お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

文字の大きさ
上 下
24 / 76

二十三、シュリ王婿

しおりを挟む
「ダリア。見苦しいですよ」

お母様はたった一言で、ピシャリとダリアをいさめた。

その後こちらに顔を向けると瞬きをする。

とたんに勢いよく燃えさかっていた炎が
一瞬にして消えた。

「凄いな。これが魔法というものなのか」

一部始終を見ていたレオ王は顔を強ばらせている。 

彼の国には、魔法使いはいなかったはずだ。

驚いて当たり前である。

これで宰相達が魔法使いの王妃を渇望する理由が、理解できたかもしれない。

なら私はお払い箱ね。

そう思った時、お父様の声がした。

「ダリア。手違いは誰にでもある。
気を静めなさい」

その場の空気が少しざわつく。

なぜなら、これまで公的の場で、お父様自ら口を開くことはなかったからだ。

「わかりました」

末っ子のダリアはお父様の一番のお気にいりで、何をやっても許されていた。
 
さぞ驚いたことだろう。

悔しそうに唇を噛みしめながら、大人しく着席した。

「見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない」

お父様は今度はレオ王に視線を移す。

シュリ王婿。

お父様は皆からそう呼ばれている。

隣国の第八王子だったお父様は、ポプリ王国に婿入りをしたのだ。

王子といっても八番目になると、王位を継承することはまずない。

それでこういう形になったのだろうけど、誰が見てもお父様はお母様の影だった。

金髪碧眼の整った顔、筋肉質の大柄な体格、立派な外見は王族としての風格や品を十二分に兼ね備えているのに、かもしだす雰囲気は暗い。

なのに今日はいつものお父様とは違う。

「とんでもありません。
私の不手際で、ダリア王女様を怒らせてしまい恐縮です」

「その話はもういい。
それよりローズウッドを王妃に迎えたいという気持ちに、偽りはないのだろうか」

「もちろんです」

深くお辞儀をするレオ王と一緒に、私も頭を低くする。

「わかった。
私としては許してやりたいが」

お父様はそう言うと、お母様へ顔を向けた。

「あまりに急な話で、わたくしとしてはまだ心の準備ができてません。
それにローズウッドを嫁がすとしても、レオ王に一つだけ聞いておきたいことがあります。
よろしいですか」

「なんなりと」

「ダリアとの縁談をいただいて、失礼ながらそちらのことを調べさせました」 

「当然のことです。
それで何か気がかりなことでも、見つかりましたか」

「はい。見つかりましたのよ」
レオ王様のお側には、黒衣の女と呼ばれる人がはべっているそうですね。
それは事実なのですか」

「黒衣の女? ああオニキスのことですか。
彼女はただの私の専属女官です。
女王様がお考えになっているような、存在ではございません」

お母様とレオ王の視線が、まっすぐにぶつかりあう。 

二人はどちらも、とても堂々としている。

けれど私は違う。

黒衣の女ですって?

王様の専属女官ですって?

きっとレオ王とオニキスは王宮内で噂になっているのね。

初めて聞かされた事実に、膝から崩れ落ちそうなほどショックをうけて、立っているのが精一杯だった。

なるほどね。

それでわかってしまった。

レオ王が選んだのが、ダリアでなく私だと知って、お父様が見せた安堵の表情の理由がね。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

〖完結〗お飾り王妃は追放されて国を創る~最強聖女を追放したバカ王~

藍川みいな
恋愛
「セリシア、お前はこの国の王妃に相応しくない。この国から追放する!」 王妃として聖女として国を守って来たセリシアを、ジオン王はいきなり追放し、聖女でもない侯爵令嬢のモニカを王妃にした。 この大陸では聖女の力が全てで、聖女協会が国の順位を決めていた。何十年も一位だったスベマナ王国は、優秀な聖女を失い破滅する。 設定ゆるゆるの架空のお話です。 本編17話で完結になります。

処理中です...