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六、お茶会の返事
しおりを挟む封筒の中から、きちんと畳まれた手紙をとりだす。
上質な紙でつくられた便箋をゆっくりと開いていくと、ほのかに甘い香りが漂ってきた。
「あらあ。手紙に香りをしたためるなんて、クレオ様もなかなかやるじゃない」
ブーニャンはそう言うと、満足そうに鼻をヒクヒクさせる。
「ほんとね」
「クレオ様からの愛の告白だったりしてね」
「そんなわけないでしょ。
私とクレオはそんな関係じゃないもの」
思いがけないブーニャンの言葉に、顔を赤らめた。
「まあ。それは残念ね。
ローズはそうなりたいのにね」
「もう! いちいちうるさい猫ね。
しばらく、あっちへ行っててよ」
手にした手紙をヒラヒラさせて、ブーニャンを追い払う。
「ニャアーン」
ブーニャンは、ほんの少しだけ後ずさる。
「お願いだから、そこで大人しくしていてね」
ブーニャンを軽くにらむと、ドキドキしながら手紙をひらく。
便箋の上には、白い花模様がうきでていた。
花模様のちょっと下に、青いインクで書かれた綺麗な文字が並んでいる。
間違いなくクレオの物だ。
ー親愛なるローズウッド王女様へー
手紙はお決まりの言葉で始まっていた。
「ねえ。私にも見せてくれない」
黙ったまま、手紙に視線をはしらせていると、じれたブーニャンがチャリンと鈴の音を鳴らして、またすり寄ってくる。
「あのね。クレオはこう言ってるの。
『喜んでお茶会に参加させていただきます』
ってね。
普通のお茶会じゃないわ。
二人だけのお茶会によ」
幸せな気分で胸がふくらむ。
「悪いけど、これはブーニャンには見せられないの」
私宛のクレオからの手紙を、誰とも共有したくなかったのだ。
「ふん。ローズのケチ」
「いいでしょ。中身は教えたんだから」
膝をおり、不満顔のブーニャンの喉元を指でくすぐって御機嫌をとる。
「やけに喜しそうね。
まさか愛の告白でもされたの?」
「さっきも言ったじゃない。
それは絶対ないんだって」
そう言いながら、頬がゆるみそうになるのを必死でこらえた。
「でしょうね。わかっているわ。
ちょっと、言ってみただけよ」
「もう。ブーニャンたら。
人が、じゃなくて猫が悪いんだから」
今は何を言われても上機嫌なのだ。
目を細めてブーニャンの頭をなでると、手紙をゆっくりと胸元にしまおうとした。
その時。
頭上から、聞きなれたソプラノの声が落ちてきたのだ。
「まあ、『愛の告白』ですって?
いったい何の話しをしているの?」
声の主はダリアだった。
「たいしたことじゃないのよ」
返事をしたと同時に、上から伸びてきた白い手に手紙を奪われてしまう。
「私にきた手紙よ。返してよ」
「いやよ。
へえ。クレオ侯爵令息ねえ」
一瞬で手紙に目をはしらせたダリアは、手紙を廊下に投げ捨てると、何かを考えるように頭を傾けていた。
「私の取り巻きじゃないけれど、確かに超優良物件ね。
教えてくれてありがとう。
ローズお姉様」
そう言うと、手にした扇で口元を隠してニッコリと微笑む。
透き通るような青い瞳は、意地悪く輝いていた。
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