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四、宰相ククス
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執務室を出ると、廊下の向こうから宰相ククスがこちらへやってきた。
「おはようございます。ローズウッド様。
毎朝のお勤めごくろうさまです」
ククスは、少し口角をあげて目を細める。
お母様は幼なじみのククスに、公私共に絶対的信頼をよせていた。
「おはようございます。ククス宰相。
今から、お母様の執務室へ行かれるのですか」
「はい。こない女王様から頼まれていた書類ができあがったので、お持ちするところです」
「宰相こそ、こんなに朝早くからお勤めごくろうさまです」
「いえ。こちらこそ、朝早くから押しかけて心苦しいのですが、急ぎの書類のようだったので」
長身の宰相と話すと、どうしても見下ろされる形になる。
そして、それが妙に心地よい。
宰相の髪と瞳は私と同じ色だ。
長い薄ピンクの髪を後ろで一本にくくった宰相は、とにかく頭が切れると評判だった。
そのうえスラリと長い手足、品の良い整った顔ときてるのだから、王宮の女官や侍女達に根強いファンが多い。
そんなククス宰相なのに、いまだに独身を貫いている。
「いつも親身に支えてくださり、お母様もククス宰相にはとても感謝してます。
だから宰相がいまだに独身なのを凄く心配して、『誰かいい人はいないかしら』と私にまで聞いてくるのよ。
笑ってしまいますわ」
そう言って目を細め、ククス宰相の瞳の動きをジーとうかがう。
本当はお母様はそんなことは、一言も言っていない。
けれどもどうしても、ククス宰相の本心を確かめたかった。
なので、つまらない嘘をついてしまう。
実は、王宮内にはひっそりと囁かれている噂がある。
ーククス宰相は女王様を慕っているー
これは宰相に振り向いてもらえない女達が流した、ただの噂だろうか。
「お忙しい女王様に、そこまでご心配をおかけしているとは、申し訳ありません。
もてない自分を恥じねば」
宰相はそう言うとカラカラと笑った。
頭の上に片手をおいて、目を細める姿を見ていると、やはりお母様とククス宰相の間には何もないように思える。
「あらあら。
もてないだなんて、ククス宰相は意外に嘘つきね。
ひょっとしたら、どこかに隠し子でもいたりして」
作り笑いをしながら、細心の注意をはらってククス宰相の顔色の変化をうかがう。
「ははは。本当にそうだと良いのですが。
年老いた母親にも、孫を見せてやれますしね。
欲を言えば、ローズウッド王女のような娘がいいですな」
「私のような落ちこぼれなんか娘にしたら、たいへんだわ。
ククス宰相もお母様のような苦労がしたいわけなの?」
思いがけない宰相の返事に、頬を染めて照れてしまう。
完全にペースを狂わされてしまった。
「あら、いけないわ。
ククス宰相は急ぎの用事があったのね。ひきとめてしまって、ごめんなさい」
探りをいれるのをあきれめて、ククス宰相を執務室へと向かわせる。
「では、失礼いたします。
楽しいお時間を、ありがとうございした」
宰相は深々と一礼すると、方向をかえてカツカツと靴音をたてながら廊下を歩いてゆく。
「やっぱり、私のただの妄想なのかしら」
遠くなる靴音を背中で聞きながら、小首をひねる。
ー私の本当の父親はククス宰相かもー
いつからだろう。
気がつけば、心に芽生えていた疑惑だった。
一つ目の根拠は髪と瞳の色だ。
薄いピンクのそれを持つ者は、広い王都でも私とククス宰相だけだから。
二つ目の根拠は、実の父親であるシュリ王が私にだけ冷淡だったからだ。
「おはようございます。ローズウッド様。
毎朝のお勤めごくろうさまです」
ククスは、少し口角をあげて目を細める。
お母様は幼なじみのククスに、公私共に絶対的信頼をよせていた。
「おはようございます。ククス宰相。
今から、お母様の執務室へ行かれるのですか」
「はい。こない女王様から頼まれていた書類ができあがったので、お持ちするところです」
「宰相こそ、こんなに朝早くからお勤めごくろうさまです」
「いえ。こちらこそ、朝早くから押しかけて心苦しいのですが、急ぎの書類のようだったので」
長身の宰相と話すと、どうしても見下ろされる形になる。
そして、それが妙に心地よい。
宰相の髪と瞳は私と同じ色だ。
長い薄ピンクの髪を後ろで一本にくくった宰相は、とにかく頭が切れると評判だった。
そのうえスラリと長い手足、品の良い整った顔ときてるのだから、王宮の女官や侍女達に根強いファンが多い。
そんなククス宰相なのに、いまだに独身を貫いている。
「いつも親身に支えてくださり、お母様もククス宰相にはとても感謝してます。
だから宰相がいまだに独身なのを凄く心配して、『誰かいい人はいないかしら』と私にまで聞いてくるのよ。
笑ってしまいますわ」
そう言って目を細め、ククス宰相の瞳の動きをジーとうかがう。
本当はお母様はそんなことは、一言も言っていない。
けれどもどうしても、ククス宰相の本心を確かめたかった。
なので、つまらない嘘をついてしまう。
実は、王宮内にはひっそりと囁かれている噂がある。
ーククス宰相は女王様を慕っているー
これは宰相に振り向いてもらえない女達が流した、ただの噂だろうか。
「お忙しい女王様に、そこまでご心配をおかけしているとは、申し訳ありません。
もてない自分を恥じねば」
宰相はそう言うとカラカラと笑った。
頭の上に片手をおいて、目を細める姿を見ていると、やはりお母様とククス宰相の間には何もないように思える。
「あらあら。
もてないだなんて、ククス宰相は意外に嘘つきね。
ひょっとしたら、どこかに隠し子でもいたりして」
作り笑いをしながら、細心の注意をはらってククス宰相の顔色の変化をうかがう。
「ははは。本当にそうだと良いのですが。
年老いた母親にも、孫を見せてやれますしね。
欲を言えば、ローズウッド王女のような娘がいいですな」
「私のような落ちこぼれなんか娘にしたら、たいへんだわ。
ククス宰相もお母様のような苦労がしたいわけなの?」
思いがけない宰相の返事に、頬を染めて照れてしまう。
完全にペースを狂わされてしまった。
「あら、いけないわ。
ククス宰相は急ぎの用事があったのね。ひきとめてしまって、ごめんなさい」
探りをいれるのをあきれめて、ククス宰相を執務室へと向かわせる。
「では、失礼いたします。
楽しいお時間を、ありがとうございした」
宰相は深々と一礼すると、方向をかえてカツカツと靴音をたてながら廊下を歩いてゆく。
「やっぱり、私のただの妄想なのかしら」
遠くなる靴音を背中で聞きながら、小首をひねる。
ー私の本当の父親はククス宰相かもー
いつからだろう。
気がつけば、心に芽生えていた疑惑だった。
一つ目の根拠は髪と瞳の色だ。
薄いピンクのそれを持つ者は、広い王都でも私とククス宰相だけだから。
二つ目の根拠は、実の父親であるシュリ王が私にだけ冷淡だったからだ。
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