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11、スイーツのような物語 ブランチ視点

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「実はマカロン夫人は風邪をこじらせてしまっていて。
 物語を書くのもお休みしていたんです」

「そうだったんだ。
 夫人が物語を書くのをやめてしまったんじゃないかって、心配していたんだよ。
 夫人の作品はどれも人気でね。
 新作を首を長くしてまっている読者さんが大勢いるから」

 私は、そう言いながらハリス君から受け取った原稿に目を通す。

 いや、正確にいえばハリス君じゃない。

 アイリーンリーフ伯爵令嬢だ。

 そして私は元ブランチリーフ伯爵である。

 現在は転生して、町の小さな貸本屋「リトルドリーム」のオーナとして生きているが、前世では初代リーフ伯爵家の当主だった。

 突然前世の記憶と魔力を取り戻したのは、アイリーンが化けたハリス君を一目見た時だ。 

 あの時のことは今でもはっきりと覚えている。

「こんにちわ。
 僕はハリスブレーンといいます。
 今日はマカロン夫人に頼まれて、夫人が書いた物語を持ってきました」

 店の扉につけた大きなベルを鳴らして、現れた少年と目があったとたん、激しい頭痛におそわれた。

 もえるような若草を彷彿させる淡い緑の瞳。 

 光の加減により銀色にも金色にも、ピンク色にも見えるそれは、脳裏に私の前世をフラッシュバックさせたのだ。

「あの瞳の色は、リーフ伯爵家の血をひいている証拠だ」

 思わず口から言葉がこぼれおちた。

「ハリス君。
 変な事をきくが、君はリーフ伯爵家と関係があるのかな」

「ちがいます。絶対にちがいます」

 ハリス君は顔をひきつらせると、とっさに店から出て行こうとして、あわてて本棚に身体をぶつけてしまう。

 その時だった。

 ハリス君の頭からハンテング帽がずれおちて、瞳と同じ色の豊かな髪がこぼれおちる。

「ハリス君は女の子だったのかい?」 

「ごめん。ごめん。
 女の子みたいに可愛い顔をしてたから、まちがえてしまったよ。
 それと7日後にまた店にきてくれるかい。
 それまでに原稿を読んでおくから、お店で預かれるかどうかはその時知らせるよ」

 みるみる青ざめてゆくハリス君が気の毒で、だまされたフリをして話題をかえた。

「へへへ。よく言われるんですよ。
 じゃあ、よろしくお願いします」

 ハリス君が小さな頭をペコリと下げて、お店をでていってからすぐに、探偵をやとってリーフ家について調べさせたのだ。 

「本当の名前はアイリーンリーフというのか」 

 数日後に探偵から渡された報告書を読んで、アイリーンの評判の悪さに驚いた。

「小さな頃から義妹のイジメ続けていた。
 素行が悪く貴族学園を中退している。
 今は邸の離れでひきこもり中。
 そんな子には見えなかったぞ」

 私は報告書を手で握りつぶし、自分の目を信じることにしたのだ。

 できれば、アイリーンの力になりたかった。

 それで少し魔法を使ったのだ。

 多くの読書の目にとまるように、マカロン夫人の本の表紙がキラキラと光り輝くように。
 
 
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