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58、ブレーム公爵を捕獲

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「これは悲惨な状況だな」

 キキに先導されて岬の村へ到着したとたん、フラン様が眉をよせる。

「アイリーン。
 僕があげた精霊の吐息の瓶を覚えている?」

「もちろんよ。
 精霊の吐息には人間を癒やす力があるんだったわね」

「実はあの時の吐息はこの森の精霊の物だったんだ」

「そんな」

 そう言われて周囲にある森を眺めて、胸がいたんだ。

 どの木もすっかり葉をおとし、朽ち果てようとしている。

 あちこちにできた落ち葉や枯れ枝の山の中から、ときおり緑色の光がみえた。

「フラン。
 ひょっとしたら、あの緑色の光が精霊達なのかしら」 

「ああ。
 どの光も今にも消え入りそうなほど、弱々しいね」

 聖女がいなくり瘴気が増え続け、森の精霊の命も危なくなっているようだ。

 精霊が弱ると森も元気を失う。

 森の木々になる木の実や果実を生活の糧にしていた村人も、力なく森のあちこちに倒れていた。

「ワシたちは先祖代々この森とともに生きてきたんじゃ。
 死ぬときも一緒じゃ」

 フラン様が声をかけた老人が、しゃがれた声をだして泣いている。

「わかったわ」

 私はそう言って目を閉じて深呼吸をした。

 瘴気が消えますように。

 結界が元にもどりますように。

 心の中でつぶやくと、自然に身体が動いた。 気がつけば、片手で宙に半円を描いていのだだ。

「不思議だわ」 

 まるで他人事のように驚いていると、周囲から歓声があがる。

「みるみる森が生き返ってゆくぞ!
 この方はワシらの聖女様だ」

 村人達は口々にそう言うと、やせた足で私に駆け寄ってきてひざまずいた。

「そんな聖女様だなんて」 

 頭をかいていると、フラン様とキキが悔しそうな声をあげる。

「キキ。あそこを見ろ。
 あれはブレーム公爵の船だな」

「くっそう。
 新しい聖女の誕生を聞きつけて、自分に勝ち目がないとふんだんだな。
 逃げ足の速いやつだ」

 2人の視線は、岬の上から見える青い海をはしる大きな船にある。

「あのう。
 あの船を止めればいいのね」

 私は2人の返事を待たずに手を軽くあわせてつぶやいた。

「船を止めて」
と。
 すると船は海原にピンで止められたように停止する。

「どうだ。
 オレのアイリーンはすごいだろ」

「ああ。驚いた」

 ドヤ顔をしたフラン様にキキは目を丸くする。

 そして2人は岬をおりると、あっというまにブレーム公爵を捕獲してきたのだ。

 ブレーム公爵はククレ公爵と真逆の人だった。

 やせぎすで、冷たそうな目をしたずる賢そうな男だ。

「違法のライアンローズの栽培を私がしただたと。
 証拠でもあるのか」 

 縄でしばられた公爵はフンと鼻をならす。

「あるわ。
 私がマンチン夫人の言葉を魔石に録音してたから。
 お聞かせしましょうか」

「さすが聖女様だな。
 もういい。聞きたくもない。
 私は知らなかったんだ。
 邸に密かに伝わるアレが、ライアンローズの栽培方法だとは。
 てっきりゴールデンローズだと思っていた。 だからイトコのマンチンに教えた。  
 万が一、私がこの国にいられなくなった時は、シンシア国にいるマンチンに世話になるつもりだったからな」

 ブレーム公爵はガクリと膝をおると、絶望したように髪をかきむしったのだ。

「反逆罪の上にライアンローズの栽培だ。
 これはもう首をはねるしかないな」

 フラン様が氷のような表情をして、ブレーム公爵に言い放つ。

「あのう。
 フラン。
 私は血が大嫌いなの。
 もしよかったら、私にこの人を裁かせてくれないかしら」

「え、それは」

 さすがのフラン様も顔色をかえてうろたえていたが、周囲をとりかこむ村人達の拍手におされて首を縦にふってくれた。

「僕のアイリーンを信じることにするよ。
 でも、まさか無罪放免じゃないだろうね」

「大丈夫よ。私もそこまで甘くないわ」

 そう言うと、ブレーム公爵の方へ向かって指をふる。

「小さくなって」
と呟きながら。

 皆が見守る中、蛙ぐらいの大きさになった公爵を手のひらにのせると、魔法でとりだした何も書かれていない本の中へいれる。

 まるで捕獲した虫を虫かごにいれるように。

「はい。
 この本はフラン様の物よ。
 あなたはこの本に好きなようにお話を書けばいい。
 その通りにブレーム公爵は動くしかないのよ」

「と言うことはこの本の中で、公爵をボコボコにすることも、飢え死にさせる事もできるってことなのかい」

 本を手にしたフラン様は目を丸くして驚きの声をあげる。

「そうよ。
 フラン様が本に、完と書き込まないかぎり罰は永遠におわらないの」

「うわああ。
 アイリーンって以外に腹黒なんだ。
 けどそんな所も大好きだよ」

 フラン様がそう言うと、村人達も負けずに
「聖女様、大好き!」
っていっせいに叫んだくれたのだ。

 そこにキキの声が混じっていたのには驚いたけれど、とても喜しかった。

 私も皆が大好きよ。




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