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31、困ったマリーン

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「そーだわ。
 帰る前にお姉様に言っておかなくちゃ。
 もし一月以内にお姉様が魔力を私に譲らないなら、リンダとサムがどうなるかしらね」

 マリーンが玄関で立ち止まると、こちらをふりむく。

「なんですって。
 これは私たち姉妹の問題でしょ。 
 リンダとサムをまきこむなんて卑怯だわ」

「ふん。
 お姉様なんかになんと言われようが全然気にならないわ。
 気のすむまでわめきなさいよ。
 けど、本当にリンダとサムの事が心配なら、一月以内に邸へ来て大人しく私に魔力をわたすことね。
 わかったかしら、お姉様。
 一月以内よ!」

 マリーンは勝ち誇ったような笑みをうかべると、荒々しくお店の扉をしめた。

「マリーンの事だもん。
 あれは脅しなんかじゃないわ。
 リンダやサムは私の恩人なのよ。本当に困ったわ」

 マリーンがいなくなって、静寂をとりもどした店内に置かれた椅子に腰かけると、頭をかかえて太いため息をつく。

「まさかあの子がアイリーンの妹だったとは驚いたな。
 世間は広いようで狭い、っていうのは本当なんだ」

 私の隣に椅子に座ったフラン様も、また長いため息をついている。

「ひょっとして、フラン様は前からマリーンをご存知だったのですか?」

 思いがけない言葉に頭を上げて、フラン様の顔をのぞきこんだ。

「知ってるってほどじゃない。
 実は今日は市場でハリス君の事を知っている人を探してたんだ。
 ハリス君の似顔絵を手にしてね。
 そこにたまたま彼女が通りかかったんだ」

「だからマリーンに声をかけられたのですね」

「ああ。
 そしたらマリーンが、
『私のお姉様が少年のフリをしていた時の姿にそっくりだわ。
 そのブスなお姉様は突然家出しちゃって、私も探しているの。
 手がかりはお姉様が残してこの領収書だけよ』
と言って、領収書の下に書かれていたリトルドリームの名前を指さししたんだ」

「そうだったんですか」

「ああ。
 あと、マリーンはリトルドリームは市場の貸本屋さんだという事も教えてくれた。
 それはとても助かったんだけど」

「けど、何ですか」

「あの子って本当に変わってるね」

「変わってるっていうよりキツイと思いますが、どうしてそう思われるのですか」

「『それなら一緒にお店へ行ってみない?』って僕が言うとね。
『冗談はやめてよ。
 アンタはどう見ても平民でしょ。
 私をナンパするなんて、不敬罪で訴えるわよ』ってわめきちらしたんだ」

「王子様にむかってなんて事を。
 不敬罪で訴えられるのはマリーンの方なのに・・・・・・」

 眉を下げてそう言ってから、脳内に逆上するマリーンの様子が浮かんできて、声を上げて笑ってしまう。

「しかし、あれはコッケイだったなあ」
とフラン様もついに「ブッ」と吹き出した。

 本当に困ったマリーンなのだ。

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