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49、あきれたお父様

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「元婚約者ってほんとに酷い奴だな。
 おまけにおかしなババアもついてるし。
 アイリーンはあんな奴のどこか良かったんだい」

 マリーンより一足早く庭へでた私の乱れた髪を手ぐしで整えながら、フラン様が眉をしかめる。

 いつも穏やかなフラン様の口から、ババアなんて言葉がとびだしてきたので、少しビックリした。

 フラン様はかなりいらだっているようだ。

「どこって言われても」

 特に浮かばない、と言おうとした。

 けれどアラン様にケリをいれられたお腹が急に痛みだして、スラスラと答えられない。

「なんで口ごもるの。
 もしかしたら、あの男の全部が好きだったりして。
 確かに国宝級のイケメンだったよな」

「元婚約者が国宝ならフランは……」

 世界遺産よ、と口にしようとした時、また脇腹が痛みだして言葉がとぎれてしまう。

「痛い!」

 声をあげるやいなや、フラン様に強く抱きしめられた。

「アイリーン大丈夫?」

「身体の方は大丈夫よ。
 でも心が折れちゃいそう」

「そりゃそうだ。
 元とはいえ婚約者にこんな風に痛めつけられたんだから」

「そうじゃないの。
 アラン様との婚約はカーラお継母様が勝手に決めただけ。
 私はあんな顔だけ男、大嫌いだったの。
 今、心が折れそうなのはフランのせいよ。
 だって、さっきから私を責めているでしょ。
 大好きな人に嫌われる事ほど、悲しいことはないもの」

「大好きな人って……。
 ありがとう。アイリーン」

 最初ポカンとした顔をしていたフラン様だけど、すぐにこぼれるような笑顔になって、私をギュッと抱きしめる。

「僕こそごめん。
 実を言うと嫉妬してたんだ」

「フランが私なんかに嫉妬してくれるなんて。 
 光栄すぎるわ」

「可愛い顔でそんなケナゲナ事を言われると、もう我慢できない。
 ね、アイリーン。
 キスしてもいいかな」

 フラン様がそっと耳元でささやく。

 こんな時はどうしたらいいの。

 了解!って返事をするのもおかしいし。

 結局黙って目を閉じた時だった。

「兄ちゃん、こういう時はな。
 もっと勢いよくガバッといくもんだぜ」

「ヤレ、ヤレ、もっとヤレ!」

「若いっていいねえ」

 周囲から様々なヤジがとんでくる。

 すっかり2人の世界に入ってて、周りに大勢の人がいる事を忘れていたのだ。

「あ! いけない」

 あわてて目を開くと、頬をそめて困惑しているフラン様の姿が、真っ先にとびこんできた。

 照れる美形の王子様って最強の凶器よ!

 心臓が破裂しそうなほど高鳴る。

 このままでは気絶しそうだから視線を移した時、また違う意味で心臓が止まりそうになったのだ。

「ミーナ。
 あそこの木陰で若い女とイチャついてるのは、お父様みたいなんだけど。
 たぶん私の目の錯覚よね」

 人間よりはるかに視力のいいミーナに、おずおずとたずねてみる。

「あの男はパインお父様だよ。
 よかったら、ミーナが頭をなぐってこようか」

 腕を曲げて力こぶを自慢するミーナに、
「見なかった事にしようね」
と消え入りそうな声をだすと脱力した。
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