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9、マカロン夫人とハリス君

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 翌日、厨房で朝食の準備を手伝ってから、ミーナつきペンダントをつけて、邸の裏門からこっそりと町へでる。

 昨夜完成した原稿を貸本屋さんに置いてもらいにいくのだ。

 この事はマリーン達には秘密にしている。

 あの人達は、私から楽しみを奪うのが生きがいのようだから、バレると何をされるかわからない。

 念のため貸本屋さんへいくときは、いつも男の子の格好をしているのだ。

 ありふれたシャツにハーフパンツ。

 度のはいってない黒メガネ。

 目立つ色の髪はまるめて、ハンテング帽子の下にかくしている。

 これらは町の古着屋でそろえたのだが、動きやすくてけっこう気に入っている。

「ねえ。ミーナ。
 今朝の朝食のソーセージ、中にチーズがはいっててすごく美味しかったわね。
 あんなの初めて食べたわ。
 もし、町で同じ物を見かけたら、買ってかえりましょう」

 食事は3食とも本宅ではとらせてもらえていない。

 毎日、厨房で使用人達と一緒にマカナイ飯をいただいている。

 まあ。

 カーラやマリーンの嫌味を聞きながら食べるより、よっぽど気楽でいいけどね。

「切れ端であんなに美味しいんだもん。
 1度でいい。
 まるごと1本食べてみたいわね」

「ねえ。アイリーン。
 帰りに、お茶を飲みにいく約束も忘れてないよね」

 ミーナが大きな丸い瞳で、心配そうに私を見上げる。

「忘れてないわよ。
 私も楽しみにしてるんだもん」

「やったあ。
 今日はいつものケチンボアイリーンじゃないんだ」

「このところマリーンにイライラさせられっぱなしだから、ストレス発散するのよ」 

「その考え、大賛成だあ。
 美味しいものを、ジャンジャン買いまくりだ!」

 ミーナがパチパチと小さな手をうつ。

 雑貨、スイーツ、洋服、スパイスと広い道の両端には様々なお店が立ち並んでいる。

 そんな町は歩くだけでも気持ちが弾む。 

 邸からでて20分ほどたった頃だろうか。

 三角の緑の屋根をした小さなお店に到着する。

 お店の名前は、リトルドリーム。

 私に希望をあたえてくれた貸本屋さんだ。

「おひさしぶりでーす」

 白い扉を開くと、すぐに大小の本がズラリと並べられた空間がひろがる。

 店内には目をキラキラさせて、自分のお気に入りの本を探しているお客さんが数人いた。

「ひさしぶり、ハリス君。
 やっとマカロン夫人の新作ができたようだね」

 奥にある原稿お預かりコーナーへ進むと、椅子に座って店番をしていなイケオジ様が、さっそく私に気がついてくれる。

 銀のフレームのメガネが似合うオジ様はリトルドリームのオーナーでブランチさんという。

 あと、マカロン夫人というのは私のペンネームだ。

 ハリス君というのも私よ。

 マカロン夫人の使用人のハリス少年が、夫人の書いた物語をリトルドリームに持ってくる。

 ここではそういう設定になっているのだ。
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