妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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34、幻獣キキ

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「お待たせしてすいません」

 リトルドリームの店先に立った私は、迎えにきてくれたフラン様の護衛騎士にペコリと頭を下げた。

 今日は精一杯のオシャレをしている。

 この日の為に貯金をはていて市場で買った深紅のワンピースを着て、ワンピースと同じ色の小さなリボンを髪に飾っているのだ。

「なぜ謝る。
 約束の時間キッカリじゃないか。
 やたら頭を下げたがるのは、人間の悪い癖だな」

 硬そうな黒い髪をした屈強な男の太い声が頭から落ちてくる。

「すいません」

 謝るなって、言われているのに自然と口から言葉がでてきてしまう。

「あ、また謝ってしまいました。
 すいません」

 結果、また謝罪した。

 きっと彼は私に辟易してるわよ。

 護衛騎士の顔をオソルオソルと見上げた。

 フラン様より少しだけ年上のような彼は、フラン様よりすいぶん大人びた雰囲気をしている。

 この騎士については、あらかじめフラン様から聞かされていた。

 名前はキキだ。

 普段は人間の姿をしているが、本当は上半身は人間、下半身はシカの幻獣だという。

「どうして涙目になっているんだ。
 そんなにオレが怖いのか。
 まあいい。
 大体の話はアイツから聞いている。
 レストランSに連れていけばいいんだな」

 キキ騎士は琥珀色の瞳で私を見すえると、煩わしそうにフンと鼻をならす。

「ちょっとオッサン。
 アイリーンをそんなにイジメるなよ。
 チョウ感じ悪いんだけどさ」

 玄関まで見送りにきていたブランチさんに抱かれたミーナが小さな口をとがらせる。

「よく言った。ミーナ。
 それに王子様をアイツ呼ばわりするなんて、何様のつもりなんだろうね」

 ブランチさんが片眉を大きく上げて、ウサンクサそうにキキを眺めた。

「外野は黙ってろ。 
 さあ。
 出発するぞ。
 オレの背中に飛び乗るんだ」

 キキはあっという間に姿を変える。

「とても立派なシカさんね」

 頭にそびえる太い角。

 絹のように光沢する身体を覆っている毛。

 幻獣を初めてみた私は品格のある美しさにホーとため息をついた。 

「やっぱミーナも一緒に行きたいな。
 ごちそう食べたいよ」

 ミーナが羨ましそうに顔をゆがめる。

「ごめんね、ミーナ。
 じゃあ、行ってきます」

 キキは私が普通に飛び移るには大きすぎた。

 魔法を使ってピョンと彼の背中に乗るしかない。

「オマエはとても美しい」

 背中の上でキキの角を両手で持った私にキキが平たい声で告げる。


「ありがとうございます。
 実は今日めいっぱいオシャレをしてきたんです」 

「誤解するな。見た目の事を言っているんじゃない。
 オレは背中に乗った人間の魂を感じる事ができるんだ」

「なら絶対美しくないはずです。
 私の魂はマリーンやカーラ、その他諸々の人への恨み辛みで一杯だから」

「オマエ、私を疑うのか」

「そう言う意味じゃありません」

 幻獣との会話はうまくかみあわない。

 そう思った時、キキが足で地面を強くけった。

 とたんに足元から強い風が吹き荒れてきて、私達はその風にのって空高く舞い上がったのだ。

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