56 / 60
55、よろしく、ブランチさん
しおりを挟む
「フラン王子。
お取り込み中申し訳ないが、無事ゴールデンローズも見つかったことだし、そろそろサクラダへ帰国すべきかと」
2人の世界にひたっていると、背中からわざとらしい咳が聞こえてきた。
聞き覚えのない声だけど誰なのかしら。
私がふりかえったと同時にフラン様が、
「ククレ公爵、よくここがわかったな」
とクマのように大柄な男の名を呼んだ。
「さあ港に行こう。
この国の王に頼んで船の手配をしてもらっている」
ククレ公爵が野太い声をだした時、マリーンがバカにしたように笑う。
「そこのデッカいおじさん。
黙って聞いてたら、王様とか王子とかわけのわからない事ばっかり言っちゃてさ。
頭おかしいんじゃないの。
その男はね。
ただの貧乏人よ」
「無礼者!
サクラダの王子にむかって貧乏人とは。
ここで切り捨ててやる」
ククレ公爵が腰にたずさえた剣に手をあてて、太い眉をつりあげた時だった。
すぐ近くで威厳にあふれた声がする。
「ククレ。
今回はその女を許してやるのじゃ。
いくら見目麗しいフラン王子でも、そのカッコじゃあ、とても王子には見えんからのう」
「ふーむ。
アーシがそう言うならしかたないか」
少し残念そうにククレ公爵が剣から手をはなす。
うそ、王様ですって……。
社交界デビューしていない私は、王様のお姿は肖像画でしかしらない。
初めておめにかかるシンシア国の王、アーシ様はふっくらとして、とても温厚そうな方に見えた。
「お、お、王様……。
私はあの花がライアンローズなんて知らなかったんです。
あそこにいるマンチン夫人にだまされただけなんです」
マリーンは冷や汗をかきながら、必死で言い訳をしていたが、あっというまに王様の護衛兵に縄でしばられる。
「マリーンとやら。
ライアンローズを育てる事は法律で禁じられている。
申し開きはあとでゆっくりと聞かせてもらおう。
さあ。その娘をとりあえず牢に運ぶのじゃ」
「かしこまりました」
マリーンをとらえた屈強な身体をした騎士達が、マリーンを容赦なくひきずってゆく。
「いやあああ。
ブスなお姉様が王子様と結婚するのに、私が牢屋行きなんて間違っているでしょ!」
「ワタクシを誰だと思っているの
マンチン公爵夫人ざますよ。
すぐにその縄をおほどきなさい」
だから、もう公爵夫人じゃないってば。
「くそう。
アイリーンのおかげで、オレの人生がぶちこわしだ」
私のせい?
はいはい、相変わらずダッダッ子みたいね。
同時に捕獲された3人はそれぞれに毒をはきながら、邸の門から消えていったのだ。
けど、たかがマリーン達をつかまえる為に、王様までおでましになるなんて不思議だわ。
小首を傾げていたら、ブランチさんがポンと私の肩をたたく。
「私が魔法便で王宮に知らせたんだ。
王様とククレ公爵は若い頃同じ学校に留学していて、それからずーと親交があったらしい」
なるほど。
親友が心配で、王様はいらしたのね。
男の友情って胸あつだわ。
それにしても、ブランチさんはさすがね。
私はいつも、ここぞという時はブランチさんに助けられている。
このさい、もっと甘えてみていいかしら。
「ブランチさん。
これからリーフ伯爵家の事は、すべてブランチさんにお任せしたいんだけど」
「そんな申し訳なさそうな顔をしなくていいよ。
マリーンはどう見ても爵位を剥奪されるだろうし、カーラもいない。
残されたアイリーンもサクラダ国へ嫁ぐんだしね。
元リーフ家の当主として、喜んでひきうけさせてもらうよ」
ブランチさんはそう言ってニカッと笑う。
「本当にありがとうございます。
邸をゆずる手続は落ち着いてから、専門家を介してすすめていこうと思います」
「わかった。
それはそうと、はやく港へ向かいなさい。
ぼやぼやしてたら、船が出てしまうぞ。
愛しの王子様が待ってるぞ」
ブランチさんは私の鼻をつまんで、優しい目をして微笑んだ。
お取り込み中申し訳ないが、無事ゴールデンローズも見つかったことだし、そろそろサクラダへ帰国すべきかと」
2人の世界にひたっていると、背中からわざとらしい咳が聞こえてきた。
聞き覚えのない声だけど誰なのかしら。
私がふりかえったと同時にフラン様が、
「ククレ公爵、よくここがわかったな」
とクマのように大柄な男の名を呼んだ。
「さあ港に行こう。
この国の王に頼んで船の手配をしてもらっている」
ククレ公爵が野太い声をだした時、マリーンがバカにしたように笑う。
「そこのデッカいおじさん。
黙って聞いてたら、王様とか王子とかわけのわからない事ばっかり言っちゃてさ。
頭おかしいんじゃないの。
その男はね。
ただの貧乏人よ」
「無礼者!
サクラダの王子にむかって貧乏人とは。
ここで切り捨ててやる」
ククレ公爵が腰にたずさえた剣に手をあてて、太い眉をつりあげた時だった。
すぐ近くで威厳にあふれた声がする。
「ククレ。
今回はその女を許してやるのじゃ。
いくら見目麗しいフラン王子でも、そのカッコじゃあ、とても王子には見えんからのう」
「ふーむ。
アーシがそう言うならしかたないか」
少し残念そうにククレ公爵が剣から手をはなす。
うそ、王様ですって……。
社交界デビューしていない私は、王様のお姿は肖像画でしかしらない。
初めておめにかかるシンシア国の王、アーシ様はふっくらとして、とても温厚そうな方に見えた。
「お、お、王様……。
私はあの花がライアンローズなんて知らなかったんです。
あそこにいるマンチン夫人にだまされただけなんです」
マリーンは冷や汗をかきながら、必死で言い訳をしていたが、あっというまに王様の護衛兵に縄でしばられる。
「マリーンとやら。
ライアンローズを育てる事は法律で禁じられている。
申し開きはあとでゆっくりと聞かせてもらおう。
さあ。その娘をとりあえず牢に運ぶのじゃ」
「かしこまりました」
マリーンをとらえた屈強な身体をした騎士達が、マリーンを容赦なくひきずってゆく。
「いやあああ。
ブスなお姉様が王子様と結婚するのに、私が牢屋行きなんて間違っているでしょ!」
「ワタクシを誰だと思っているの
マンチン公爵夫人ざますよ。
すぐにその縄をおほどきなさい」
だから、もう公爵夫人じゃないってば。
「くそう。
アイリーンのおかげで、オレの人生がぶちこわしだ」
私のせい?
はいはい、相変わらずダッダッ子みたいね。
同時に捕獲された3人はそれぞれに毒をはきながら、邸の門から消えていったのだ。
けど、たかがマリーン達をつかまえる為に、王様までおでましになるなんて不思議だわ。
小首を傾げていたら、ブランチさんがポンと私の肩をたたく。
「私が魔法便で王宮に知らせたんだ。
王様とククレ公爵は若い頃同じ学校に留学していて、それからずーと親交があったらしい」
なるほど。
親友が心配で、王様はいらしたのね。
男の友情って胸あつだわ。
それにしても、ブランチさんはさすがね。
私はいつも、ここぞという時はブランチさんに助けられている。
このさい、もっと甘えてみていいかしら。
「ブランチさん。
これからリーフ伯爵家の事は、すべてブランチさんにお任せしたいんだけど」
「そんな申し訳なさそうな顔をしなくていいよ。
マリーンはどう見ても爵位を剥奪されるだろうし、カーラもいない。
残されたアイリーンもサクラダ国へ嫁ぐんだしね。
元リーフ家の当主として、喜んでひきうけさせてもらうよ」
ブランチさんはそう言ってニカッと笑う。
「本当にありがとうございます。
邸をゆずる手続は落ち着いてから、専門家を介してすすめていこうと思います」
「わかった。
それはそうと、はやく港へ向かいなさい。
ぼやぼやしてたら、船が出てしまうぞ。
愛しの王子様が待ってるぞ」
ブランチさんは私の鼻をつまんで、優しい目をして微笑んだ。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……


義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!


あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?
しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。
そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。
第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。
周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる