39 / 60
38、精霊のハピネス
しおりを挟む
フラン様にうながされて大きな鉄板の前に座る。
「アイリーンはステーキの焼き方は、レア、ミデアム、ウエルダンのどれがいいのかな」
フラン様が私の顔をのぞきこんだ。
レア、ミデアム、ウエルダン?
なんですかソレは。
意味不明です。
首をひねって思案していたら、ジョンが口をはさむ。
「フラン様はステーキの焼き加減を聞いているんだろ。
ウエルダンはよく焼いた状態で、レアは生に近い状態。その真ん中がミデアムだって」
「そうなんだ。
じゃあ、私はウエルダン」
カーラは私に1度もステーキなんか食べさせてくれなかった。
だから、焼き方による味の違いなんて高度な事はわからない。
けど、なんとなく生は遠慮しておく。
「きっとフラン様ってお料理上手なんですよね」
お肉に香辛料をまぶしてゆく手さばきがすごくいい。
「そうでもないよ。
けどアイリーンにほめられるのは、すごく喜しいな」
フラン様はコック帽をかぶった頭を、照れたように斜めに傾ける。
その様子があまりに可愛くて「きゃああ」と声をあげそうになった。
なんてバカな私なんだろう。
今は手を伸ばせば届く所にいるフラン様だけど、それは世をしのぶ仮の姿だから。
本当はいくら想ってもどうにもならない遠い人なのだ。
一国の王子と貸本屋の居候。
どう考えてもつりあわない。
がっかりして、うつむいた時だった。
ボウッと音をたててジョンが炎に姿をかえる。
「アイリーン。
オイラの腕前を見せてやるぜい」
ジョンはそう言うとお肉を包み込んだ。
「ステーキは火加減しだいって言うだろう。
僕の仕事は鉄板にお肉をのせるだけなんだ。 あとはジョンにおまかせってわけ」
フラン様がおどけた口調で言った。
「ジョン。
はりきり過ぎてお肉をこがさないでよ」
さっきからレストランのあちこちに花を飾っていたミセススパイスさんの厳しい声がとぶ。
と同時にステーキが完成したようだ。
「アイリーン。
これはこの間のお礼です」
フラン様は焼き上がったステーキを一口大に切ると、白いお皿に並べて差し出してくれる。
そして、フォークで一切れさして私の口に運んだ。
「アイリーン、あーん」
え、食べさせてくれるの。
それって、ちょっと恥ずかしいんですけど。
「遠慮しないで。恩人に何かしたくてたまらないんだから」
「じゃあ」
とまどいながらも口を開いて、フラン様の手からお肉をパクリと頬ばる。
やわらかいお肉から肉汁があふれてとにかく美味しい。
「私こんなに誰かに優しくされたのは生まれて初めてなんです。
友達なんていなかったし、家族には嫌われていたし」
言っている途中から、胸がいっぱいになって涙がポロポロとこぼれてきた。
「アイリーンは、僕にはわからない苦労をいっぱいしてきたんだろうね」
優しい眼差しでフラン様に見つめられて、心が弱くなったのかな。
否定しないといけないのに、コクンと頷いて嗚咽してしまった。
「泣かないで。アイリーン。
良かったら今日から僕と友達になって欲しいんだ」
フラン様は胸元から白いハンカチを取り出して、頬を伝う涙をぬぐってくれる。
「友達ですか?
私が王子様と。
そんなおそれおおい」
「忘れたの? 僕はここでは王子じゃない」
「でも」
「王子って言うのは口実で、本当は僕のことが嫌いだとか」
「そんなことは絶対にないです」
想った以上に力んだ声がでたのが恥ずかしくて、また真っ赤になってしまう。
「わかりました。
実は私もずーと友達が欲しかったんです」
それを聞いたフラン様が破顔した。
「ミセススパイス。
『精霊のハピネス』をもってきて。 僕に可愛いガールフレンドができたんだ。
皆で乾杯したいから」
すぐにミセススパイスさんが綺麗な瓶をもってきてくれる。
「サクラダではね。
お祝い事があるとこれを飲むんだ」
スミレの精霊の笑い声を溶かしたという紫色の飲み物を、フラン様はそれぞれのグラスに注いでくれた。
「アイリーン、友達になってくれてありがとう。
乾杯!」
フラン様の合図で皆のグラスがあわさって、カチンと高い音をたてる。
ピンクがかった紫色の飲み物は、さっぱりとした甘さでとても口上がりがいい。
「フラン様、私なんかと友達になってくれてありがとうございます」
「友達なんだからもうタメ口がいいよ」
「ですよね」
そう言うと、なぜか可笑しくて笑いが止まらなくなる。
それは他の皆も同じようで、それぞれがちょっとした事で笑い転げるのだ。
なるほど。
これが『精霊のハピネス』の力なのね。いい飲み物です。
「アイリーンはステーキの焼き方は、レア、ミデアム、ウエルダンのどれがいいのかな」
フラン様が私の顔をのぞきこんだ。
レア、ミデアム、ウエルダン?
なんですかソレは。
意味不明です。
首をひねって思案していたら、ジョンが口をはさむ。
「フラン様はステーキの焼き加減を聞いているんだろ。
ウエルダンはよく焼いた状態で、レアは生に近い状態。その真ん中がミデアムだって」
「そうなんだ。
じゃあ、私はウエルダン」
カーラは私に1度もステーキなんか食べさせてくれなかった。
だから、焼き方による味の違いなんて高度な事はわからない。
けど、なんとなく生は遠慮しておく。
「きっとフラン様ってお料理上手なんですよね」
お肉に香辛料をまぶしてゆく手さばきがすごくいい。
「そうでもないよ。
けどアイリーンにほめられるのは、すごく喜しいな」
フラン様はコック帽をかぶった頭を、照れたように斜めに傾ける。
その様子があまりに可愛くて「きゃああ」と声をあげそうになった。
なんてバカな私なんだろう。
今は手を伸ばせば届く所にいるフラン様だけど、それは世をしのぶ仮の姿だから。
本当はいくら想ってもどうにもならない遠い人なのだ。
一国の王子と貸本屋の居候。
どう考えてもつりあわない。
がっかりして、うつむいた時だった。
ボウッと音をたててジョンが炎に姿をかえる。
「アイリーン。
オイラの腕前を見せてやるぜい」
ジョンはそう言うとお肉を包み込んだ。
「ステーキは火加減しだいって言うだろう。
僕の仕事は鉄板にお肉をのせるだけなんだ。 あとはジョンにおまかせってわけ」
フラン様がおどけた口調で言った。
「ジョン。
はりきり過ぎてお肉をこがさないでよ」
さっきからレストランのあちこちに花を飾っていたミセススパイスさんの厳しい声がとぶ。
と同時にステーキが完成したようだ。
「アイリーン。
これはこの間のお礼です」
フラン様は焼き上がったステーキを一口大に切ると、白いお皿に並べて差し出してくれる。
そして、フォークで一切れさして私の口に運んだ。
「アイリーン、あーん」
え、食べさせてくれるの。
それって、ちょっと恥ずかしいんですけど。
「遠慮しないで。恩人に何かしたくてたまらないんだから」
「じゃあ」
とまどいながらも口を開いて、フラン様の手からお肉をパクリと頬ばる。
やわらかいお肉から肉汁があふれてとにかく美味しい。
「私こんなに誰かに優しくされたのは生まれて初めてなんです。
友達なんていなかったし、家族には嫌われていたし」
言っている途中から、胸がいっぱいになって涙がポロポロとこぼれてきた。
「アイリーンは、僕にはわからない苦労をいっぱいしてきたんだろうね」
優しい眼差しでフラン様に見つめられて、心が弱くなったのかな。
否定しないといけないのに、コクンと頷いて嗚咽してしまった。
「泣かないで。アイリーン。
良かったら今日から僕と友達になって欲しいんだ」
フラン様は胸元から白いハンカチを取り出して、頬を伝う涙をぬぐってくれる。
「友達ですか?
私が王子様と。
そんなおそれおおい」
「忘れたの? 僕はここでは王子じゃない」
「でも」
「王子って言うのは口実で、本当は僕のことが嫌いだとか」
「そんなことは絶対にないです」
想った以上に力んだ声がでたのが恥ずかしくて、また真っ赤になってしまう。
「わかりました。
実は私もずーと友達が欲しかったんです」
それを聞いたフラン様が破顔した。
「ミセススパイス。
『精霊のハピネス』をもってきて。 僕に可愛いガールフレンドができたんだ。
皆で乾杯したいから」
すぐにミセススパイスさんが綺麗な瓶をもってきてくれる。
「サクラダではね。
お祝い事があるとこれを飲むんだ」
スミレの精霊の笑い声を溶かしたという紫色の飲み物を、フラン様はそれぞれのグラスに注いでくれた。
「アイリーン、友達になってくれてありがとう。
乾杯!」
フラン様の合図で皆のグラスがあわさって、カチンと高い音をたてる。
ピンクがかった紫色の飲み物は、さっぱりとした甘さでとても口上がりがいい。
「フラン様、私なんかと友達になってくれてありがとうございます」
「友達なんだからもうタメ口がいいよ」
「ですよね」
そう言うと、なぜか可笑しくて笑いが止まらなくなる。
それは他の皆も同じようで、それぞれがちょっとした事で笑い転げるのだ。
なるほど。
これが『精霊のハピネス』の力なのね。いい飲み物です。
0
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される
みみぢあん
恋愛
一方的に婚約解消されたソレイユは、自分を嫌う義母に新たな結婚相手を言い渡される。
意地悪な義母を信じられず、不安をかかえたままソレイユは、魔獣との戦いで傷を負い、王立魔法騎士団を辞めたペイサージュ伯爵アンバレに会いに王都へと向かう。
魔獣の呪毒(じゅどく)に侵されたアンバレは性悪な聖女に浄化をこばまれ、呪毒のけがれに苦しみ続け自殺を考えるほど追い詰められていた。
※ファンタジー強めのお話です。
※諸事情により、別アカで未完のままだった作品を、大きく修正し再投稿して完結させました。
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる