妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

文字の大きさ
上 下
10 / 60

9、マカロン夫人とハリス君

しおりを挟む
 翌日、厨房で朝食の準備を手伝ってから、ミーナつきペンダントをつけて、邸の裏門からこっそりと町へでる。

 昨夜完成した原稿を貸本屋さんに置いてもらいにいくのだ。

 この事はマリーン達には秘密にしている。

 あの人達は、私から楽しみを奪うのが生きがいのようだから、バレると何をされるかわからない。

 念のため貸本屋さんへいくときは、いつも男の子の格好をしているのだ。

 ありふれたシャツにハーフパンツ。

 度のはいってない黒メガネ。

 目立つ色の髪はまるめて、ハンテング帽子の下にかくしている。

 これらは町の古着屋でそろえたのだが、動きやすくてけっこう気に入っている。

「ねえ。ミーナ。
 今朝の朝食のソーセージ、中にチーズがはいっててすごく美味しかったわね。
 あんなの初めて食べたわ。
 もし、町で同じ物を見かけたら、買ってかえりましょう」

 食事は3食とも本宅ではとらせてもらえていない。

 毎日、厨房で使用人達と一緒にマカナイ飯をいただいている。

 まあ。

 カーラやマリーンの嫌味を聞きながら食べるより、よっぽど気楽でいいけどね。

「切れ端であんなに美味しいんだもん。
 1度でいい。
 まるごと1本食べてみたいわね」

「ねえ。アイリーン。
 帰りに、お茶を飲みにいく約束も忘れてないよね」

 ミーナが大きな丸い瞳で、心配そうに私を見上げる。

「忘れてないわよ。
 私も楽しみにしてるんだもん」

「やったあ。
 今日はいつものケチンボアイリーンじゃないんだ」

「このところマリーンにイライラさせられっぱなしだから、ストレス発散するのよ」 

「その考え、大賛成だあ。
 美味しいものを、ジャンジャン買いまくりだ!」

 ミーナがパチパチと小さな手をうつ。

 雑貨、スイーツ、洋服、スパイスと広い道の両端には様々なお店が立ち並んでいる。

 そんな町は歩くだけでも気持ちが弾む。 

 邸からでて20分ほどたった頃だろうか。

 三角の緑の屋根をした小さなお店に到着する。

 お店の名前は、リトルドリーム。

 私に希望をあたえてくれた貸本屋さんだ。

「おひさしぶりでーす」

 白い扉を開くと、すぐに大小の本がズラリと並べられた空間がひろがる。

 店内には目をキラキラさせて、自分のお気に入りの本を探しているお客さんが数人いた。

「ひさしぶり、ハリス君。
 やっとマカロン夫人の新作ができたようだね」

 奥にある原稿お預かりコーナーへ進むと、椅子に座って店番をしていなイケオジ様が、さっそく私に気がついてくれる。

 銀のフレームのメガネが似合うオジ様はリトルドリームのオーナーでブランチさんという。

 あと、マカロン夫人というのは私のペンネームだ。

 ハリス君というのも私よ。

 マカロン夫人の使用人のハリス少年が、夫人の書いた物語をリトルドリームに持ってくる。

 ここではそういう設定になっているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

yanako
恋愛
なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...