お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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十六、クレオとダリア

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「チューチューチュ」

黙っていると、草むらからチューちゃんが飛び出してきて、テーブルの上まで上ってくる。

「ローズ。あっちを見て」

チューちゃんの指先は、本宮へと繋がる小道をさしていた。

「ネズミが飛び出してくるっていうことは、まさか地震の予兆じゃないだろうな」

チューちゃんの言葉を理解しないクレオが、顎に手をあてて悩んでいる。

オーマン侯爵の領地は、なぜか最近たて続けに自然災害にみまわれていた。
  
それをきっかけに息子のクレオも、防災に興味をもったようだ。

『地震や火事で、家や家屋を失った領民の姿を見るのが辛い。
だから、耐震耐火にすぐれた家を建てたいんだ』

学園でおしゃべりをしている時も、何回もそう言っていたように思う。

留学するのもその為に違いない。

「大丈夫よ。
飛び出してきたのはこの子だけだもん」

「そうかな。
そうそう今日はローズに報告することが、二つあるんだよ。
一つはね。
近いうちに留学するんだ」

「もう王宮内では噂になってるわ」

「じゃあ知ってたんだね」

「うん」

「スコン国に建築技術をを学びにいくんだ。
あの国の優れた」
とクレオが言いかけた時だった。

「ギャーオ」

テーブルの下でブーニャンが鳴く。

「ダリアがやってくるわ。彼女の香りがするもの」

ブーニャンはそう教えてくれていた。

「ダリアが?」

テーブルの下に手をいれて、ブーニャンを抱きかかて首を傾げる。

そして、ゆっくりとチューちゃんの指差す方へ視線を移して、目を丸くした。

そこにはダリアがいたのだ。

「なにあの格好。
まるで舞踏会にでもいくようね」

まっ赤なドレスに、胸元にはまっ赤な宝石のついたネックレス。

髪にはまっ赤な大きなリボン。

「まるで炎の魔女ね」

プッと笑った時だった。 

「いつもながら清楚なワンピースだこと。
まるで農家の女ね」

耳元で甲高いダリアの声がする。

「何の用かしら。
せっかくクレオと大事な話をしていたのに」

少しはもてない姉に遠慮しなさいよ。

ほんと気がきかないわね。

「クレオ。彼女に内緒でお姉様と二人っきりでお茶するなんて、ひどいじゃない。
私のお部屋の窓から、たまたま二人を見つけて、こうして急いでやってきたのよ」

私を無視したダリアは、クレオの膝の上にのり甘えた声をだす。

「ダリアこそ。
ずいぶんお洒落をしてるじゃないか。
こっそり誰かと、デートするんじゃないだろうな」

クレオはダリアの細い腰に手を回すと、眩しそうにダリアを見つめている。

こんなクレオ初めてだ。

そういうことなのね。

クレオにとって私はただの友達。

ダリアは女性なのだ。

「驚かせてごめん。
二つ目の報告はこれなんだ」

呆然としている私に気がついたクレオは、照れくさそうに頭をかいた。

「いつからなの。全然気がつかなかったわ」

自分でも顔がこわばってゆくのがわかる。

それを必死で笑顔にかえてゆく。

「つい最近なんだ。
少し前、ダリアが突然屋敷を訪ねてきてね」

「ダリアが? どうしてなの?」

「ローズが言ったんだろ。
次期生徒会長のダリアに質問された時に。
『私には生徒会長の仕事はわからない。
だからクレオに聞きなさい』って」

「私が言ったって?」

なんて妹なの。

うすうす姉の気持ちを知りながら、嘘までついて屋敷におしかけるなんて。

けど、今さら言ってもしかたがない。

「そんなような気もするわ」

「ほんとローズは忘れっぽいな。
その訪問がきっかけで、ダリアと親しくなれたんだ。
ローズには感謝しかないな」

照れたようなクレオの笑顔に、チクリと胸が痛む。

「ちょどそのころ耐火性の強い家を、模索していてね。
ダリアの火魔法が、ものすごく役にたったんだ」

「それはよかったわね」

全然気持ちのこもらない言葉を口にする。

「ダリアは女性としても、研究のパートナーとしても最高なんだ」

頬を染めながら話すクレオは初々しい。

「けど。クレオは留学するでしょ。
遠距離ってどうなるかわからないから、お母様にはしばらく内緒にしたいの。
お願いね。お姉様」

その言い草は、まだ他の男もあきらめていないようにもとれる。

なんてふてぶてしい。

ダリアは、クレオに抱かれながら、勝ち誇った視線を投げてきた。

ずーと楽しみにしていたお茶会だったのに、今すぐにでも取り止めたいほどだ。
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