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59、幸せ物語の始まり

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 地図上では小さく見えたサクラダの国だが、実際住むとかなり広い。

 この数日、私はフラン様と様々な領地をめぐり結界の補強にいそしんだ。

 そのかいあって、海辺の町も山の町も落ち着きをとりもどしてきた。

 そして今日、私とフラン様の結婚式が行われる。

「まあ。
 こんな綺麗で可愛い花嫁さんは初めてだわ。 
 ふんわりとしたドレスも花冠もとてもよくお似合いです。
 ローラ様にも一目みせてあげたかったわ」

「ありがとう、リンダ。
 このドレスも花冠も精霊達からのおくりものなの」

スパイス夫妻にジョン、森の精霊や花の精霊達、皆、ありがとう。 

「おい、リンダ。
 こんなメデタイ日にジメジメ泣くなよ」

「そう言うサムだって泣いてるじゃない」

 結婚式に招待したリンダとサムが、控え室を訪れると肩を抱き合っておいおいと涙を流す。

「ちょっと私まで涙がでちゃうじゃない」  

 そう言って指先で目頭をソッとぬぐった時だ。

「おいおい。サム。
 あまり気安くリンダに触らないでくれよ」

 さっきからずーと黙っていたブランチさんが冗談のような、本気のようなあいまいな声をだす。

「えええ、まさか。ブランチさんとリンダってそういう事になっているの」

 私は目を丸くして驚いた。

「まあね」

 リンダがポッと頬をあからめる。

 そんなリンダをとろけるような目で見つめるブランチさん。

 これはもう間違いないでしょ。

 ブランチさんはもう正式なリーフ家の主になっている。

 いつまでも独り身でいるよりいいわよね。

「それはそうとアイリーン。
 カーラがどうなったか知っているかい」

「知らないわ。教えて。
 あれからお継母はどうなったの」

「先日私に知らせが届いたんだ。
 ある町でカーラが馬車の事故にあって即死したってね。
 カーラがいきなり飛び出したらしいんだけど、馬車に乗っていた人も即死だったらしい」 

「まあ」

 私は言葉を失った。 
 
「それがだね。
 馬車にのっていたのはパインとリーフ家にいた若い侍女だった。
 驚きだよ」

「お父様が……」

 なんて話なんでしょう。

 今ごろ3人であの世でもめているのかしら。

「ブランチさん。
 マリーンやアラン様達はどうなったの」

「アランは今採掘所で働いているんだが、周りの連中に顔をボコボコになぐられて、イケメンの面影はまるでないらしい」

「たった一つの取り柄がなくなって、カッワイソウだよ」

 ミーナが言葉とはうらはらに、喜しそうにバンザイをしてはねる。 

「マンチン夫人とマリーンは厳格なことで有名な修道院におくられたんだ」

「あのマリーンが修道院へ。
 どうなっていることやら」

「シスターからこっそり聞いたんだけど、空いた時間になにやら物語を書いているらしいよ。
 その物語、とても評判が悪いらしいけど。
 もしかしたらアイリーンにはりあってるのかな。 
 ところでアイリーンはもう物語は書いてないのかい」

「書いているわ。
 私と……」
 と言っている途中で、部屋の扉がバタンと大きく開く。

「アイリーン。
 まるでどこかの女神かと思ったよ」

 部屋に入ってくるなり、フラン様は叫んだ。

「フラン様こそ。
 どこかの精霊の王かと思ったわ」

 真っ白なタキシードに身をつつんだフラン様は、言葉にできないぐらい美しい。

「さっき聞こえたんだけど、今はどんな物語を書いているの」

 胸元に私の瞳と同じ色のブローチをつけたフラン様が、ギュッと私を抱きしめて耳打ちする。

「私とフランの物語よ。
 結婚式をあげて、めでたく完結さすの」

「でもアイリーン。
 現実の僕達の物語は、これから始まるんだよな」

「この先どんな事があるかわからないけれど、結末は絶対ハッピーエンドになる物語よね」

「もちろん」

 フラン様は優しく微笑むと、角度をかえて何度も何度も私の唇にキスをおとす。

 私は妹に悪役令嬢にされて、隣国の聖女になりました。  

              ー完ー
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