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12、傷だらけの貴公子
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「ミーナ。
ソーセージのお店はなかなか見つからないわね」
リトルドリームを後にして、町で1番にぎやかな場所に戻ってきた私は、道の両側に立ち並んでいるお店をキョロキョロと見わたす。
「もうちょっと先にあったはず。
行きしなにミーナ、見たもんね」
「周りにどんなお店があったか覚えてる?」
「うん。
黄色いお花をいっぱい売っている花屋さんがあった」
「黄色いお花の花屋さんねえ」
そう言うと、顎に手をそえて首を傾げた。
このあたりには花屋さんは多い。
けど、ミーナの言うような花屋さんは1軒も見あたらないからだ。
「しかたがないわ。
もう少し探してみましょう」
ミーナの見間違いだわ。
きっと光のかげんで他の色の花が、黄色に見えただけよ。
そう思ったけれど、町をぶらつくのは楽しい。
だから、次は裏通りを探してみることにする。
「残念ね。
ここは空き地と空き家ばかりだわ。
人通りもないし、なんとなく不気味ね。
こんな通、はやく出ましょう」
そう言って、キビスをかえした時だった。
「あそこに人が倒れているよ!」
ミーナが、通の奥を指さして叫ぶ。
「わ、ほんとだ」
そう言うやいなや、身体が勝手にそっちへ走りだしている。
『無能なお姉様がかけつけたって、何もできないのに出しゃばりね』
もし、ここにマリーンがいると、こう言って鼻で笑うだろう。
けど、これが私の性格なのよ。
「どうしよう。ミーナ。
この人、もう死んでるかも」
通りの行き止まりになっている所では、いかにも高級そうな服を着た若い男の人が仰向けになって倒れていた。
深い森をおもわすエメラルドの瞳。
太陽のように輝くブロンドの髪。
大理石のような肌、
品格あふれる雰囲気は、まるで貴公子だ。
「お願いミーナ。
表通りへ言って、誰か人を呼んできてちょうだい」
そう言うと、あわててペンダントからミーナをとりはずす。
「わかった。
でも、こんな小さなクマのままじゃ、誰も相手にしてくれないよ」
ミーナは困った様子で私の顔をみあげる。
ミーナは、私の許可がなければ姿を変えることができないからだ。
「そりゃそうね。
じゃあ、若くて綺麗な女の人になれば」
と言いかけていると、
「ううう」
と貴公子が苦しそうな声をあげる。
「よかったわ。
あなた、まだ生きているのね」
そう言って、整った顔をのぞきこむ。
「僕はサクラダのためにもまだ死ねない。
ああ、角笛さえあれば」
貴公子はゼエゼエと荒い呼吸をしながら、閉じていた目を開いて私を見すえた。
「角笛があれば助かるのね」
「そ、そうだ」
苦しげに顔をひそめる男の人の額や、唇からは血がダラダラ流れている。
「安心して。笛はミーナが探しているわ」
そう言うと、自分のシャツの袖をひきさいて血を必死でふいていった。
「やっぱり私は皆が言うとおりの役たたずよ。
こんな時に何もできないなんて。
お母様みたいにギフトももっていない。
使えるのは平凡な魔法だけ」
はがゆくて、悔しくて、気がつけば涙が頬をつたってゆく。
あわてて帽子をぬいで、それで涙をぬぐった時だった。
ポトリと地面に落ちた1粒の涙が、
金色のバラを咲かせたのは。
「あれはゴールデンローズじゃないか」
意識を失いそうにしていた貴公子が、必死で花に手を伸ばそうとしていた。
「ゴールデンローズ?」
私は口をポカンと開けて、目を丸くして驚く。
ソーセージのお店はなかなか見つからないわね」
リトルドリームを後にして、町で1番にぎやかな場所に戻ってきた私は、道の両側に立ち並んでいるお店をキョロキョロと見わたす。
「もうちょっと先にあったはず。
行きしなにミーナ、見たもんね」
「周りにどんなお店があったか覚えてる?」
「うん。
黄色いお花をいっぱい売っている花屋さんがあった」
「黄色いお花の花屋さんねえ」
そう言うと、顎に手をそえて首を傾げた。
このあたりには花屋さんは多い。
けど、ミーナの言うような花屋さんは1軒も見あたらないからだ。
「しかたがないわ。
もう少し探してみましょう」
ミーナの見間違いだわ。
きっと光のかげんで他の色の花が、黄色に見えただけよ。
そう思ったけれど、町をぶらつくのは楽しい。
だから、次は裏通りを探してみることにする。
「残念ね。
ここは空き地と空き家ばかりだわ。
人通りもないし、なんとなく不気味ね。
こんな通、はやく出ましょう」
そう言って、キビスをかえした時だった。
「あそこに人が倒れているよ!」
ミーナが、通の奥を指さして叫ぶ。
「わ、ほんとだ」
そう言うやいなや、身体が勝手にそっちへ走りだしている。
『無能なお姉様がかけつけたって、何もできないのに出しゃばりね』
もし、ここにマリーンがいると、こう言って鼻で笑うだろう。
けど、これが私の性格なのよ。
「どうしよう。ミーナ。
この人、もう死んでるかも」
通りの行き止まりになっている所では、いかにも高級そうな服を着た若い男の人が仰向けになって倒れていた。
深い森をおもわすエメラルドの瞳。
太陽のように輝くブロンドの髪。
大理石のような肌、
品格あふれる雰囲気は、まるで貴公子だ。
「お願いミーナ。
表通りへ言って、誰か人を呼んできてちょうだい」
そう言うと、あわててペンダントからミーナをとりはずす。
「わかった。
でも、こんな小さなクマのままじゃ、誰も相手にしてくれないよ」
ミーナは困った様子で私の顔をみあげる。
ミーナは、私の許可がなければ姿を変えることができないからだ。
「そりゃそうね。
じゃあ、若くて綺麗な女の人になれば」
と言いかけていると、
「ううう」
と貴公子が苦しそうな声をあげる。
「よかったわ。
あなた、まだ生きているのね」
そう言って、整った顔をのぞきこむ。
「僕はサクラダのためにもまだ死ねない。
ああ、角笛さえあれば」
貴公子はゼエゼエと荒い呼吸をしながら、閉じていた目を開いて私を見すえた。
「角笛があれば助かるのね」
「そ、そうだ」
苦しげに顔をひそめる男の人の額や、唇からは血がダラダラ流れている。
「安心して。笛はミーナが探しているわ」
そう言うと、自分のシャツの袖をひきさいて血を必死でふいていった。
「やっぱり私は皆が言うとおりの役たたずよ。
こんな時に何もできないなんて。
お母様みたいにギフトももっていない。
使えるのは平凡な魔法だけ」
はがゆくて、悔しくて、気がつけば涙が頬をつたってゆく。
あわてて帽子をぬいで、それで涙をぬぐった時だった。
ポトリと地面に落ちた1粒の涙が、
金色のバラを咲かせたのは。
「あれはゴールデンローズじゃないか」
意識を失いそうにしていた貴公子が、必死で花に手を伸ばそうとしていた。
「ゴールデンローズ?」
私は口をポカンと開けて、目を丸くして驚く。
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