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19、結婚できません1

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「ごきげんよう。
 ワタクシの天使、アイリーン」

 客間の扉をトントンとノックして、部屋に入ったとたん、ソファーに腰掛けていた公爵夫人が大げさに両手を広げて私を抱きしめる。

「このババア。なんかウサンクサイよ」

 サラマンダーの子供に化けて、ワンピースのポケットから顔をのそかせているミーナの声がする。 

「どうかワタクシにめんじて、アランの気の迷いを、許してやってちょうだい。
 誰がどう言おうが、ワタクシは決めているざます。
 マンチン公爵家の嫁はアイリーンしかいないとね」

 夫人に手をひかれて、ソファーに座らせた私は黙ってうつむく。

 私の隣にはまるで舞踏会へいくようなドレスを着た夫人が座っている。

 アラン様と同じ群青色の髪に深みのある瞳。 

   夫人はクールビュテイと評されていた。

 私にはただのキツメめのオバサンにしかみえないけれどだ。

 夫人がそこまで、私を気に入ってくれているとは気がつかなかった。

 今まで、家や学校で嫌われまくってきたので、その気持はありがたい。

「でも、やっぱりアラン様は許せない」

 小さな声で言って唇をかみしめた。

「公爵夫人にこんなに言っていただくなんて、光栄のいたりですわ。
 さっそく式の日取りをきめましょう」

 テーブルをはさんで、向かいに座るカーラが威嚇するような視線をむける。 

「わ、私」

 両手をギュツと握って声をしぼりだす。

「なんだ、アイリーン。
 ははーん。
 見たところ、気後れしているようだな。
 アイリーンごときが、うちみたいな名門に嫁ぐんだ。
 当然だろう。
 けど、安心しろ。
 オレは妻として、オマエには何一つ期待してない。
 うちにきて、死ぬまで、お母様のご機嫌とりをしてくれればいいんだ」

 カーラの隣に足をくんでふんぞりかえって座っているアラン様が、「ガハハハ」と天井を仰いで笑う。

「あの男どこまで脳天気なんだよ」

 ポケットの中でミーナが小さな炎をはく。

「私、アラン様とは結婚できません!」

 立ち上がって、思い切り声をはりあげた。

 とたんに胸がスウーとして、言葉が自然に口をつく。

「妹と結婚するって、私をつきとばしたような人とは絶対に無理です。
 たとえ1秒だって、同じ部屋で同じ空気を吸いたくないんです」

 少しの間、三人は呆然としていた。 

「アイリーン。
 公爵夫人とアラン様に何を言ったかわかっているの」

 1番先に口を開いたのはカーラだ。

 怒りのため頬を紅潮させ、眉がヒクヒク動いている。

「オレが下手にでてるからって、いい気になりやがって」

 カーラが何か言おうとしていると、アラン様が腕をふりあげ立ち上がった。

「気がすむまで叩いて下さい。
 それでも私の気持ちは1ミリも変わりませんからね」

 両手に腰をあててアレン様をにらみ返す。

「その調子だ。アイリーン。負けるなよ」

 ミーナがパチパチと拍手をした時だった。

「オホホホホ。
 アラン、お座りなさい」

 扇に口をあてて、公爵夫人が優雅に笑う。
 
 
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