妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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37、炎の精霊ジョン

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「キノコの精霊はサクラダの国でもとても珍しいんだ。
 彼らは城の中にある王族専用の野菜畑にしかいない。
 そんなわけでキノコの精霊は『王族のお守り』と呼ばれているんだ」

 フラン様はメガネの赤いフレームを指でおさえて険しい顔をしているミセススパイスさんについて教えてくれる。

「彼女はお守りとしての義務感に燃えているってことなんですね」

「そう思って、さっきのミセススパイスの態度を許して欲しいな」

 フラン様が私に両手をあわせて頭をさげた。

「ご心配なく。
 私はちっとも怒っていませんから。
 マリーンの意地悪に鍛えられて育ったんです。
 あの程度の事全然気になりません」

 そう言った時だ。

「きゃあああ。
 熱いじゃないの。 
 ジョンは私を丸焦げにするつもりなの!」

 頬を両手にあてたミセススパイスさんが、垂直に飛びながら悲鳴をあげたのは。

「ミセススパイスのスカートが燃えている」

 目を丸くして驚いていると、炎がフワフワとこちらへ漂ってきた。

「毒キノコがお姉さんに意地悪したから、オイラが仕返ししてやったのさ」

 メラメラと燃えていた炎は私の前で止まると、少年の姿に変わったのだ。

 一体何者なのかしら。

「私の為にしてくれたのね。  
 ありがとう、って言いたいんだけどミセススパイスが気の毒で言えないの。
 あの人に悪気はないのよ。
 ただ王子様を守るのに必死になっているだけなの。
 私はなんとも思ってないから、ミセススパイスを燃やすのはやめてくれないかしら」

 少しかがんで、男の子の頭をなでようとした。

 けれど、私の手の平は男の子の半透明の身体をすり抜けて空を切る。

「大丈夫だよ。
 あの炎は熱くないようにしてるから。
 毒キノコが炎を見ただけでパニクって、勝手に『熱い!』って騒いでいるだけ」

 とても大きな目で少年は私を見あげた。

 一点のくもりもない瞳。

 クルンと上を向いた長いマツゲ。

 粉雪みたいにやわらかそうな髪。

 腰に布をまきつけただけのプクプクした身体。

 ひょっとしたら、この子は天使なのかもしれない。

 そう思って背中をのぞきこんだ。

「お姉さんのエッチ。
 オイラのお尻を見ようとするなんて」

「ごめんさなさい。
 お尻じゃなくて、背中の羽を見たかったの。 だって君は天使でしょ」

「ちがうよー。お姉さんのバカバカ。
 オイラはね。
 炎の精霊ジョンさ」

 ジョンが怒ると背後から炎が燃え立つ。

「まあ。炎の精霊だったのね。
 あんまり可愛いから、てっきり天使様だと勘違いしちゃたの。
 私はアイリーンリーフ。
 よろしくね」

 せっかくジョンに手を差し出したのに、ジョンはプイと顔を横にむけてしまう。  

「え?
 私、嫌われたの?
 どうしてかしら」

 差し出した手を顎にあてて、天井を向いて考える。

「アイリーン。
 ジョンはね。
 可愛いって言われるのが大嫌いなんだよ」

 今まで私達のやりとりを側で見守ってくれていたフラン様が耳元だささやく。

「そうさ。
 男に可愛いは失礼ってもんさ」

 フラン様のささやきがもれたのかな。

 ジョンは我が意を得たり、という風にコクリとうなずいた。

「ジョン。
 アイリーンが困っている。
 そろそろ機嫌を直して食事にしないか」

「フラン様がそう言うならそうしてやるか。
 アイリーン。
 2度とオイラを可愛いなんて呼ぶなよ。
 わかったか」

「わかりました」 

「アイリーン。
 実はジョンは僕の専属精霊なんだ。
 えーと。専属精霊って言うのはね。
 魔法使いの使い魔みたいなもの。
 ジョンは僕にとってなくてはならない存在なんだ。
 僕は生まれた時から、何をするのもジョンと一緒だった。
 ちょっと生意気なジョンだけど、アイリーンが仲良くしてくれたら喜しいな。
 今回アイリーンにだす料理もね。
 ジョンがいい仕事をしてくれてるんだ。
 そうだ。そろそろ食事を始めようか。
 僕のアイリーン」

 フラン様は最後のセリフで私の心を射貫く。

 僕のアイリーン。

 僕のアイリーン。

 今までモテてこなかったので、男の人にこんな風に呼ばれたのは初めてだった。

 頭がポウーとして胸がドキトキする。 

「私、ジョンとは親友になれそうです」

 頬を紅潮させながら、フラン様を熱く見上げた。



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