上 下
20 / 60

19、結婚できません1

しおりを挟む
「ごきげんよう。
 ワタクシの天使、アイリーン」

 客間の扉をトントンとノックして、部屋に入ったとたん、ソファーに腰掛けていた公爵夫人が大げさに両手を広げて私を抱きしめる。

「このババア。なんかウサンクサイよ」

 サラマンダーの子供に化けて、ワンピースのポケットから顔をのそかせているミーナの声がする。 

「どうかワタクシにめんじて、アランの気の迷いを、許してやってちょうだい。
 誰がどう言おうが、ワタクシは決めているざます。
 マンチン公爵家の嫁はアイリーンしかいないとね」

 夫人に手をひかれて、ソファーに座らせた私は黙ってうつむく。

 私の隣にはまるで舞踏会へいくようなドレスを着た夫人が座っている。

 アラン様と同じ群青色の髪に深みのある瞳。 

   夫人はクールビュテイと評されていた。

 私にはただのキツメめのオバサンにしかみえないけれどだ。

 夫人がそこまで、私を気に入ってくれているとは気がつかなかった。

 今まで、家や学校で嫌われまくってきたので、その気持はありがたい。

「でも、やっぱりアラン様は許せない」

 小さな声で言って唇をかみしめた。

「公爵夫人にこんなに言っていただくなんて、光栄のいたりですわ。
 さっそく式の日取りをきめましょう」

 テーブルをはさんで、向かいに座るカーラが威嚇するような視線をむける。 

「わ、私」

 両手をギュツと握って声をしぼりだす。

「なんだ、アイリーン。
 ははーん。
 見たところ、気後れしているようだな。
 アイリーンごときが、うちみたいな名門に嫁ぐんだ。
 当然だろう。
 けど、安心しろ。
 オレは妻として、オマエには何一つ期待してない。
 うちにきて、死ぬまで、お母様のご機嫌とりをしてくれればいいんだ」

 カーラの隣に足をくんでふんぞりかえって座っているアラン様が、「ガハハハ」と天井を仰いで笑う。

「あの男どこまで脳天気なんだよ」

 ポケットの中でミーナが小さな炎をはく。

「私、アラン様とは結婚できません!」

 立ち上がって、思い切り声をはりあげた。

 とたんに胸がスウーとして、言葉が自然に口をつく。

「妹と結婚するって、私をつきとばしたような人とは絶対に無理です。
 たとえ1秒だって、同じ部屋で同じ空気を吸いたくないんです」

 少しの間、三人は呆然としていた。 

「アイリーン。
 公爵夫人とアラン様に何を言ったかわかっているの」

 1番先に口を開いたのはカーラだ。

 怒りのため頬を紅潮させ、眉がヒクヒク動いている。

「オレが下手にでてるからって、いい気になりやがって」

 カーラが何か言おうとしていると、アラン様が腕をふりあげ立ち上がった。

「気がすむまで叩いて下さい。
 それでも私の気持ちは1ミリも変わりませんからね」

 両手に腰をあててアレン様をにらみ返す。

「その調子だ。アイリーン。負けるなよ」

 ミーナがパチパチと拍手をした時だった。

「オホホホホ。
 アラン、お座りなさい」

 扇に口をあてて、公爵夫人が優雅に笑う。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...