妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

文字の大きさ
上 下
55 / 60

54、これからは2人で

しおりを挟む
 心配しないで。

 あなたを1人ぼっちではいかせないから。

 最後にもう1度だけ、フラン様の顔を拝ましてもらいましょう。 

 そう思って顔から手は離した瞬間、目の前に現れた信じられない光景に、息が止まりそうなほど驚いた。

「いつのまにこんなことに」

 あちこちに花、葉、茎すべてが黄金色に輝く花が咲き乱れているのだ。

「きっとこれは本物のゴールデンローズだ。
 優しいアイリーンの流した涙から生まれたんだから。
 感動した……」

 ブランチさんはメガネの奥にある瞳をうるませた。

「たかが貸本屋のオヤジになにがわかるって言うのよ。
 どうせあの花も偽物に決まってるわ。
 さあ。お姉様。
 本物かどうか早く試してみなさいよ」

 足をひろげて、胸の前で両手を組んだマリーンがツンと顎をあげる。

「だまれブス。
 花の心配よりカーラの心配をしろよ」

「ミーナ。
 マリーンはそういう人よ。
 いくら言ってもムダ。
 疲れるだけだからほっときましょ。
 それよりフランよ」

 私は手前にある花を折って、フラン様の目の前に差し出した。

「フラン。お願いだから目をあけて」 

「その声はアイリーンだね。
 よかった。無事なんだ」

「私だけ無事でもしかたがないでしょ。
 私達は2人一緒でないと意味ないんだから。 フランのバカ。
 どうしてあんな事をしたのよ」 

「そんな事もわからないのかい。
 鈍感なアイリーン。
 それは僕が君を愛しているから」

 フラン様はそう言うと、うっすらと目を開く。

「アイリーン。
 まさかそれは本物のゴールデンローズなのかい」

 驚きの声をあげながら、フラン様は力をふりしぼってキラキラと輝く花にそっと手をそえる。

 とたんに花の光が、フラン様の指をつたってフラン様の身体へとながれてゆく。

 そしてあっというまにフラン様は元気な姿をとりもどしたのだ。

「凄いぞ!」

 どこからともなく、割れるような拍手と歓声がおこる。

 その音はフラン様の胸の中でうっとりと目を閉じる私の耳には、遠くでなる海なりのように聞こえた。

「またアイリーンに命をすくわれた。
 今度は一生かかってお礼をさせてもらいたい」

 フラン様が甘い声で耳元でささやく。

「一生かかって?
 それって、もしかして」

 結婚っていう言葉を口にするのが恥ずかしくて、真っ赤になってうつむいた。

「もしかして、結婚だよ。
 もうアイリーンと離ればなれで暮らすのは無理だから。
 毎日毎日、こうやって抱きしめていたい。
 いいかな」

 フラン様の言葉にコクンと首をたてにふる。

 その瞬間様々な声がおこった。

「やったね。
 これでアイリーンはサクラダの王女様だよ。 ミーナも最高に幸せ!」

「おめでたいクマね。
 お姉様はね。
 貧乏人の妻になるだけでしょ」

「そうざます。
 それにしても、どうしてマリーンは、ゴールデンローズを咲かせるのに失敗したのかしら。
 せっかくワタクシがいい方法を授けてやったのに。
 やっぱり本物のバカだったざんすね」

「お母様。
 そこにあるゴールデンローズを全部ひっぬいて逃げよう。
 これでオレ達は大金もちだ。
 ハハハハ」

「さすがアラン。
 勉強はてんでダメだったけど、そういう頭だけはいいのね」

「フラン。たいへんよ。
 アラン様が」

 言いかけようとしていると、フラン様のキスが唇にふってきた。

「アイリーンの好きな所その1。
 あんな嫌なヤツの事でも、絶対に呼び捨てなんかにしないところ」

「ええ?」

 思いがけない事を言われて首を傾げていたら、
「その顔。可愛すぎるよ。僕を殺す気?」
と言って、フラン様は私の髪を優しくなでる。

「好きな所その2も聞きたい?」

「うん」 
 
「その言い方もたまらなく可愛い」

 フラン様はそう言って、私を抱く腕にギュッと力をこめた。

「フランったら」

 幸せすぎて、私の頭はフラン様で一杯になる。

 もうマリーンもアラン様もどうでもいい。

 これからは好きな人と前だけを向いていくのよ。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?【第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞】

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。 2025/2/28 第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞をいただきました

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

処理中です...