妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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55、よろしく、ブランチさん

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「フラン王子。
 お取り込み中申し訳ないが、無事ゴールデンローズも見つかったことだし、そろそろサクラダへ帰国すべきかと」

 2人の世界にひたっていると、背中からわざとらしい咳が聞こえてきた。

 聞き覚えのない声だけど誰なのかしら。

 私がふりかえったと同時にフラン様が、
「ククレ公爵、よくここがわかったな」
とクマのように大柄な男の名を呼んだ。

「さあ港に行こう。
 この国の王に頼んで船の手配をしてもらっている」 

 ククレ公爵が野太い声をだした時、マリーンがバカにしたように笑う。

「そこのデッカいおじさん。
 黙って聞いてたら、王様とか王子とかわけのわからない事ばっかり言っちゃてさ。
 頭おかしいんじゃないの。
 その男はね。
 ただの貧乏人よ」

「無礼者!
 サクラダの王子にむかって貧乏人とは。
 ここで切り捨ててやる」

 ククレ公爵が腰にたずさえた剣に手をあてて、太い眉をつりあげた時だった。

すぐ近くで威厳にあふれた声がする。

「ククレ。
 今回はその女を許してやるのじゃ。
 いくら見目麗しいフラン王子でも、そのカッコじゃあ、とても王子には見えんからのう」

「ふーむ。
 アーシがそう言うならしかたないか」

 少し残念そうにククレ公爵が剣から手をはなす。

 うそ、王様ですって……。

 社交界デビューしていない私は、王様のお姿は肖像画でしかしらない。

 初めておめにかかるシンシア国の王、アーシ様はふっくらとして、とても温厚そうな方に見えた。

「お、お、王様……。
 私はあの花がライアンローズなんて知らなかったんです。
 あそこにいるマンチン夫人にだまされただけなんです」

 マリーンは冷や汗をかきながら、必死で言い訳をしていたが、あっというまに王様の護衛兵に縄でしばられる。

「マリーンとやら。
 ライアンローズを育てる事は法律で禁じられている。
 申し開きはあとでゆっくりと聞かせてもらおう。
 さあ。その娘をとりあえず牢に運ぶのじゃ」

「かしこまりました」

 マリーンをとらえた屈強な身体をした騎士達が、マリーンを容赦なくひきずってゆく。

「いやあああ。
 ブスなお姉様が王子様と結婚するのに、私が牢屋行きなんて間違っているでしょ!」

「ワタクシを誰だと思っているの
 マンチン公爵夫人ざますよ。
 すぐにその縄をおほどきなさい」

 だから、もう公爵夫人じゃないってば。

「くそう。
 アイリーンのおかげで、オレの人生がぶちこわしだ」

 私のせい? 

 はいはい、相変わらずダッダッ子みたいね。

 同時に捕獲された3人はそれぞれに毒をはきながら、邸の門から消えていったのだ。

 けど、たかがマリーン達をつかまえる為に、王様までおでましになるなんて不思議だわ。

 小首を傾げていたら、ブランチさんがポンと私の肩をたたく。

「私が魔法便で王宮に知らせたんだ。
 王様とククレ公爵は若い頃同じ学校に留学していて、それからずーと親交があったらしい」

 なるほど。

 親友が心配で、王様はいらしたのね。

 男の友情って胸あつだわ。

 それにしても、ブランチさんはさすがね。

 私はいつも、ここぞという時はブランチさんに助けられている。

 このさい、もっと甘えてみていいかしら。

「ブランチさん。
 これからリーフ伯爵家の事は、すべてブランチさんにお任せしたいんだけど」

「そんな申し訳なさそうな顔をしなくていいよ。
 マリーンはどう見ても爵位を剥奪されるだろうし、カーラもいない。
 残されたアイリーンもサクラダ国へ嫁ぐんだしね。
 元リーフ家の当主として、喜んでひきうけさせてもらうよ」

 ブランチさんはそう言ってニカッと笑う。

「本当にありがとうございます。
 邸をゆずる手続は落ち着いてから、専門家を介してすすめていこうと思います」

「わかった。
 それはそうと、はやく港へ向かいなさい。
 ぼやぼやしてたら、船が出てしまうぞ。
 愛しの王子様が待ってるぞ」

 ブランチさんは私の鼻をつまんで、優しい目をして微笑んだ。
  
 
 
  
 
 
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