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二十三、シュリ王婿
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「ダリア。見苦しいですよ」
お母様はたった一言で、ピシャリとダリアをいさめた。
その後こちらに顔を向けると瞬きをする。
とたんに勢いよく燃えさかっていた炎が
一瞬にして消えた。
「凄いな。これが魔法というものなのか」
一部始終を見ていたレオ王は顔を強ばらせている。
彼の国には、魔法使いはいなかったはずだ。
驚いて当たり前である。
これで宰相達が魔法使いの王妃を渇望する理由が、理解できたかもしれない。
なら私はお払い箱ね。
そう思った時、お父様の声がした。
「ダリア。手違いは誰にでもある。
気を静めなさい」
その場の空気が少しざわつく。
なぜなら、これまで公的の場で、お父様自ら口を開くことはなかったからだ。
「わかりました」
末っ子のダリアはお父様の一番のお気にいりで、何をやっても許されていた。
さぞ驚いたことだろう。
悔しそうに唇を噛みしめながら、大人しく着席した。
「見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない」
お父様は今度はレオ王に視線を移す。
シュリ王婿。
お父様は皆からそう呼ばれている。
隣国の第八王子だったお父様は、ポプリ王国に婿入りをしたのだ。
王子といっても八番目になると、王位を継承することはまずない。
それでこういう形になったのだろうけど、誰が見てもお父様はお母様の影だった。
金髪碧眼の整った顔、筋肉質の大柄な体格、立派な外見は王族としての風格や品を十二分に兼ね備えているのに、かもしだす雰囲気は暗い。
なのに今日はいつものお父様とは違う。
「とんでもありません。
私の不手際で、ダリア王女様を怒らせてしまい恐縮です」
「その話はもういい。
それよりローズウッドを王妃に迎えたいという気持ちに、偽りはないのだろうか」
「もちろんです」
深くお辞儀をするレオ王と一緒に、私も頭を低くする。
「わかった。
私としては許してやりたいが」
お父様はそう言うと、お母様へ顔を向けた。
「あまりに急な話で、わたくしとしてはまだ心の準備ができてません。
それにローズウッドを嫁がすとしても、レオ王に一つだけ聞いておきたいことがあります。
よろしいですか」
「なんなりと」
「ダリアとの縁談をいただいて、失礼ながらそちらのことを調べさせました」
「当然のことです。
それで何か気がかりなことでも、見つかりましたか」
「はい。見つかりましたのよ」
レオ王様のお側には、黒衣の女と呼ばれる人がはべっているそうですね。
それは事実なのですか」
「黒衣の女? ああオニキスのことですか。
彼女はただの私の専属女官です。
女王様がお考えになっているような、存在ではございません」
お母様とレオ王の視線が、まっすぐにぶつかりあう。
二人はどちらも、とても堂々としている。
けれど私は違う。
黒衣の女ですって?
王様の専属女官ですって?
きっとレオ王とオニキスは王宮内で噂になっているのね。
初めて聞かされた事実に、膝から崩れ落ちそうなほどショックをうけて、立っているのが精一杯だった。
なるほどね。
それでわかってしまった。
レオ王が選んだのが、ダリアでなく私だと知って、お父様が見せた安堵の表情の理由がね。
お母様はたった一言で、ピシャリとダリアをいさめた。
その後こちらに顔を向けると瞬きをする。
とたんに勢いよく燃えさかっていた炎が
一瞬にして消えた。
「凄いな。これが魔法というものなのか」
一部始終を見ていたレオ王は顔を強ばらせている。
彼の国には、魔法使いはいなかったはずだ。
驚いて当たり前である。
これで宰相達が魔法使いの王妃を渇望する理由が、理解できたかもしれない。
なら私はお払い箱ね。
そう思った時、お父様の声がした。
「ダリア。手違いは誰にでもある。
気を静めなさい」
その場の空気が少しざわつく。
なぜなら、これまで公的の場で、お父様自ら口を開くことはなかったからだ。
「わかりました」
末っ子のダリアはお父様の一番のお気にいりで、何をやっても許されていた。
さぞ驚いたことだろう。
悔しそうに唇を噛みしめながら、大人しく着席した。
「見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない」
お父様は今度はレオ王に視線を移す。
シュリ王婿。
お父様は皆からそう呼ばれている。
隣国の第八王子だったお父様は、ポプリ王国に婿入りをしたのだ。
王子といっても八番目になると、王位を継承することはまずない。
それでこういう形になったのだろうけど、誰が見てもお父様はお母様の影だった。
金髪碧眼の整った顔、筋肉質の大柄な体格、立派な外見は王族としての風格や品を十二分に兼ね備えているのに、かもしだす雰囲気は暗い。
なのに今日はいつものお父様とは違う。
「とんでもありません。
私の不手際で、ダリア王女様を怒らせてしまい恐縮です」
「その話はもういい。
それよりローズウッドを王妃に迎えたいという気持ちに、偽りはないのだろうか」
「もちろんです」
深くお辞儀をするレオ王と一緒に、私も頭を低くする。
「わかった。
私としては許してやりたいが」
お父様はそう言うと、お母様へ顔を向けた。
「あまりに急な話で、わたくしとしてはまだ心の準備ができてません。
それにローズウッドを嫁がすとしても、レオ王に一つだけ聞いておきたいことがあります。
よろしいですか」
「なんなりと」
「ダリアとの縁談をいただいて、失礼ながらそちらのことを調べさせました」
「当然のことです。
それで何か気がかりなことでも、見つかりましたか」
「はい。見つかりましたのよ」
レオ王様のお側には、黒衣の女と呼ばれる人がはべっているそうですね。
それは事実なのですか」
「黒衣の女? ああオニキスのことですか。
彼女はただの私の専属女官です。
女王様がお考えになっているような、存在ではございません」
お母様とレオ王の視線が、まっすぐにぶつかりあう。
二人はどちらも、とても堂々としている。
けれど私は違う。
黒衣の女ですって?
王様の専属女官ですって?
きっとレオ王とオニキスは王宮内で噂になっているのね。
初めて聞かされた事実に、膝から崩れ落ちそうなほどショックをうけて、立っているのが精一杯だった。
なるほどね。
それでわかってしまった。
レオ王が選んだのが、ダリアでなく私だと知って、お父様が見せた安堵の表情の理由がね。
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