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十八、後悔のハンカチ
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「ダリア。これはね。
ローズが僕の為につくってくれたんだって」
爽やかな香りのするお茶と一緒に運ばれた淡い黄色のケーキを、クレオが指さす。
「うん。美味しい」
クレオはフォークで小さく切ったそれを口に運んだとたん、目を丸くした。
もしここにダリアがいなければ、きっと天にものぼる気持ちになっただろう。
「そうよ。お姉様はこういうことは得意なのよ。
勉強や魔法は全然だけど。
ねえー。クレオ。
私にも一口ちょうだい」
ダリアがつややかな唇を開いて、クレオにおねだりをする。
「だめだよ。
これはローズが僕の為につくってくれたんだからね」
なんて言いながら、楽しそうにダリアの口元にケーキを運ぶクレオだった。
人前で恥ずかしくないのかしら。
ダリアもダリアだけど、クレオまで一体どうしたの。
それとも、本来ああいう人だったのかしら。
「わざわざクレオの為にこんなお茶会を開くなんて、お姉様はよほどクレオのことがお気にいりなのね」
唇に少しついたケーキを舌先でなめると、ダリアがじーとこちらを直視する。
まるで私の心の中を探るように。
「生徒会長の仕事を、長い間かげでささえてくれたんですもの。
当たり前でしょ。
クレオが留学する前に何かお礼をしたかったのよ。
それ以上の意味はないの」
「ふうん。そうなんだあ」
ダリアの大きな瞳が意地悪く光る。
「そうよ」
蛇ににらまれた蛙にも、それなりのプライドはあるのだ。
きっぱりとした声をだす。
「クレオ、私からお礼の品があるの。
受け取ってくれないかしら」
そう言うと傍にひかえていたグラスが、ワゴンに置いてある小さな箱を持ってきてくれた。
「それは光栄だな。ありがとうローズ」
クレオはいそいそと箱をあける。
箱の中にはレースにふちどられた白いハンカチが一枚。
そのハンカチに、数日かけて野薔薇とハートの刺繍をほどこした。
「凄いな。何色もの糸が使われている。
まるで繊細な絵のようだよ。
これはもったいなくて使えない。
ずーと大事に飾っておくよ」
ハンカチをひろげたクレオは、刺繍に視線を落とすと、少し驚いたような表情を見せた。
その言葉を聞けただけでも、苦手な刺繍を頑張ったかいがあったわ。
そう思った瞬間だった。
「私にも見せなさいよ」
ダリアが素早くクレオの手から、ハンカチを奪いとったのは。
「ふうん。なるほどね。
お姉様の愛をヒシヒシと感じるわ。
ねえ。クレオ。これ私にちょうだい。
ね。いいでしょ」
クレオの返事を待たずにダリアは、ハンカチを胸元にしまいこんだ。
「我儘なお姫様には困ったものだな。
ちゃんと後で取り返しておくから」
困ったような顔をしたクレオは、私に手をあわせた。
「あら。お姉様。
顔色がひどく悪いわよ。
ひょっとして、本気で怒っちゃった」
口元に指をそえてダリアが首を傾げる。
「そりゃそうよね。
だって、お姉様はクレオを愛していたんだもの」
いくらなんでもひどすぎるわ。
「なんですって」
テーブルを叩いて立ち上がった時だった。
「おいおい。聞き捨てならないな。
私のローズが誰を愛しているって」
背後から大人びた低い声がする。
「え?」
ふりむいた私の肩を抱いたのは、ありえない位美しい男性だった。
「嘘でしょ。
あんなお姉様に、こんな恋人がいたなんて」
ダリアが目を大きく見開いて驚いている。
「おい。私のローズに失礼なことを言うな」
男性が声を荒げたので、ダリアがビクッと肩を震わせた。
「ダリア。
僕達はお邪魔なようだから、このへんで退散しよう。
今日は色々とありがとう。ローズ」
空気を読んだクレオが立ち上がり、深々とお辞儀をする。
そして、ダリアを横抱きにしながら王宮へと歩いてゆく。
「お姉様。その人は誰なの?」
クレオに抱かれたダリアが、こちらを振り返った時だ。
ダリアが胸元から取り出したハンカチを、これ見よがせに地面に落としたのは。
「贈った私が馬鹿だったのね」
そう言って首をうなだれた。
ローズが僕の為につくってくれたんだって」
爽やかな香りのするお茶と一緒に運ばれた淡い黄色のケーキを、クレオが指さす。
「うん。美味しい」
クレオはフォークで小さく切ったそれを口に運んだとたん、目を丸くした。
もしここにダリアがいなければ、きっと天にものぼる気持ちになっただろう。
「そうよ。お姉様はこういうことは得意なのよ。
勉強や魔法は全然だけど。
ねえー。クレオ。
私にも一口ちょうだい」
ダリアがつややかな唇を開いて、クレオにおねだりをする。
「だめだよ。
これはローズが僕の為につくってくれたんだからね」
なんて言いながら、楽しそうにダリアの口元にケーキを運ぶクレオだった。
人前で恥ずかしくないのかしら。
ダリアもダリアだけど、クレオまで一体どうしたの。
それとも、本来ああいう人だったのかしら。
「わざわざクレオの為にこんなお茶会を開くなんて、お姉様はよほどクレオのことがお気にいりなのね」
唇に少しついたケーキを舌先でなめると、ダリアがじーとこちらを直視する。
まるで私の心の中を探るように。
「生徒会長の仕事を、長い間かげでささえてくれたんですもの。
当たり前でしょ。
クレオが留学する前に何かお礼をしたかったのよ。
それ以上の意味はないの」
「ふうん。そうなんだあ」
ダリアの大きな瞳が意地悪く光る。
「そうよ」
蛇ににらまれた蛙にも、それなりのプライドはあるのだ。
きっぱりとした声をだす。
「クレオ、私からお礼の品があるの。
受け取ってくれないかしら」
そう言うと傍にひかえていたグラスが、ワゴンに置いてある小さな箱を持ってきてくれた。
「それは光栄だな。ありがとうローズ」
クレオはいそいそと箱をあける。
箱の中にはレースにふちどられた白いハンカチが一枚。
そのハンカチに、数日かけて野薔薇とハートの刺繍をほどこした。
「凄いな。何色もの糸が使われている。
まるで繊細な絵のようだよ。
これはもったいなくて使えない。
ずーと大事に飾っておくよ」
ハンカチをひろげたクレオは、刺繍に視線を落とすと、少し驚いたような表情を見せた。
その言葉を聞けただけでも、苦手な刺繍を頑張ったかいがあったわ。
そう思った瞬間だった。
「私にも見せなさいよ」
ダリアが素早くクレオの手から、ハンカチを奪いとったのは。
「ふうん。なるほどね。
お姉様の愛をヒシヒシと感じるわ。
ねえ。クレオ。これ私にちょうだい。
ね。いいでしょ」
クレオの返事を待たずにダリアは、ハンカチを胸元にしまいこんだ。
「我儘なお姫様には困ったものだな。
ちゃんと後で取り返しておくから」
困ったような顔をしたクレオは、私に手をあわせた。
「あら。お姉様。
顔色がひどく悪いわよ。
ひょっとして、本気で怒っちゃった」
口元に指をそえてダリアが首を傾げる。
「そりゃそうよね。
だって、お姉様はクレオを愛していたんだもの」
いくらなんでもひどすぎるわ。
「なんですって」
テーブルを叩いて立ち上がった時だった。
「おいおい。聞き捨てならないな。
私のローズが誰を愛しているって」
背後から大人びた低い声がする。
「え?」
ふりむいた私の肩を抱いたのは、ありえない位美しい男性だった。
「嘘でしょ。
あんなお姉様に、こんな恋人がいたなんて」
ダリアが目を大きく見開いて驚いている。
「おい。私のローズに失礼なことを言うな」
男性が声を荒げたので、ダリアがビクッと肩を震わせた。
「ダリア。
僕達はお邪魔なようだから、このへんで退散しよう。
今日は色々とありがとう。ローズ」
空気を読んだクレオが立ち上がり、深々とお辞儀をする。
そして、ダリアを横抱きにしながら王宮へと歩いてゆく。
「お姉様。その人は誰なの?」
クレオに抱かれたダリアが、こちらを振り返った時だ。
ダリアが胸元から取り出したハンカチを、これ見よがせに地面に落としたのは。
「贈った私が馬鹿だったのね」
そう言って首をうなだれた。
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