お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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十一、氷の王子2

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「あんな風に皆に思われていたなんて、ショックだわ」

薄々わかってはいた。

けれど、はっきり言葉で聞くと、やはりどうしようもなく悲しい。

お母様だって、きっと私が恥ずかしいのだ。 

だから、適当な言い訳をつけて本宮から追い出したのに違いない。

アレコレと考えながら走っていると、いつのまにか野薔薇の村まで来ていた。

「やっぱり、ここだけが私の居場所なんだわ」

村で一番大きな木の根っこにへたりこんだ。 

祝宴用につくってもらったピンク色のドレスの裾には、たっぷりとレースがあしらわれていたけど、それにも泥がついてしまう。

「こんなドレス窮屈だわ。
もう会場には戻らないから、着替えましょう」

自分に人差し指をむけて呪文を唱える。

「これでやっと落ち着けるわ」 

いつも着ている簡素な水色のワンピースが、やはり一番しっくりくる。

野薔薇の村での生活は、本宮での暮らしより気ままだった。

もし本宮に住んでいたら、毎日きちんとドレスを着せられ、大勢の侍女にかしづかれていただろう。

「考えただけでも息がつまるわ」
案外、はみ出し者の姫も悪くないかも」

ワンピーズのポケットから本を取り出すと、膝をかかえて座り直す。

「ハリス王子は、なぜマーゴ姫につれないのかしら」

勉強は苦手だか、読書だけは大好きだった。 

現在読んでいるのは、王都で大流行している恋愛物「ハリス王とマーゴ姫」だ。

わくわくしながら、栞をはさんだページを開く。

「あんな優しい姫の魅力に気がつかないて、ハリス王子は駄目ね」

呟いた時だった。

本の上に黒い影ができる。

「偉そうに他人のことを言えるのか」

それと同時に、低くて力強い声が落ちてきた。

「え?」

空耳かしら。

本から徐々に視線を上に移す。

「嘘でしょ!」

プラチナ色に輝く長い髪、複雑な光を放って輝くエメラルド色の瞳、金糸の刺繍がほどこされた白い礼服に身をつつんだスラリとした肢体。

そこに立っていた男性は、まさに本の中のハリス王子そのものだったのだ。

「ハ、ハ、ハリス王子が本から抜けだしてきたわ」

うわずった声をあげると、手にした本を地面に落として立ち上がる。

「ハリス王子? 
誰だそれは。
そんなことより、なぜ会場から逃げてきたんだ。
せっかくダンスに誘おうとしたのに」

男性は美しい眉をギュッとひそめた。

「ハリス王子が、私なんかをどうしてですか?」

「さっき言ったように、私はハリス王子ではない。
私はストーン国のレオという者だ。
で、ダンスに誘った理由はだな。
会場には、厚化粧をした女狐しかいなかっただろ。
だが、私は女狐とは踊りたくない。
見たところ、あなたしか人間はいなかったからだ」

「厚化粧の女狐って」

吹き出しそうになったので、口元に両手をあててこらえる。

「はじめまして。
私はこの国の第三王女、ローズウッドです」

遅ればせながら、ワンピースの裾をつまんでカーテシーをとった。

「王女だと?」

戸惑ったような声をだした彼の視線は、ピンク色の髪へ向けられる。

「驚かれて当然です。
金髪碧眼でないポプリの国の王女なんて、聞いたことないでしょ。
会場でもね。
皆が色々と噂していたわ
『他の王女とは何もかも違う、できそこないの王女だ』ってね」

さっきの言葉の数々を思い出して、少し涙目になってしまう。

「ははーん。それでここへ逃げてきたのか。
女狐の言うことなんか気にするな。
他の王女と違って何が悪い。
他の王女と違う幸せが、待っているだけだ」

「それはどういう意味かしら」

向かい合う彼を見あげた。

「言葉どおりだ。
そんなこともわからないとは、駄目だな」

口調は皮肉っぽかったが、瞳の色は優しい。

「あのう。
正式なお名前をお聞きしてよろしいでしょうか」

おずおずと声をだした、その時。

「探しましたぞ。こんな所で何をしておられる」

顎髭をたくわえた紳士を先頭に、屈強な男達がやってきたので、咄嗟に木陰に身を隠した。

「王子様。そろそろ会場へお戻りください」

「わかった」

彼はうなずくと、会場へ足をむける。

「ストーン国のレオ王子ね」

小さく囁いてから、彼のことを氷の王子と呼ぶことにした。

物語の中で、氷の王子はハリス王子の二つ名だったのだ。

「お姉様とは違う違う幸せがまっている。
私は私よ。
そう考えると気が楽になるわ」

見上げた空には、一番星が輝いていた。
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