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プロローグ 時をもどすオルゴール

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「空までが、お祝いしてくれているみたいね」

老婆は眩しそうに目を細めて、真っ青な空を見上げた。

「今日はね。この国のお誕生日なのよ」

高い尖塔が何本もそびえる王宮前の広場に、そろそろ色々な屋台がでるころだ。

「ちょっと早く来すぎたみたいね。
バアバは疲れたから、ここで屋台を待ちましょう」

老婆は、高く水をあげる噴水の回りのベンチに腰をおろす。

「バアバ。ストーン国は、何歳になるの」

前髪をまっすぐに揃えた少女は、唇に小さな指をおいて小首を傾げる。

「さあね。忘れたわ」

老婆は少女に柔らかい微笑みをむけた。

「なーんだあ。ねえバアバ。
あの二人も、ストーン国のお誕生日をお祝いしてるのかな」

「そりゃそうよ。
あの人達はね。昔、この国の王様と王妃様だったんだから」

老婆は、孫の指さす銅像に視線をむける。

足首まである長いマントをつけた王様と、胸元にリボンの飾りが施されたドレスを纏った王妃は、仲むつまじく寄り添っていた。

「実はね。あの王妃様は魔法使いだったのよ」

「バアバの嘘つき。
現実に魔法使いなんかいないもん」

少女は驚いたように目を丸くしてから、不満そうに頬をふくらます。

「今はね。
でもあの頃にはいたんだって。
それでね。王妃様は愛する王様にかけられた呪いを、魔法でといたのよ」

「すっごい!
一体どんな魔法を使ったのかな。
どーして、王様は呪いをかけられたの。
ねえねえ。バアバ。教えて、教えてよ」

「いいわよ。
じゃあ、王様や王妃様のおられた時代に、時を巻き戻してみるわね」

老婆は悪戯っぽく笑う。

「そんなことができるの」

少女は不思議そうに老婆を、じーと見つめる。

「ずーと秘密にしていた魔道具があるのよ」

老婆はスカートのポケットから、古びたオルゴールを取り出すと、山吹色の花が描かれた蓋をパカンと開く。

「おはようございます。
王様、王妃様」

蓋の内側の二人のイラストに、老婆はそっと声をかけた。

そして、箱の横にある小さなゼンマイをゆっくりと回してゆく。

するとオルゴールから、コロコロと可愛い音が次々にこぼれてくる。

「ねえ。しばらく目を閉じてなさい」

「うん。わかった」

少女がギュッと目をつむると、老婆は古くからストーン国に伝わる『ストーン王とローズウッド王妃の伝説』を語り始めた。
 
    
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