨夜急死した。
で、女王と王婿はリー国へ向かっている。
ほら。早朝に届いた魔法郵便を読めばわかるぞ」

そう言って、チューちゃんは手に丸めていた手紙をくれた。

うけとった手紙には、お母様の流れるような美しい文字が並んでいる。

そこにはこう書かれていた。

『ローズウッドへ。
友好国リー国の王が急死しました。
わたくし達は急遽そちらへ向かいます。
リー国とストーン国は隣接しているので、帰途ストーン国へ立ち寄るつもりです。
あなたの婚礼の事についても、話しあってきます。
六日後には戻ります。
ですから、六日後の夜八時にわたくしの私室を訪ねてください。
もうすぐ嫁ぐあなたとじっくり話したいのです。
その日は本宮に泊まって下さい」

「『もうすぐ嫁ぐあなたとじっくり話したいのです。
その日は本宮に泊まって下さい」

伝達のような簡潔な文の最後のくだりにグッときて、声にだして繰り返し読む。

「ローズ様。ストーン国へは私も連れていって下さいね」

涙もろいグラスがハンカチで目頭をおさえているそばで、冷めた顔をしたブーニャンがポツリと呟いた。

「女王は、ローズに秘密をうちわけるつもりなのかしら。
黒い魔法の秘密をね」

「ブーニャン。黒い魔法の秘密ってどういうことなの?」

「あらいやだ。
私はそんなこと何も言ってないわよ。
ローズ、まだ寝ぼけているんじゃないの」

珍しくブーニャンがあわてている。

「ごまかさないでよ」

「ごまかしてなんかないわ」

ブーニャンは大きな瞳をキラリとさせると、窓から出て行ってしまう。

そして、胸に抱いていた手紙もシュンと音をたてて消えてゆく。

ま。いいか。

どちらにせよ、六日後にはわかることよ。

それまでノンビリ過ごしましょう。
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