上 下
35 / 60

34、幻獣キキ

しおりを挟む
「お待たせしてすいません」

 リトルドリームの店先に立った私は、迎えにきてくれたフラン様の護衛騎士にペコリと頭を下げた。

 今日は精一杯のオシャレをしている。

 この日の為に貯金をはていて市場で買った深紅のワンピースを着て、ワンピースと同じ色の小さなリボンを髪に飾っているのだ。

「なぜ謝る。
 約束の時間キッカリじゃないか。
 やたら頭を下げたがるのは、人間の悪い癖だな」

 硬そうな黒い髪をした屈強な男の太い声が頭から落ちてくる。

「すいません」

 謝るなって、言われているのに自然と口から言葉がでてきてしまう。

「あ、また謝ってしまいました。
 すいません」

 結果、また謝罪した。

 きっと彼は私に辟易してるわよ。

 護衛騎士の顔をオソルオソルと見上げた。

 フラン様より少しだけ年上のような彼は、フラン様よりすいぶん大人びた雰囲気をしている。

 この騎士については、あらかじめフラン様から聞かされていた。

 名前はキキだ。

 普段は人間の姿をしているが、本当は上半身は人間、下半身はシカの幻獣だという。

「どうして涙目になっているんだ。
 そんなにオレが怖いのか。
 まあいい。
 大体の話はアイツから聞いている。
 レストランSに連れていけばいいんだな」

 キキ騎士は琥珀色の瞳で私を見すえると、煩わしそうにフンと鼻をならす。

「ちょっとオッサン。
 アイリーンをそんなにイジメるなよ。
 チョウ感じ悪いんだけどさ」

 玄関まで見送りにきていたブランチさんに抱かれたミーナが小さな口をとがらせる。

「よく言った。ミーナ。
 それに王子様をアイツ呼ばわりするなんて、何様のつもりなんだろうね」

 ブランチさんが片眉を大きく上げて、ウサンクサそうにキキを眺めた。

「外野は黙ってろ。 
 さあ。
 出発するぞ。
 オレの背中に飛び乗るんだ」

 キキはあっという間に姿を変える。

「とても立派なシカさんね」

 頭にそびえる太い角。

 絹のように光沢する身体を覆っている毛。

 幻獣を初めてみた私は品格のある美しさにホーとため息をついた。 

「やっぱミーナも一緒に行きたいな。
 ごちそう食べたいよ」

 ミーナが羨ましそうに顔をゆがめる。

「ごめんね、ミーナ。
 じゃあ、行ってきます」

 キキは私が普通に飛び移るには大きすぎた。

 魔法を使ってピョンと彼の背中に乗るしかない。

「オマエはとても美しい」

 背中の上でキキの角を両手で持った私にキキが平たい声で告げる。


「ありがとうございます。
 実は今日めいっぱいオシャレをしてきたんです」 

「誤解するな。見た目の事を言っているんじゃない。
 オレは背中に乗った人間の魂を感じる事ができるんだ」

「なら絶対美しくないはずです。
 私の魂はマリーンやカーラ、その他諸々の人への恨み辛みで一杯だから」

「オマエ、私を疑うのか」

「そう言う意味じゃありません」

 幻獣との会話はうまくかみあわない。

 そう思った時、キキが足で地面を強くけった。

 とたんに足元から強い風が吹き荒れてきて、私達はその風にのって空高く舞い上がったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...