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52、偽物の証明

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「かわりに私を切って!」

 リンダとサムの前に立ちはだかって、両手をいっぱいに開いた。

 と同時に鋭く光った剣が頭上から落ちてくる。

「私はこれでおわりね」

 目を閉じて心の中で十字架をきる。

 その時だ。

「僕のアイリーンに触れるな!」

 もの凄い勢いで誰かが走ってきて、私の身体をつきとばした。

 僕のアイリーンって……。

 聞いているこっちが恥ずかしくなるセリフをアッサリと口にできる人なんて、たった1人しかいない。

「フラン、フランなのね。
 きっと私の身代わりになったのね」

 ハッとして顔をあげた私の視線の先には、衣服を真っ赤にそめて倒れているフラン様がいた。

「フラン、なんてバカな事をするのよ」

 あわててフラン様の元へ駆けつけて、フラン様の上半身を抱きしめる。

「だって、僕がしないとアイリーンがこうなるでしょ」

 ゼエゼエと荒い呼吸をしながら、フラン様が無理やり笑顔をつくった。

 その間にも切られた所から、真っ赤な血がドクドクととふきだしてゆく。

「お願い、マリーン。
 はやくその花でフランを助けてあげて」

 コツコツと靴音をたてて、こちらに近よってくるマリーンの顔をみあげる。

「そんなにせかさないでよ。
 すぐにお姉様の貧乏な彼氏を回復してあげるから」

 こんな時にもフラン様を貧乏呼ばわりするなんて。

 マリーンの根性はどこまで腐っているのかしら。

「さあ。
 今からワタクシがこの男を一瞬にしてよみがえらせます」

 マリーンが胸をそり声をはる。

 そして手にしたゴールデンローズをフラン様の目の前にさしだして、おごそかぶって言う。

「この花に触れなさい」
と。

 フラン様がきれいな指先を花びらの上にのせると、周囲が一斉に静まる。

 ゴクリと誰かがツバを飲みこむ音さえわかるほどに。

 皆が期待して見守る中、思いがけない事がおこった。

 黒煙をあげて花が燃えつきたのだ。

「マリーンの嘘つき!。
 フランは全然なおってないじゃない」 

 私が声をあげると、続いて皆も口々にヤジをとばす。

「詐欺師!」

「偽物を売りつけるつもりだったんだな」

 あちこちから罵声がわきあがる。

「おかしいわね。
 一体どうしたのかしら」

 カーラお継母様が鉢植えから1本花をぬくと、鼻先にあてて香りを確かめている。

「さすがね。
 なんとも言えないいい香りだわ。
 これは間違いなく本物ね」

 お継母様はきっぱりと言い切った。

 けど、お継母の様子がどこかおかしい。
  
「マリーン。見て。
 お継母様は変よ。
 目の焦点があってないもの」

 私がそう言った時、お継母様の甲高い声が耳をつんざく。

「キャキャキャ。
 ケケケ」 

 お継母様は意味不明の言葉をつぶやきながら、獣のような速さで邸の門にむかって駆けだしていった。 
 
 やはりこの花はライアンローズ。

 お継母様が見事に証明してくれたわけだ。



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