妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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10,スイーツのような物語

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「実はマカロン夫人は風邪をこじらせてしまっていて。
 物語を書くのもお休みしていたんです」

「そうだったんだ。
 夫人が物語を書くのをやめてしまったんじゃないかって、心配していたんだよ。
 夫人の作品はどれも人気でね。
 新作を首を長くしてまっている読者さんが大勢いるから」

 ブランチさんは、そう言いながら私から受け取った原稿に目を通す。

「ほ、本当ですかあ!
 とっても喜しいです!」

 私は思わずその場でピョンとはねる。

「まるで自分が書いたかのように感激するんだ」

 ブランチさんは原稿から顔をあげると、指でメガネのツルを押し上げながら、私の顔を見上げる。

「そう見えますかあ」

 本当は私が書いているのよ、とはさすがに言えない。 

 曖昧な笑いをうかべて頭をかいた。

「ははは」

 ブランチさんは、とても穏やかな声をあげて笑う。

 メガネのレンズ越しからでもわかる優しい視線に見つめられると、嘘をついているのが申し訳なく思ってくる。

 それはミーナも同じようだ。

 私と同じように頭をかいていたから。

「それはそうと。
 今度の物語も面白そうだね。
 でだしを読ましてもらってそう感じた」

「ありがとうございます。
 マカロン夫人にも伝えておきます。
 きっと喜ぶでしょう。
 1つ聞いてもいいですか?」

「なんだね」

「夫人の読者さんは主にどういう人が多いのですか?」

「そうだな。
 ハリス君と同じ年頃の少女が多いかな。
 だぶん、彼女たちの大半は身なりからして、平民だと思う。
 そうだ。
 ある女の子はこう言ってたな。
『マカロン夫人の物語は、私にとっては心のスイーツなんです。
 甘くてフワフワして、一瞬でも夢をみさせてくれるの』
ってね。
 その子はね。
 継母から辛くあたられているらしいんだ」

 そう言うとブランチさんは太いため息をついた。

「何もしてあげれない自分が情けないよ」
と。

 それから、すぐにキリリと顔をひきしめて仕事の顔にもどる。

「ハリス君。
 はい。これは今月の代金だ。
 受け取りのサインを頼むよ」

 ブランチさんは小さな巾着袋をカウンターへ置いた。

「あれ。見た感じ先月より多くないですか」

「ハリス君は鋭いね。
 今月から1人あたりの単価を上げさしてもらったんだ。
 マカロン夫人にそうお伝えしておいて」

「わーい。
 ありがとうございました!」

 私の大きな声にブランチさんが目を丸くして驚いている。

 次回作もがんばります!

 私なんかがかいた物語を、心のスイーツなんて言ってくれた女の子の為にも。
 


 
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