お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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十三、氷の王子 レオ視点2

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賑わう会場の中で彼女は、ポツンと一人で立っていた。

誰一人として声をかけるものはいない。

「どこの王宮も似たようなものだな」

鼻で笑い、その場を離れようとしと時だった。

「嘘だろ」

さっきまで床にはりつけられたように固まっていた彼女が、次から次へとグラスを口にしていく。

確かあの場所は、カクテルコーナのはずだ。

楽しんでいるというより、やけ酒のような感じがする。 

「馬鹿なヤツだな」

眉尻を下げて呆れていると、今度は彼女が脱兎のごとく駆けていく。

よく見れば、こころもち足がふらついているようだ。

「大丈夫か」

舌打ちをすると、勝手に身体が彼女を追いかけていた。

会場を抜けた彼女は、庭園を横切ってゆく。

「私は一体何をやっているのか」

自分でも自分の行動がわからない。

ひょっとしたら、彼女に母親を重ね合わせて同情しているのだろうか。

必死で、髪と同じ薄ピンクのドレスを纏った女を追いかけてゆく。

「身なりはよさそうだが、あの走り方は高位貴族の令嬢ではないな」

ドドドドドと音が聞こえそうなほど、粗っぽい走りだった。

彼女を追っていると、いつのまにか素朴な村にたどりつく。

そこの大きな木の下でへたりこんだ彼女は、あっというまに着替えをおわらせたのだ。

「指をふっただけで、ドレスがかわったな。
ひょとしたら、彼女は魔法使いなのか」

木陰に身を隠し、顎に手をそえて考える。

彼女は何者なのだろうか、と。

そして、気がつけば彼女の前に立ちはだかっていたのだ。

「ハ、ハ、ハリス王子が本から抜け出してきたわ」

彼女は私を見るなり、目を丸くして立ち上がる。

どうやら相当酔っているようだな。 

「ハリス王子? 
誰だそれは。
そんなことより、なぜ会場から逃げてきたんだ。
せっかくダンスに誘おうとしたのに」

『ダンスに誘おうとしたのに』は、追いかけてきた言い訳だった。

もちろん、まるっきりの嘘だ。

けど、彼女はどうやら信じてくれたようで、丁寧なカーテシーを披露してくれた。

「はじめまして。
私はこの国の第三王女ローズウッドです」

王女だと?

この気弱そうな野ウサギのような女が?

さっきの勝ち気そうなダリアとは真逆だな。

「驚かれて当然です。
金髪碧眼でないポプリの国の王女なんて、聞いたことないでしょ。
会場でもね。皆が色々と噂していたわ
『他の王女とは何もかも違う、できそこないの王女だ』ってね」

そういうわけか。 

時前にポプリ国の姫君達について学習してなかったので、何もわからなかった。

少し後悔して、唇をキュッとかむ。

「ははーん。それでここへ逃げてきたのか。 
女狐の言うとこなんか気にするな。
他の王女と違って何が悪い。
他の王女と違う幸せが待っているだけだ」

気がつけば涙目になっているローズウッド王女に、声をあらげていたのだ。

初対面の王女に、どうしてこんなにムキになるのか。

ひょとしたら、こういうのが私のタイプなのか。

いや。それはないな。

「探しましたぞ。こんな所で何をしておられる」 

密かな悩みは宰相の出番で、打ち切られたのだ。



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