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二十五、結婚の許可
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「わかりました」
お母様は扇を閉じて、ひと息つく。
そして、何かを考えているような目をして押し黙っていた。
けれども、それもつかの間だ。
お母様は扇でポンと膝をうつと、広い謁見の間の隅々にまで届く声で宣言した。
「ストーン国のレオ王と、我が国の第三王女ローズウッドの婚姻を許可します」
「ありがたき幸せでございます」
レオ王が重々しい声で女王の言葉をうける。
「では、これからのことはククス宰相を通してください。
レオ王殿。
私のローズをくれぐれもよろしくお願いします」
先ほどの威厳に満ちた女王の表情は、すっかり母親の顔になっていた。
「はい」
レオ王の短いが、しっかりした返事を聞くと女王達は退室してゆく。
お母様。お父様。ダリア。
去りゆく三人は、後ろ姿まで王族らしく洗礼されているのだ。
「そうだわ。
嫁ぐ前に、話しておかなければならないことがあります。
ローズウッド、あらためて、わたくしの私室へいらっしゃい。
おって、日時は連絡しますから」
扉の前で足を止め、お母様は私を振り向いた。
「はい。わかりました」
首を縦にふる。
それを確認すると、お母様は皆を従えて完全に謁見の間から姿を消した。
その後私達も退出する。
「女王様が気にされていたオニキス女官のことだが」
ゆっくりと扉が閉じるのを確認したレオ王が、話しかけてきた。
「その話はもういいのよ。
あなたの言葉を信じているから。
それより、今は一人になりたいの。
たった一日で色々なことがありすぎて、さすがに疲れてしまったみたいね」
向かいあうレオ王を見上げる。
「そうか」
レオ王は複雑な表情をしていた。
やはりその瞳は、宝石のように美しかったけれども。
「では、婚礼の日を楽しみにしている」
レオ王はそう言うと、両腕ですっぽりと私の身体を包みこむ。
相変わらずいい香りのする逞しい身体の感触に、すべてを忘れてしまいそうになった。
「それまでお元気にお過ごしください」
レオ王は、指で私の顎をグイと持ち上げる。
ひょっとしたら、キスをされるのかしら。
ドギマギした。
黙ってこちらを見つめてくるレオ王の形のいい唇に、つい視線を走らせてしまう。
確かこういう場面はこうね。
本で得た経験を生かし、ギュッと目を閉じる。
「これはこれは大胆な王女様だな」
ファーストキスの変わりに、レオ王の笑いが落ちてきた。
「けれど、甘いキスは結婚式までとっておこう」
レオ王はそう言って、私の鼻をつまんだ。
え? 嘘?
気がつけば、赤面した顔を両手で覆いながら、野薔薇の村へと走っていた。
村の澄んだ空気や素朴な風景は、興奮した私の気持ちを徐々に落ちつかせてくれる。
「ただいま、グラス」
しばらくすると家へ到着した。
「お帰りなさいませ」
扉を叩くと、待ち構えていたようにグラスが飛び出してくる。
「ローズ様。本宮で何があったか早く教えてください」
「長くなるけどいい?」
「もちろんです」
グラスにせかされて、キッチンのテーブルに座る。
テーブルの上には果物のはいった籠。
中からはチューちゃんが小さな顔をだしていた。
テーブルの下には、ブーニャンが身体を丸くして耳をすましている。
「あのね」
グラスの用意してくれたハーブテイを飲みながら話し始めた。
結局、話は深夜まで及んだ。
話しおえた時には、窓には丸い月がこうこうと輝いていた。
お母様は扇を閉じて、ひと息つく。
そして、何かを考えているような目をして押し黙っていた。
けれども、それもつかの間だ。
お母様は扇でポンと膝をうつと、広い謁見の間の隅々にまで届く声で宣言した。
「ストーン国のレオ王と、我が国の第三王女ローズウッドの婚姻を許可します」
「ありがたき幸せでございます」
レオ王が重々しい声で女王の言葉をうける。
「では、これからのことはククス宰相を通してください。
レオ王殿。
私のローズをくれぐれもよろしくお願いします」
先ほどの威厳に満ちた女王の表情は、すっかり母親の顔になっていた。
「はい」
レオ王の短いが、しっかりした返事を聞くと女王達は退室してゆく。
お母様。お父様。ダリア。
去りゆく三人は、後ろ姿まで王族らしく洗礼されているのだ。
「そうだわ。
嫁ぐ前に、話しておかなければならないことがあります。
ローズウッド、あらためて、わたくしの私室へいらっしゃい。
おって、日時は連絡しますから」
扉の前で足を止め、お母様は私を振り向いた。
「はい。わかりました」
首を縦にふる。
それを確認すると、お母様は皆を従えて完全に謁見の間から姿を消した。
その後私達も退出する。
「女王様が気にされていたオニキス女官のことだが」
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「その話はもういいのよ。
あなたの言葉を信じているから。
それより、今は一人になりたいの。
たった一日で色々なことがありすぎて、さすがに疲れてしまったみたいね」
向かいあうレオ王を見上げる。
「そうか」
レオ王は複雑な表情をしていた。
やはりその瞳は、宝石のように美しかったけれども。
「では、婚礼の日を楽しみにしている」
レオ王はそう言うと、両腕ですっぽりと私の身体を包みこむ。
相変わらずいい香りのする逞しい身体の感触に、すべてを忘れてしまいそうになった。
「それまでお元気にお過ごしください」
レオ王は、指で私の顎をグイと持ち上げる。
ひょっとしたら、キスをされるのかしら。
ドギマギした。
黙ってこちらを見つめてくるレオ王の形のいい唇に、つい視線を走らせてしまう。
確かこういう場面はこうね。
本で得た経験を生かし、ギュッと目を閉じる。
「これはこれは大胆な王女様だな」
ファーストキスの変わりに、レオ王の笑いが落ちてきた。
「けれど、甘いキスは結婚式までとっておこう」
レオ王はそう言って、私の鼻をつまんだ。
え? 嘘?
気がつけば、赤面した顔を両手で覆いながら、野薔薇の村へと走っていた。
村の澄んだ空気や素朴な風景は、興奮した私の気持ちを徐々に落ちつかせてくれる。
「ただいま、グラス」
しばらくすると家へ到着した。
「お帰りなさいませ」
扉を叩くと、待ち構えていたようにグラスが飛び出してくる。
「ローズ様。本宮で何があったか早く教えてください」
「長くなるけどいい?」
「もちろんです」
グラスにせかされて、キッチンのテーブルに座る。
テーブルの上には果物のはいった籠。
中からはチューちゃんが小さな顔をだしていた。
テーブルの下には、ブーニャンが身体を丸くして耳をすましている。
「あのね」
グラスの用意してくれたハーブテイを飲みながら話し始めた。
結局、話は深夜まで及んだ。
話しおえた時には、窓には丸い月がこうこうと輝いていた。
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