上 下
17 / 76

十六、クレオとダリア

しおりを挟む
「チューチューチュ」

黙っていると、草むらからチューちゃんが飛び出してきて、テーブルの上まで上ってくる。

「ローズ。あっちを見て」

チューちゃんの指先は、本宮へと繋がる小道をさしていた。

「ネズミが飛び出してくるっていうことは、まさか地震の予兆じゃないだろうな」

チューちゃんの言葉を理解しないクレオが、顎に手をあてて悩んでいる。

オーマン侯爵の領地は、なぜか最近たて続けに自然災害にみまわれていた。
  
それをきっかけに息子のクレオも、防災に興味をもったようだ。

『地震や火事で、家や家屋を失った領民の姿を見るのが辛い。
だから、耐震耐火にすぐれた家を建てたいんだ』

学園でおしゃべりをしている時も、何回もそう言っていたように思う。

留学するのもその為に違いない。

「大丈夫よ。
飛び出してきたのはこの子だけだもん」

「そうかな。
そうそう今日はローズに報告することが、二つあるんだよ。
一つはね。
近いうちに留学するんだ」

「もう王宮内では噂になってるわ」

「じゃあ知ってたんだね」

「うん」

「スコン国に建築技術をを学びにいくんだ。
あの国の優れた」
とクレオが言いかけた時だった。

「ギャーオ」

テーブルの下でブーニャンが鳴く。

「ダリアがやってくるわ。彼女の香りがするもの」

ブーニャンはそう教えてくれていた。

「ダリアが?」

テーブルの下に手をいれて、ブーニャンを抱きかかて首を傾げる。

そして、ゆっくりとチューちゃんの指差す方へ視線を移して、目を丸くした。

そこにはダリアがいたのだ。

「なにあの格好。
まるで舞踏会にでもいくようね」

まっ赤なドレスに、胸元にはまっ赤な宝石のついたネックレス。

髪にはまっ赤な大きなリボン。

「まるで炎の魔女ね」

プッと笑った時だった。 

「いつもながら清楚なワンピースだこと。
まるで農家の女ね」

耳元で甲高いダリアの声がする。

「何の用かしら。
せっかくクレオと大事な話をしていたのに」

少しはもてない姉に遠慮しなさいよ。

ほんと気がきかないわね。

「クレオ。彼女に内緒でお姉様と二人っきりでお茶するなんて、ひどいじゃない。
私のお部屋の窓から、たまたま二人を見つけて、こうして急いでやってきたのよ」

私を無視したダリアは、クレオの膝の上にのり甘えた声をだす。

「ダリアこそ。
ずいぶんお洒落をしてるじゃないか。
こっそり誰かと、デートするんじゃないだろうな」

クレオはダリアの細い腰に手を回すと、眩しそうにダリアを見つめている。

こんなクレオ初めてだ。

そういうことなのね。

クレオにとって私はただの友達。

ダリアは女性なのだ。

「驚かせてごめん。
二つ目の報告はこれなんだ」

呆然としている私に気がついたクレオは、照れくさそうに頭をかいた。

「いつからなの。全然気がつかなかったわ」

自分でも顔がこわばってゆくのがわかる。

それを必死で笑顔にかえてゆく。

「つい最近なんだ。
少し前、ダリアが突然屋敷を訪ねてきてね」

「ダリアが? どうしてなの?」

「ローズが言ったんだろ。
次期生徒会長のダリアに質問された時に。
『私には生徒会長の仕事はわからない。
だからクレオに聞きなさい』って」

「私が言ったって?」

なんて妹なの。

うすうす姉の気持ちを知りながら、嘘までついて屋敷におしかけるなんて。

けど、今さら言ってもしかたがない。

「そんなような気もするわ」

「ほんとローズは忘れっぽいな。
その訪問がきっかけで、ダリアと親しくなれたんだ。
ローズには感謝しかないな」

照れたようなクレオの笑顔に、チクリと胸が痛む。

「ちょどそのころ耐火性の強い家を、模索していてね。
ダリアの火魔法が、ものすごく役にたったんだ」

「それはよかったわね」

全然気持ちのこもらない言葉を口にする。

「ダリアは女性としても、研究のパートナーとしても最高なんだ」

頬を染めながら話すクレオは初々しい。

「けど。クレオは留学するでしょ。
遠距離ってどうなるかわからないから、お母様にはしばらく内緒にしたいの。
お願いね。お姉様」

その言い草は、まだ他の男もあきらめていないようにもとれる。

なんてふてぶてしい。

ダリアは、クレオに抱かれながら、勝ち誇った視線を投げてきた。

ずーと楽しみにしていたお茶会だったのに、今すぐにでも取り止めたいほどだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる

美並ナナ
恋愛
リズベルト王国の王女アリシアは、 敗戦に伴い長年の敵対国である隣国との同盟のため ユルラシア王国の王太子のもとへ嫁ぐことになる。 正式な婚姻は1年後。 本来なら隣国へ行くのもその時で良いのだが、 アリシアには今すぐに行けという命令が言い渡された。 つまりは正式な婚姻までの人質だ。 しかも王太子には寵愛を与える側妃がすでにいて 愛される見込みもないという。 しかし自国で冷遇されていたアリシアは、 むしろ今よりマシになるくらいだと思い、 なんの感慨もなく隣国へ人質として旅立った。 そして隣国で、 王太子の側近である美貌の公爵ロイドと出会う。 ロイドはアリシアの監視役のようでーー? これは前世持ちでちょっぴりチートぎみなヒロインが、 前向きに人質生活を楽しんでいたら いつの間にか愛されて幸せになっていくお話。 ※設定がゆるい部分もあると思いますので、気楽にお読み頂ければ幸いです。 ※前半〜中盤頃まで恋愛要素低めです。どちらかというとヒロインの活躍がメインに進みます。 ■この作品は、エブリスタ様・小説家になろう様でも掲載しています。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

処理中です...